隣の席の女の子と異世界で出会うのであう
「グォーーー」
狭い洞窟に響く獣の咆哮、それで橘は目覚めたのだ。
寝起きながら一瞬にして脳がフル回転する。
しかしながら橘が状況を理解するまでの一瞬の間で既にライオンのようなモンスターは橘に襲いかかってきていた。
ぐわぁああぁあ!
咄嗟に叫びのような声と共にありったけの力を出して一気に炎を出す。
焼け焦げるような匂い、そして灼熱の熱さを感じたあと、恐る恐る目を開けるとそこには焼き焦げたモンスターが横たわっていた。
生焼けのような匂いが洞窟を包み込む。
煙が充満したので、外に出ると少しずつ日が登り始めていた。
グゥゥゥゥゥゥ
そういえば、あの晩にエリスと食事をして以来何も食べず飲まずで過ごしてきたので、大きな音でお腹が鳴ってしまった。その原因はこの匂いだろう。
焼けこげた匂いに混ざる微かに香る肉の香ばしい匂い。
橘は躊躇ったが、どうもここで食べないと生きていけない。それほど極限状態に陥っていたのでそのライオンのようなモンスターの皮を石で剥ぎ、直接齧り付いた。
正直、空腹よりも喉が渇いている方がキツイのだが、生焼けの肉は多少の水分を含んでおり、それを水分の代わりにてそのまま数口咀嚼した。
「美味しい・・・」
味も何にもついていない、生焼けの肉だったが橘には美味しく感じた。しかし少し食べると途端に匂いが鼻に付くようになり、味も美味しいと感じなくなってしまった。
目の前に倒れたモンスターの死骸。普段、家で食べる肉も牛や鶏の命を頂いている。消費者としては脳で理解していても命を頂いていると実感はできないだろう。
「いただきます」「ごちそうさま」この2言に込められた贖罪の意味を橘は初めて理解した。
そして手を合わせながら
「ごちそうさまでした」
と自分の身勝手で殺してしまったモンスター、そして自分の命を繋いでくれたモンスターに対して最大限の贖罪の意を示し、再び歩き出すのだった。
しかし喉の渇きが一番の難点だった。熱いのに汗が出てこないことに還って不快感を覚える。体も相変わらず節々が痛い。
そんな中で荒野を歩き続け、いつの間にか意識を失って倒れてしまった。
ハッっと目が覚める。
頭を起こし上げると額に乗せてあった濡れたタオルが落ちてくる。
「目、覚めた?」
どこか、聞いたことのあるような声がしてくる。
起き上がると、そこには若干見覚えのある顔が居た
「え・・・七瀬さん??」
同じクラスの隣の席の友達、七瀬結衣が椅子から立ち上がりこちらに近寄ってきた。
「やっぱり橘くんだよね?」
お互い、知り合って日が浅いので妙に本人だという確信がなかったらしい。
「それより、ここはどのなの!?日本?東京?どうしてここに居るの?」
記憶の中では荒野を朦朧とする意識のもと彷徨っていた事を覚えているが、気がつけば何故か同級生の家にワープしている。この状況が理解できず七瀬に向かい一気に質問を投げかけてしまう橘だった。
「ちょっと落ち着いて!ってか聞きたいのは私の方」
そう言って差し出された水を一気に飲み干す。
プッハァ
そういえば死ぬほど喉が渇いていた、むしろそれで死にかけてたことを思い出し一気に飲み干す。
「ここは異世界ってこと、知ってるの?」
七瀬は訝しむように橘に話しかける。
「うん・・・ってか七瀬さん、異世界の人だったの?」
思わず話が飛躍してしまう。
「私は日本人だよ!私こそ橘くんのこと異世界の人かと思ってびっくりしたんだよ」
どうやらお互い色々勘違いしているようだということが分かったので、まずは橘から自分がここに来るまでの経緯を話す言にした。
「なるほどね〜なんかスカウト掛けられた〜って所は私も一緒」
「ってことは七瀬さんも魔法使いなの?」
「そう!でも橘くんの戦闘系とは違って私はよく漫画とかアニメで見るタイプの魔法使い」
なんとなく想像できる。確かに七瀬は魔法使いみたいな顔をしている。もちろん褒めての意味だと橘は注釈を付け足す。
「ところでそのこっちの世界まで来たって子は何て名前?」
「エリスって女の子だ。同い年ぐらいの」
「え、私も一緒なんだけど!?」
「え、マジで!?」
「あのオレンジっぽい髪の小柄な女の子でしょ?」
「そう!」
お互いエリスから声を掛けられ異世界に来たという事が判明し、2人はエリスの話でしばらく盛り上がっていた。
「え、七瀬さんはなんでここにいるんだ?」
「私、前も言ったけど進学を機に1人で上京してきて、今は1人暮らしなんだ。それで基本的に学校が終わったらこっちの世界で魔法の練習したり訓練したりしてて、たまたま訓練に向かう途中で倒れてる橘くんを見かけたって感じ」
「俺ってどこら辺に倒れてたんだ?」
「街外れの高原あるでしょ?あの辺に落ちてた」
「俺は物か」
「ってか街って、なんちゃら王国みたいな場所だっけ?」
「そう!メルト王国って場所!橘くん、数日歩いてたみたいだけど元はどこの街にいたの?」
「俺もメルト王国から来たんだ。ってことはもしかして」
その言葉を元に七瀬は地図を取り出す。
「多分、エリスとご飯食べたのがこの場所ね。そこから逃げて、多分街の出入り口って言ったらここが1番近いからここから出たと仮定すると」
「あ、この洞窟!もしかしたらさっき言ったモンスターに襲われたところかも」
「で、私が拾ったのがここら辺だったから」