第一章 隔たれた世界
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世界が二つに分たれ、ずいぶん長い歳月が流れたものだ。途中までは暦を数える者もいたが、最近ではそれも無意味かと囁かれている。確かなことは、二代目の子供たちが、まもなく大人になることだ。子供たちは親とは異なり、なぜ自分たちが今ここに暮らすのか、その詳しい理由を知らない。過去になにがあったか、大人たちが話そうとしないからだ。決して幸せな話ではないからして、それを語ることすら禁忌とされた時代もあった。
地平線や水平線の彼方を見つめ、ともすれば涙を流す大人たちがいる。ただの物思いや黄昏ではない。住む家もあれば、家族もいるのに、とても悲しげな横顔なのだ。事情を知らぬ者からすれば、いささか奇妙に映る光景であろう。そのとき、子供たちはようやく気づくのだ———見つめる先の、山々や海原の、そのずっと向こう側に、なにかがある。そこへ行きたくても、父や母は行けずにいるのだと。
あるとき、陽が暮れても空を眺める父に、迎えに来た娘が問うたことがあった。
「お父様、なにをそんなに眺めてるのですか?」
父は娘を抱き寄せ、膝の上に乗せると、星を指さしてこう言った。
「ごらん、あの空に輝く星の一つ一つが、かつてこの世界に生きた命なんだよ。私はそれを眺めながら、昔を思い出していたのさ」
数多の星々の中で、父は一際輝く星と、その隣りで輝く星を指し、あの二つが「悲恋星」だと、娘に諭したのだった。
この世界———サンツァルザーマの住人なら必ず守らねばならぬ掟が一つある。「何人たりとも境界線を越えてはならぬ」という掟が、先代から頑なに守られてきた。それだけが、神々がこの地に住まうのに下した唯一の定めだったのだ。もしも誰かが、一歩でも一線を越えようものなら、晴天の空はたちどころに陰り、落雷が落ちるという。さいわい、今でも犠牲者は出ていないが、撃たれかけた者は数人いたと聞く。
境界線とは文字通り、向こう側の世界とこちら側を隔てるものである。山にも、森にも、そして海にも敷かれている。たいていは足場の危うい場所にあるので、大方の民は境界線から遠く離れた平地に定住した。神々もそれを承知のうえで、わざと境界線に近寄れぬよう、地形を険しくしたのだ。
だがしかし、歴史に残る出来事は、いつもこの境界線で起こった。私がこれから語るのは、ひそかに境界線を越えて結ばれた二人の物語である。やがて二人の間に生まれる子供は幾多の困難を乗り越え、このサンツァルザーマの歴史を変えることとなる。これは神々の下した禁忌を犯しながら、一方で唯一の赦しを得られた家族の物語である。
*
光を寄せつけぬ深い森があった。まっくら森や、恐ろし森とも呼ばれるが、正式にはネブラの森と名前がついている。
きっとリスがドングリを埋めすぎたのだと語られるが、森が深い本当の理由は他にあった。この森を跨ぐ境界線の向こう側、そこにある神々の世界から、大地の恵みが森を伝い、サンツァルザーマを肥やしている。繋ぎ役を担う森が樹海となるのは、しごく納得がゆく。だがそれを知るのは村の長ぐらいなものだった。それよりも、誰も森へ近寄らせぬほうが、長には先決であるからして、ネブラの森は必要以上に恐ろしい場所として語り継がれた。そんな話を聞かされれば、子供たちが迷信深く育つのも無理はない。
その森を果てしなく北へ進み、中ほどまでくると、かの境界線がある。その境界線に、一人の青年がひっそりと暮らしていた。青年の名前はグラディスといった。はたから見れば森の番人だが、彼はれっきとした戦士である。神々の住まうシュプールサーマの密命を受け、ネブラの森に現れる怪物を退治すべく、独りで森に住んでいる。
この時代、ネブラの森には得体の知れぬ怪物が棲みついていた。姿形は異なれど、彼らはどれも翼を持ち、ときどき村を襲いにやってくる。
得体の知れぬ怪物がはじめて現れたのは、まだグラディスが森へ配属される前のこと。ある年の白昼堂々の出来事だった。
太陽が雲に翳り、すっぽりと隠されたとき、ウルラの丘に放たれたヒツジめがけ、翼を持った怪物が稲妻のごとく現れた。それが群れの一頭を鷲掴みにすると、その場でヒツジの頭を喰いちぎった。怪物の口の中でゴリゴリと、骨を噛み砕く音が響く。
信じがたい光景を目の当たりにした羊飼いの少年は一目散に村へと走り、今しがた見たことを洗いざらい話して聞かせた。話の途中、牧羊犬をも置き去りにしたことを思い出し、動揺はさらに激しさを増した。
最初は誰も少年の話を信じなかった。それどころか目も合わせようとしなかった。この平和なサンツァルザーマで、かような怪異が起こるはずがないと、誰もが安心しきっていたからだ。
少年はたまらず大声をあげた。その様子があまりに尋常でなかったので、村人は仕方なくウルラの丘へ様子を見に向かった。そこで大人たちが目にしたのは、当たり前一面が血の海と化した丘だった。一塊となったヒツジたちが、岩陰でガチガチ震えている。少年の姿を認めると、ヒツジたちは縋るような眼差しで彼の元へ駆け寄った。牧羊犬は小柄ながらにも、ヒツジたちを守っていたのだ。
「あぁ、ごめんよ、ごめんよお前たち。お前たちを置いて行くなんて、ボクはなんてバカだったんだ」
腸の裂かれたヒツジたちは息も絶え絶えに、まもなく息を引き取った。村人たちは恐れおののき、腰を抜かして卒倒した。
「さっきは疑って悪かった。もう一度、どんなバケモノだったか詳しく話しておくれ」
村人たちが羊飼いの少年へ詰め寄る。
「それが———上手く言えないんだけど———ワシみたいな翼を持ってるのに、ライオンみたいな体つきだったんだ。それが物凄い速さで飛んできて、ヒツジを一頭ひっつかんで、そのまま食べはじめたんだよ」
少年は泣きべそをかきながら説明した。可愛いヒツジが殺されたのだ。誰もが少年の話を想像しながら、血まみれの丘を目に焼きつけた。滴る血の痕を追ってはみたものの、怪物の居場所を突き止めることは叶わなかった。
この怪異を発端として、昼夜を問わずに怪物は姿を現すようになった。特に境界線を跨ぐネブラの森では、怪物の姿を見たり、その哭き声を聞く者が相次いだ。ラマや、アルパカや、ヤギなど、糸を紡ぐ獣ばかりが狙われた。ウルラのヒツジもそうである。彼らを家畜のように扱った戒めとも囁かれたが、毛を刈るだけで殺めてはいない。
怪物の姿はライオンだけに留まらず、一部がヘビやサソリの姿をしていたり、その頭は自分たちと同じような顔つきをしていたと言い張る者も現れた。証言の違いから、怪物は一頭や二頭の比ではないことが危ぶまれた。
サンツァルザーマの民は森を恐れる以上に、この怪物を忌み嫌った。世界が隔たれる前までは、かような怪物なぞこの世に存在しなかったからだ。家屋を壊し、ウシやヒツジを連れ去る。平和を脅かす一番の災いが、この怪物であった。
このとき誰もが、まだ気づきもしていなかった。怪物は目に見えるほんの上澄みでしかなかったのだ。この怪物のせいにされた恐るべき陰謀が、遥か別次元の世界で蠢いていたのだ。
*
この怪物を退治すべく、神々から密命を受けたのが、グラディスであった。
グラディスはラクトリエ国の出自である。ラクトリエはシュプールサーマきっての軍事国で知られ、選ばれし者だけが戦士になれる。グラディスはその養成過程の時分から、凄腕の剣士として名を馳せていた。成人を迎え、任務が与えられる時期になると、本人たっての希望もあり、グラディスの配属はネブラの森と決まった。
静かな場所で本を読んだり、絵を描くのが好きだったグラディスは、血生臭い稽古場からようやく解放されたのを密かに喜んでいた。仲間たちから惜しまれ、盛大に見送られたのが、まるで昨日のことのようである。
森は———想像を絶するほどに深かった。光の届かぬ場所もあり、迷えば最後、抜け出せる見通しは立たない。延々と続く樹海のうねりは両界を跨ぎ、何十年もの間、ひっそりと静寂だけを保っていた。その静寂の直中に身を置き、見張りを続けるグラディスは、一人気ままな生活を心底楽しんでいた。両界の民がこの界隈を避けはしても、見方を変えれば動物たちの戯れる神秘の森に違いない。本でしか見たことのない珍しい草花や鉱石を見つけるたびに、彼は手帳へそれらをスケッチした。
不可解なのは、森を見張ってからこのかた、グラディスはバケモノに一度たりとて遭遇していないことだ。これでは誰もネブラへ赴く必要などないほど、森は平穏そのもの。だがグラディスという男は知らぬうちにバケモノと対峙していたのだ。姿を消せるもの、息をひそめるもの、木陰より覗くもの。それらがグラディスを見るとき、戦わずして彼の力を畏れ敬い、立ち去るのである。
グラディスも気配こそ感じれど、振り向きざまに影はない。結果、バケモノたちは悪さに至らず、おとなしく身を潜めるのだが、グラディス自身は、まるでそのことに気づいていない。
あれはいつだったか、妖に遭遇した者の話が出回ったときがあった。女の顔と獅子の胴を持ち、我らと同じ言葉を繰り、なにやら不可解な謎かけを持ちかけるのだという。謎かけに答えられなかった者の行方は、いまだ知られていない。
斬るより先に言葉が通じれば、彼らの言い分を聞かぬでもない。この森ならば、それらが日常茶飯事でも不思議ではなかろう。
静けさに身をおくグラディスは、森の怪異から民を守らねばならぬ立場にありながら、時折りそんなことを考える。それがグラディスという好漢であり、好ましさであった。
半年が過ぎ、一年が過ぎた頃、彼の運命を変える出来事が起こった。その日グラディスが訪れたのは、オルス湖と呼ばれる湖だった。湖は広く、その水は清らかである。森にはスピリア川という川が横たわるが、オルス湖はスピリア川とは繋がっていない。源泉は湖の奥深く、シュプールサーマのロメナに通じているとも言われている。開けた視界は開放的で陽当たりもよく、グラディスはこの湖をとても気に入っていた。
目には見えぬが、この湖には境界線が敷かれている。湖の両端に聳える一番背の高い樹。この樹と樹を結ぶ線が境界線だった。湖畔に腰掛け、しばし休憩を取る。そよ風が水面を凪ぎ、それからグラディスのほてった頬を撫でた。研ぎ石で剣を磨く音ばかりが響き渡る。彼の大切な日課の一つである。
太陽が天中から傾いた頃。サンダルの紐を締め直したグラディスがふと顔をあげると、対岸に立つ娘の姿が目に留まった。腰をかがめ、水を汲もうとしている。
グラディスは膝を立て、すばやく腰の剣を引き寄せた。目の合った娘はびっくり仰天し、肩から水瓶をドボンと落としてしまった。 グラディスは慌てて剣を鞘に納めた。
だが時すでに遅く、水瓶は重みに任せ、ブクブクと沈んでしまった。二人の間には境界線を挟んで沈黙が流れた。声を張れば届かぬ距離でもない。先に目を逸らしたのは娘だった。遠くからでも、寂しげな眼差しと、きゅっと結んだ唇が見える。娘はそのまま森の奥深くへと姿を消してしまった。
どれくらいの時間が経ったか。グラディスはしばらくその場から動けずにいた。
———なんの罪もない娘を怖がらせてしまった
水瓶を大事にかかえた娘。食事の支度に使うつもりだったかもしれない。グラディスは水瓶を捜すため、湖へ飛び込んだ。日が暮れるまで潜り続けたが、とうとう水瓶は見つからなかった。
夜が更けても、グラディスの頭からは娘のことが離れなかった。はぜる焚き火を見つめながら、なにか償いができぬものかと考える。彼は心ばかりの謝罪として、水瓶に代わる木桶を作ることにした。持ち前の剣さばきで板を拵える。松脂を丹念に塗り込み、板と板とを繋ぎ併せる。そして最後に、自分の短剣を火に溶かして箍を磨き、木桶の周りをがっちりと補強した。
倒されたマツの木は少しも無駄にされず、見事な木桶が仕上がった。素材は軽く、水に落としても沈まない。夜が明けるとグラディスは境界線を越え、娘が水を汲んでいた場所へ木桶を置いた。風が吹けば飛ばされそうだったので、念のために水を汲んでおく。そしてすぐにシュプールサーマ側へ戻り、いつものように仕事へ戻った。
それから一日が経ち、二日目の昼を迎えた。対岸に置かれた木桶はそのままである。娘は現れなかった。武装した男がうろつく場所を警戒するのも無理はない。グラディスはおやつに摘んだ梨を木桶の横に添え、しばらく隠れて様子を窺っていた。されど娘が現れないのを認めると、黙って湖をあとにした。
三日目の昼、さすがのグラディスも不安になってきた。本人は気づいてないが、髭を剃ったり、こまめに髪を整えたりと、身なりに気を遣う回数が増えていた。
———もし桶が残ったままなら、もう諦めよう
彼はそのつもりでいた。だが湖を訪れてみると、なんと桶は消えてなくなっていた。そして桶の置いてあった場所には、昨日までなかったピンクのバラが一輪、添えられていた。
グラディスはバラを手に取り、これでようやく想いが娘に伝わったと安心した。私用で境界線を越えるのに後ろめたさを感じていたが、それも今日で最後となろう。グラディスは鼻にバラをあてながら、いつまでもその香りを楽しんだ。
鬱蒼と生い茂るネブラの森。落葉樹が葉を散らしたのを思えば、暦の上では立冬を過ぎた頃かと思う。枝が剥き出しの白樺と、そこに降り積もる白雪。辺り一面を銀世界に染める森は、どの季節とも異なる表情を見せる。
湖の乙女とグラディスが再会したのは、そんな雪の舞い散る冬の日だった。湖の乙女とは、グラディスが密かに件の娘へつけた呼び名である。
厚い氷の層へ降り積もる雪。乙女はその雪の中に現れた。ローブのフードから胡桃色にうねる長い髪がのぞいている。その手には確かに、グラディスの作った木桶があった。
———今日も水を汲みに来たのだろうか。スピリア川の水さえ凍っているのだ。水を汲むにも、厚い氷を割らなければなるまいに
対岸に娘の姿を認めると、グラディスは静かに立ちあがり、向こうが自然に気づくのを待った。
———今度こそ怖がらせてはダメだぞ、グラディス
腰に差した剣が地面にそっと置かれた。すると娘のほうも、対岸にグラディスの姿を認めた。臙脂色のローブが鮮やかに映える。前に会ったのはたしか、コオロギの鳴きはじめる、夏の終わりだった。
沈黙が流れる。彼女は木桶の中から、なにやら包みを取り出し、それを大事そうに抱えた。ほんの少しグラディスに見えるように、乙女はゆっくりと近づいて来る。
———危ない! それ以上近づくと!
グラディスが一歩前に踏み寄ると、娘は怯えて一歩下がった。グラディスはそこで動くのをやめた。彼女は一歩ずつ、氷の層が割れないことを確かめながら、境界線に向かって来る。乙女は氷の上を渡り続けた。厚い雪雲が、急にゴロゴロと唸り出す。
境界線の手前で足を止めると、彼女は前屈みになり、抱えた包みをそっと足元に置いた。最後にグラディスの目をもう一度見た彼女は一礼をして、なにも言わずに背を向けた。途中、氷の裂け目に足を取られたかに見えたが、彼女はそのまま歩き続け、森の深遠へと消えていった。
グラディスの長い睫毛に雪がかかり、視界を遮る。手の甲で雪を拭い、彼は最後まで乙女の姿を見送った。そして思い出したように、彼女が置いて去った包みの場所へと近づいた。分厚い麻布に包まれたのは、瓶詰めにされた梨のシラップ漬けであった。
シラップ漬けなら日持ちすると考えたのだろう。待ち人を待つのがどんなに大変なことか、長く母を想うグラディスにはよく分かる。そして彼女の願いは、ようやくこの雪の日に叶えられた。
熟した梨にシラップがよく染みている。隠し味に使われたのはオレンジピールだろうか。食べやすくスライスされた梨が、口の中で雪の結晶のように溶ける。甘い味には癒しの力があった。
———こんなに優しい味のするものを、これまで食べたことはないな
厚い雲に覆われた世界は、民の心を氷のように閉ざしてしまうと聞く。されども湖の乙女は、受けた恩に報いることを忘れていなかった。サンツァルザーマの民がみな、彼女のように清い心の持ち主であり続けることを願い、グラディスはシラップ漬けの最後の一切れを食べ終えた。
湖の乙女はまた現れるだろうか。グラディスは自分が彼女の姿を追い求めていることに気づいた。そしてシラップ漬けのお礼にと、空になった瓶の中いっぱいにキンカンを詰め、今度はまたお返しとして瓶を湖の上に置いた。彼女が境界線を越えずともいいように、瓶はサンツァルザーマ側に置く。この寒さならまだ、しばらく氷が溶けることはないだろう。
言葉を交わさぬ二人の交流は、日を追うごとに益々深まることとなる。キンカンが受け取られると、後日それはジャムになり、同じ場所に瓶が置かれた。瓶が空になると、グラディスはイチゴを中に詰めた。強いても急いてもいない。不思議な感覚だが、二人はなぜかまた会えると分かっていた。娘はいつもの時間に合わせてマフィンを焼き、温かいうちに持って来た。そしてそれを冷めぬうちに氷の上から持ち去り、グラディスはマフィンを動物たちと一緒に分けて食べた。
娘はなにを受け取っても美味しく調理した。どれも素材の味を引き出す方法で手が加わる。ドライフルーツや果実酒など、日持ちするものは特に有難かった。彼女はこの森に住んでいるのだろうか。同じ森で採れる食材だからこそ、アレンジ法を熟知しているのかもしれない。だがしかし、このやり取りはいつ終わりを迎えてもおかしくないものだった。
———春の陽射しが氷を溶かせば、きっとこの幸せは終わってしまう
グラディスの心には、本人の気づかぬうちに恋心が芽生えていた。今日も変わらず、冬空には厚い雲がかかり、しんしんと雪が降り積もるばかり。
———この厚い雲がサンツァルザーマを閉塞的にしてるというのに、雪の季節がいつまでも続いて欲しいと願うのは罪だろうか。生まれてはじめて抱いたこの恋心は、罰に値するだろうか
一人の青年が切なさに身を悶え、そして試されていた。雪道に続く足跡は、降り積もる雪に埋もれてゆくばかり。二人の密会を隠すように、あとはただ、静けさと白雪だけがそこにあるだけだった。