ラブ & エスパー
こんにちは、ババオウです。
本日は、私の初めての短編小説『ラブ&エスパー』を公開いたします。読みに来てくださって、本当にありがとうございます!
本物の恋愛経験ゼロの奥手な主人公・佐藤恵理が、ひょんなことから手に入れた「エスパー能力」を使って、恋愛成就を目指すお話です。
ぜひ最後まで楽しんでいただけると嬉しいです。
佐藤恵理、独身歴=年齢の二十三歳。都内の古いビルに入った中堅企業で事務員として働く彼女は、一見、どこにでもいる「平成」の終わりを生きる地味な会社員だ。和風の落ち着いた柄が好きで、デスク周りには小さな招き猫の置物が鎮座している。
しかし、その実態は、二年間で能力を磨き上げた「感情の熟練エスパー」である。
「よし、そろそろ部長の機嫌をチェックしなきゃ」
恵理は静かに目を閉じた。集中すると、周囲の感情が「心の湿度計」のように感じられる。
(田中係長:湿度40%・青色…退屈。山本先輩:湿度75%・薄ピンク…今日のランチに期待)
そして、フロア奥の部長席に向けて、意識を鋭く研ぎ澄ませる。
(部長:湿度95%・濃いドス黒い赤色!)
「ッ!」
恵理はすぐに目を開いた。これは「大噴火アラート」。この湿度と色は、部長が今、尋常ならざるストレスと怒りの感情の渦中にいることを示している。
「今日は決裁書類の提出はやめておこう……」
能力に目覚めてからの二年。恵理は、この「感情の濁流聞き分け」と「心の湿度計」を駆使し、日常の小さなリスクをすべて回避してきた。取引先の商談では、相手の「欲しい」という潜在的な願望を感じ取り、完璧なタイミングで提案を成功させた。
そして、この能力は、もちろん恋愛にも活用されてきた。
「デート平へいきを重ねた甲斐があったわ……」
過去二年で、恵理は能力を使ってアプローチしてきた男性を十人以上落とした。食事中の「今、この話退屈だな」という心の声を察知し、瞬時に関連する面白い話題に切り替える。別れ際、「もう少し一緒にいたいな」という願望を感じ取り、完璧なタイミングで「じゃあ、もう少しだけ」と引き留める。失敗知らずの、無敵の恋愛エスパー。
だが、どの恋も長続きしなかった。なぜなら、彼女は「能力で落とした恋」に、どうしても本気になれなかったからだ。
そんな恵理の日常に、新たなターゲットが現れた。
神谷颯太。二つ隣の部署の営業エースで、太陽のような明るさと優しさを持つ男性だ。彼がフロアに入ってきた瞬間、周囲の女性社員たちの感情が、一斉に「薄ピンク」から「明るいオレンジ」へと跳ね上がるのが分かった。
(私……あの人がいい)
恵理は久々に、能力で制御できない、純粋な「恋」の感情に襲われた。
これは、練習ではない。これは、本番だ。
「よし。やるわよ、恵理。二年間磨いた能力の奥義、【潜在的な願望の感知】で、彼を私に恋に落とす!」
決意した恵理は、たまたまコピー機の前で二人きりになった神谷に近づいた。能力を極限まで集中させる。
まずは、彼の心のノイズを聞き分け、彼自身の「潜在的な願望」にアクセスする。
キーン!
能力が発動し、ノイズの濁流が一瞬でクリアになる。恵理の心の湿度計が、彼の感情を捉えた。
(神谷:湿度100%・眩しい金色)
「え……?」
恵理は息を飲んだ。彼の感情は、単なる「楽しい」や「疲れた」といった日常的なものではなかった。それは、「満たされた愛」、「絶対的な幸福」、そして「誰かへの強い感謝と愛情」の感情の塊だった。そのあまりの輝きと強さに、恵理のエスパー歴で初めて、恐怖を覚えた。
(この感情は……私に向けられたものではない)
恵理は理解した。彼には、すでに深く愛し合っている恋人がいるのだ。そして、その愛は、恵理のどんな高度な能力をもってしても、微動だにさせられないほど、強固で絶対的なものだった。
「佐藤さん?どうかしましたか?顔が真っ青ですよ」
神谷が優しく声をかける。
「あ、い、いえ!何でも……その、コピー機が、熱いですね!」
恵理は、能力を急いでオフにした。
能力が敗北した。二年間、彼女を支え、勝利をもたらし続けてきた最強のツールが、たった一人の男性の「愛」の前で、完全に無力だった。
(無理だ……こんな、満たされた感情に、私の小手先の技術が勝てるわけない)
その日、恵理は仕事が手につかなかった。しかし、午後の休憩時間、神谷が一人で休憩室にいるのを見て、最後の作戦を決行した。
「能力で彼を恋人にすることはできない。でも……人間として、彼に『最高の体験』をさせることはできる」
恵理は、彼のために買ってきた和風の甘味(最中)を手に、休憩室に入った。
神谷は、デスクで少し疲れた様子で、スマホを見ていた。恵理は、すぐに能力をオンにする。彼の心の湿度計は、まだ「金色」ではあったが、そこに微かな「疲労」と「甘いものが食べたい」という潜在的な願望が読み取れた。
チャンスはここだ。恵理は、奥義の一つ、【感情の共鳴/揺さぶり】を使った。
「神谷さん、お疲れ様です。お忙しそうでしたから……よかったら、どうぞ。これ、美味しい和菓子なんです」
恵理は最中を差し出した。同時に、彼女自身の「優しさ」と「癒し」の感情を強く高め、それを神谷の心の揺らぎにぶつける。感情の波紋を広げるのだ。
神谷は驚いた顔で最中を受け取った。
「え、あ、ありがとうございます。最中、好きなんです。なぜ分かったんですか?」
「偶然です、偶然!」(嘘だ、心の声を盗み聞きしたんだ!)
彼が最中を一口食べた瞬間、恵理は彼の感情の変化を感じた。
(神谷:癒される……。このタイミングで、甘いもの。なんて気の利く人なんだろう)
感情の揺さぶりは成功した。彼は恵理に、一瞬、恋人に向けるような純粋な「好意」の感情を向けた。それは、恵理の人生で受け取った中で、最も美しい感情の一つだった。
しかし、その直後、彼の感情はすぐに「金色」に戻る。
(神谷:これで、また頑張れるな。彼女にも、お土産買って帰ろう)
彼の心の声は、恵理の功績を、遠く離れた恋人への愛の燃料に変えてしまったのだ。
恵理は、彼から向けられた「好意」と、その後に続いた「恋人への愛」を同時に受け取り、静かに能力をオフにした。
「……負けだ」
能力は、人の心を一瞬揺さぶることはできても、すでに満たされた人の愛を、上書きすることはできない。恵理の二年間は、無敵ではなく、「まだ本気の愛を知らない相手限定の無敵」だったのだ。
彼女は、静かにその場を立ち去ろうとした。
「佐藤さん!」
神谷が呼び止めた。
「今日は本当にありがとう。佐藤さんの気遣いと優しさ、心から嬉しかったです。君って、本当にすごいね」
彼の心の声は聞こえない。だが、彼の笑顔は、偽りのない「感謝」を示していた。
(エスパー能力じゃなくて、私自身の優しさが、彼の心に届いた)
恵理は、初めて能力に頼らず、心から笑った。
「いえ、また何かあったら、いつでも言ってください」
本物の恋愛未経験歴=25年。その記録はまだ破られていない。しかし、恵理は気づいた。
「人を恋に落とす道具」として磨いた能力は、「人を幸せにし、感謝されるためのツール」としても使えるのだと。
彼は振り向かない。だが、恵理は知っている。自分が磨き上げたこの「優しさ」と「気遣いの技術」は、いつか必ず、彼女自身を心の底から愛してくれる誰かに届く。
佐藤恵理の「ラブ&エスパー」は、本物の恋愛経験ゼロのまま、次のステップへと進み始めた。
『ラブ&エスパー』を最後までお読みいただき、ありがとうございました!
これは、小説家になろうで書く私の初めての作品です。書き慣れない部分も多々あるかと思いますが、楽しんでいただけたでしょうか?
主人公の恵理は、能力が通用しない最大の壁に直面し、ほろ苦くも一歩大人な決断を下しました。
もし、
「この展開が面白かった!」
「次の話はこうなったらもっと読みたい!」
「こういうエスパー能力の使い方が面白いと思う」
など、ご感想やご意見がありましたら、ぜひコメントで教えてください。皆様からのコメントが、今後の執筆の大きな励みになります!
また次のお話でお会いできることを楽しみにしています。




