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異世界で死にかけるのである

その紙には「特定指定危険ダンジョンでの破壊行為」と書かれていた。


「あのダンジョンで天井に向けて魔法を使って、破壊したのはあなたでしょ?」


ダンジョン・破壊 その2つの単語で橘の記憶はつながった


そして当のエリスはというと


「わわわ私そんなのしーらないデスよ?証拠はあるんですか証拠は」


と情緒不安定そうに机を証拠証拠と言いながらバシバシ叩いている。


「魔法の痕跡、検査した結果あなたのものと一致していたわ」


観念しろとばかりに机の上に欲しがってた証拠が出される。


どうやらエネルギーを使う魔法は、DNA鑑定のように使用者を特定できるらしい。


橘も詳しいことはわからないが、とりあえず何かが一致したという証拠の紙を出されエリスの顔が真っさらになっているのを確認した。


「お、お父さんだけには・・・」


「無理よ」


「うぅ・・・」


そう涙目になっているエリスを見て珍しい表情に頬がゆるむ。


「ところであなた、見ない顔ね」


自分が対象でなかったことでどこか気が緩んでいたのも束の間、話は橘に振られた。


「はい。最近引越し?してきたばっかりで」


なんとなく異世界という単語を出さない方がいいと思い、適当な嘘で誤魔化した。


「どこから?」


「え?」


「どこから”引越し”してきたの?」


「えっと・・・」


核心をついた質問に思わず黙ってしまう。当然今日初めてこの世界に来たため、地名なんて1つも覚えていない。


「もしかして、異世界から来たわけじゃないわよね?」


キーパスはこれまでとは違う声のトーンで橘に詰め寄る。眼圧に押された橘の額には汗が滲む。


そして異世界という単語に反応したのか、気がつけば周囲の人たちもこちらの方を見つめている。


「身分証、持ってるなら見せなさい」


「か、彼は」


「あなたは黙ってなさい!」


エリスの助太刀も虚しく、キーパスは橘から目を離さない。


「いいわ坊や、詳しくはアッチで話を聞かせてもらおうかしら」


そう言って手首を掴まれ、無理やり席を立たされる。


「あなたもよ」


エリスも取り巻きの女性に手首を掴まれ、一緒に店外に連れ出された。


終わった。異世界の法律なんぞ詳しくない。でも時代背景的にこの感じだと拷問とか死刑とか、そういった極刑が待っているのだろう。


橘は中学校で習った世界史の内容やYouTubeで見た拷問の歴史の動画を思い返す。


未だ現実を受け入れられてない中で出た店の外には馬車が数台停まっていた。


これに乗り込まされる。そう思った時


「逃げて!」


エリスが大声を上げ、次の瞬間辺りが煙で包まれた。しかし掴まれた手首は離されない。橘は咄嗟に魔法を使う。


たったさっき、婆さまの前で使った初めての魔法。あの感覚を思い出し炎を出す


「熱っつ!」


キーパスは突然の炎に驚き、手を離してしまった。その隙に橘は走って逃げ出す。


「待ちなさい!」


後ろから気迫迫る声と足音が聞こえてくる。咄嗟の起点で何度も曲がり角を利用し、土地勘も何もない町中をひたすら走り回る。


「ハァハァ・・・」


元々走るのは得意ではなかった。しかし己の生死が掛かったとなれば自分でも驚くほど走ることができた。


そして遂に街の外れ、さっきダンジョンに行った先に通ったであろう何もない高原へと辿り着いた。


灯りが灯った街とは違い、ただ何もないだだっ広い高原が広がっている。


後ろからは足音が聞こえる。橘は覚悟を決め、街と高原を繋ぐ橋を渡り何もない荒野をただひたすら走り始めた。


しかしすぐに体力の限界が来て、明かりとは別の方向に向けて歩き始める。


「エリス・・・」


エリスとはすっかり逸れてしまった。異世界に来てからずっとエリスの案内で動いていた。しかしながら今は自分一人のみ。


現在地は愚か、どうやったら元の世界に戻れるかも分からない。


「捕まった方がマシだったかもな」


そんなことを思いながら満身創痍の体を無理やり動かし荒野を歩いてく。


その後もとにかく同じ方向に向けて歩き続ける。


喉が渇いた 足が疲れた 眠たい 寒い 寝転びたい お風呂に入りたい


そんな欲求が次々に浮かんでくる。しかしこんな場所で寝てしまえば、もしかしたらモンスターに襲われるかもしれない。もしかしたらさっきのノーラスとかいう奴らが追いつくかもしれない。


汗でベットベトで服が張り付いて気持ち悪い。次々に弱音を吐きたがる自分に嫌気が差しながら、この自問自答を永遠と繰り返す。


気がつけば朝日が登り始めていた。明るく照らされた自分を見れば服もズボンもボロボロだ。


「あ〜あ、お気に入りだったのにな」


そんなことを思っていると、少し遠くに岩山のようなものが見えた。


高原の先に見えた岩山。それが橘にはゴールにも、希望にも見えた。


そこからはひたすら岩山を目指して歩き続け、朝日が登り切ることには到着していた。


運よく浅い洞窟があったのでそこに入り、気がつけば深い眠りについていた。


それから何時間経ったのだろうか、徐々に意識が回復してくる。体の節々が痛い。徐々に戻る感覚から、自分が地べたで寝ていたのだと実感する。そして洞窟で寝ているのだという状況を理解して、これまでの出来事が夢ではなく現実だと理解する。


地べたで寝たせいなのか、筋肉痛のせいなのか。とにかく体の節々が痛い。


洞窟から少し顔を出すと、辺りはすっかり夕暮れだ。


喉も乾いてお腹も空いてお風呂にも入りたい。


とりあえず別の街がこの先にあるはずだ。そう推論し、その存在すらわからない架空の街を目指すことにした。


だが時刻は夕暮れで体も痛い。


周囲を見渡しても水源も何も見当たらない。


この日もここに泊まって、次の夜明けから出発することを決めた。


スマホどころか灯りもない洞窟で1人、蹲るように座りボーッとしながら時が過ぎるのを待つ。


寝て過ごしたいところだが、地面が岩で硬すぎて寝付けない。


そうしてボーッと過ごしていると、気がつけば寝てしまっていた。


そう自覚したのは目が覚めたからである。


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