婚約破棄から始まる魔法番システム
ちょっと変わった番の話が書きたかったのです。
短いので、ふわっと読んでいただけたら。
現国王が学生時代、まだ王太子殿下だった頃、真実の愛とやらを見つけて婚約破棄して以来、我が国は真実の愛ブームだ。
政略結婚なんてもっての外と、魔法による『番』見合いシステムが組まれた。十八歳になっても自分で真実の愛を見つけられなかった場合、魔法によるこの国で最も相性の良い相手とお見合いする義務が課せられたのだ。しかも運命の相手が見つかった場合、余程の理由が無い限り断る事が許されない。実質結婚一直線だ。
大体番って。あの世界に一人ずつしか居ない、今となっては幻想に過ぎない魂の伴侶の事ですのよ?それを魔法で見つけた、独身同士の未婚約者だけから探すって。どうなのかしら?
それこそ歳の差が二十歳離れていたとかも聞いたわ。公爵家と平民だったとか。それっていくら魔法で相性が良いと言ったからって上手く行くの?それは真実の愛に該当するの?
そんな訳で私、シーヴェ・モンハイン侯爵令嬢は番システムを嫌悪していた。
しかし、運悪く。いや、もう相手が悪い筈なのに運悪くで済まされるのも腹立たしいのだけど!
婚約者が私の十八歳の誕生日を目前に、真実の愛とやらを見つけたそうだ。
そのせいで私は今日、十八歳の誕生日、魔法院に出向く羽目になった。
もう独身でも良いと思う。でも馬鹿馬鹿しい事に。口には決して出さないが馬鹿馬鹿しい事に付き合わなければならない。
番なんて見つかりませんように。そう強く願いながら私は魔法院の中に入った。
「シーヴェ・モンハイン令嬢だな、歳は十八。今年が初めての番探索になるそうだな」
「…はい、よろしくお願いします」
見つかるな見つかるな見つかるな。
「ではそこの鏡の前に立って。手をかざしてくれますか」
言われた通りにすると、鏡が光った。つまり見つかってしまったと言う事だ。
せめて、歳の差十歳以内で、身分の釣り合う、浮気性でない男性でありますように。
「では結果を読み上げ……は?」
「は?」
「いや、そんな事起きる筈が無い、筈なんだが」
「筈筈って何ですの?そんなおかしなお相手なんですの!?」
「おかしいと言えばおかしい。この男は、此処には出ない筈なのだ」
「既婚者ですの?」
「いや、独身だ」
「じゃあ婚約者が居ますの?」
「居ない…が…」
「じゃあ何なんですのー!?私別に独身を貫いてもよろしいんですのよ!?本来なら婿入りして貰わなくてはならなかったのですが、元婚約者は数日前に真実の愛を見つけて婚約破棄!もういっそ養子を取って一人で育てますわ!私、帰ってもよろしいかしら!?」
私が踵を返そうとすると、魔法師が私の腕をそっと掴んだ。驚いて顔を見ると、結構な美青年。おもてになるでしょうね。でも貴方にも真実の愛のお相手が居るんでしょうね。本当、ウンザリですわー。
「私だ」
その綺麗な顔が薄っすら赤く染まる。は?今なんて?
「君の番は私だ、と言った」
「……まさか、そんな事ありますの?」
「本来私は映らない様に作ったんだが…」
「それズルじゃありませんこと?」
「ズルをしても結婚したくなかったんだ。私も婚約者に真実の愛を見つけたと言われた口だ。結婚式目前だった。でも皆口を揃えて言う」
「「真実の愛だから仕方ない」」
思わず淑女の仮面が剥がれた。
「分かりますわ!マジムカつきますわよね!」
「あぁ。なんだ、お咎め無しって。浮気は浮気だろう」
「その通りですわ!だから私も今日此処に来るのが憂鬱で憂鬱で」
「そう。だから悪い事と分かってはいたが自分には見つからないように魔法を組んだんだが…」
「お気の毒ですわね。私の様な小娘がお相手だなんて」
魔法師長と言えば、結構な立場だ。たかが侯爵令嬢と、しかも幾つ離れているかは分からないが私なんてまだまだ守備範囲外だろう。
「いや、そうでもない。失礼な話だが、君には親近感が湧く。恋が出来るかはわからないが、愛はいずれ築けるだろう」
「え。そんなものですの?」
「これでも番魔法を構築した身だ。相性が良いのは間違いないからな」
「確かに嫌悪感は湧きませんわね…でもよろしいの?私、婿養子が欲しいんですけれど」
「私は伯爵家の三男だ。構わないさ」
「都合が良過ぎてちょっと後が怖いですわね…」
「むしろこんなおじさんで君にはすまないな」
「あら、綺麗なお顔で随分殊勝ですこと」
「君より十年上だ。言いたくもなる」
「確かにぴったりですのね。気持ち悪いくらいですわ」
「?なにがだ?」
「私鏡に思いましたの。年の差十以内の、身分の釣り合う、浮気のしない方が良い、と」
彼は苦笑いする。
「我ながら馬鹿にできないな。ではまた改めて挨拶に伺うよ。シーヴェ嬢、こんな出会いですが、結婚していただけますか?」
「この国では拒否権などありませんのに律儀な方です事。お返事は我が家で、お茶をご用意してお待ちしておりますわ。ところでそろそろ貴方の口からお名前を伺っても?」
「これは失礼しました。私はライル・カーマルソン。魔法師長を務めております。末永くお見知り置きを」
「ふふっ、不思議なものですわね。あれほど現れるなと祈っておりましたのに。実際現れたら悪く無いなーなんて思ってしまうのは、ちょっと悔しいですわ」
「同感だ」
魔法で選ばれた番の二人は、燃え盛る様な恋ではないが、あたたかい愛を育み、結婚後はモンハインのおしどり夫婦と呼ばれたそうだ。
また元々魔法番システムを好いていなかったライルは結婚と婿入りを期に魔法師長を辞退。それに伴い、高難易度であり、複雑な魔法番システムは廃止を余儀なくされ、人々の恋愛の形は次第に元に戻って行ったと言う。
真実の愛により嫌な思いをし、魔法番システムを嫌がった二人が最後の番になるとは、当の本人達も想像すらしていなかった事である。
実際こんな国あったら生まれた事を呪いますな。
読んでくださってありがとうございました。
あまりにもだったら消すかもしれません。