前世編/幸せだった①
「君は、誰?」
ローアルと出会ったのは、帝都の外れにある貧しいスラム街だった。
———ここ北のトルメンタ帝国を治める現皇帝は、血も涙もない暴君として有名だった。
彼は貧困層や、高い税を払えない人々を容赦なくスラム街へと追いやった。
そのスラム街では、飢えや病で命を落とすのが日常で———。
凍てつく大地に、小鳥の羽のような雪がちらちらと舞っていた。
銀色の髪と、オーロラのような薄紫の瞳を持つ少年は、寒さに震えながら白い息を吐いていた。
「君は、誰?………親はいないの?」
「……いない。
もしかして、あなたもそう?」
「……うん。」
無気力に尋ね返すと、彼はつられたように頷いた。
じっさい私に名前はなかったし、自分の父親が誰なのかも知らなかった。
母親はいたが、なぜか憎まれていた。
しかしその母親も数日前に姿を消し……
要するに私は捨てられた子供だった。
粗末な我が家には一欠片のパンさえ残ってなくて、その時の私はとにかく飢えていた。
外に出れば、似たように痩せ細ったスラム街の人々が、無気力に行き交うだけの現実。
誰もが自分のことで精一杯。振り返る人など一人もいない。
私はただそれを一日中、茫然と眺めていた。
こうやって捨てられた子供は誰かに救われることもなく、たったひとりで虚しく死んでいくのだろう。私もきっと………
だけど、彼だけが私を見つけてくれた。
「僕はローアル。君は?」
「……分からない。名前はないの。親につけてもらえなかったから。」
ローアルと名乗った少年はどこからかふらっと現れて、私の前でぴたりと立ち止まった。
身につけているのは薄っぺらな衣服。
手足は私と同じように血の通わない色をしていた。
それでもどこか品のある。
「…一人で辛かったね。」
彼は、悴んでいる私の手をそっと握った。
知らなかった。
冷たい手でも、こうやって誰かと合わせれば温かくなるということを。
やがて彼は、何かを決心したような瞳をして私を立ち上がらせた。
「とにかく、ここは寒いから暖を取った方がいい。…僕と行こう。」




