前世編/暴君皇帝③
◇◇◇
———皇帝の私室。
「それを教えたお前の母親は、どうしたのだ?」
私は皇帝のそばにいた。
あの一件の後すぐにだ。
ここは皇帝の私室で、奥には寝室もある。
なぜ私のような者が皇帝のそばに?
遡ること、数時間前。
あの後、皇宮の敷地内にある西の塔に通された私とローアルは、使用人部屋を隣同士で使うようにと言われた。
質素な部屋には服を仕舞うスペースと、小さなベッドと薄い毛布があった。
その他には特に何もない。
使用人が着る服を一着渡され、洗濯は自分達でするようにと言われた。
また、食事は配給制で、定時に自分たちで取りに来るようにと。
共同風呂は、3日に1度だけ入っていいらしい。
ただ、二人一緒の部屋で寝てはいけないと言われた。
結局そこで厨房に配給を取りに行き、ローアルの部屋で二人でご飯を食べた。
だがその場に城の兵がやってきた。
「皇帝陛下がお呼びだ。ただし、エステレラのみだ。」
それを聞いたローアルが不安そうな顔をして、私の服の袖を掴む。
「心配しないで。」私はローアルを安心させるように笑いかけた。
でも、あの皇帝がなぜ私だけを?
娘のお気に入りのローアルを手に入れるため、邪魔な私を殺す可能性も十分にある。
本当は恐ろしくて堪らなかった。
しかし私室に入っても皇帝は、いたって紳士的な対応をした。
そして用意させた生地と道具を渡して、目の前でさっそく刺繍をするようにと言った。
受け取ったのはどうやらトルメンタ帝国に流通している高級生地のようだった。
始めは皇帝がそばにいることにで緊張が増し、うまくできなかった。
だが覚悟を決めて、刺繍を始めた。
皇帝は人払いをし、私の真向かいのソファに座り、それを黙って眺めていた。
不思議な人だ。
“お前の母親はどうしたのだ?”
なぜそんなことを聞きたがるのだろうと思いながらも、質問に答えなければと口を開いた。
「私の母親はある日を境にいなくなりました。
理由は貧しかったせいだと思います。」
「そうか。恨んだりしなかったのか?」
「恨みはしませんでした。
スラム街では、親が子供を育てきれずに捨てるのが、当たり前の世界だったので。」
「ふむ…」
またしても疑問が湧きあがった。
ずっと冷血な皇帝は、貧民を差別し迫害していると聞いていた。
それなのに何故あんな場所に、この人たちは立ち寄ったのだろうか?と。




