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悪い行いは意外とバレるものである

「お見事」


どうやら魔法使いになれたらしい。さっきまでの激痛でどこか流血していないか体の節々を確かめるが、手には血の一滴も付いていない。


「体の中心あたりに、何か熱いものを感じるだろ?それがエネルギー、魔法の源だ」


そう言われると、確かに体の中心に何か温かいものを感じる。


「エネルギーってことは、魔法を使えば切れるってことですか?」


「その通り。体力のように休んだり睡眠を取ったりすると回復する。日々の運動習慣でも蓄えれるエネルギー量は変わってくるから、しっかりトレーニングするんだぞ」


婆さまは、どこか真剣な眼差しでこちらを見つめてくる。その眼圧に威圧されそうになっていると


「大丈夫ですか〜?」


階段の上から聞きなれた声が反響しながら聞こえてきた。


「入ってくるなと言ったのに」


婆さまはそう小さく呟くが、決して怒っているわけではなさそうだ


まるで小動物のように階段を降りてくるエリスは、無事に立っている橘の様子を見てホッとしたようだ。


「すごい声が聞こえたから、てっきり失敗したのかと心配しましたよ〜」


「おかげさまで。最初は死ぬかと思ったけどなんとか魔法使いになれたぜ」


痛みを知って、少し強くなった気がする。これまで死とは無縁の世界に生きてきた橘だが、この世界で初めて死と隣合わせになり、なんなら死ぬような痛みも味わった。


自分でも一皮剥けたと感じるほど、橘は成長していたのである。


「なんか適当に魔法使ってみてください!」


エリスは目を輝かせながらこちらに歩み寄ってくる。


「使うって言っても、どうやってやるんだ?」


「なんか、適当にグッッッッっとやればできるよ」


いやそんな日産のCMみたいなこと言われても困るのだがッと橘は頭にハテナマークを浮かべる。


「自分の中にあるエネルギーを、手の平から出してみる感覚だ。例えば炎をイメージしながら、体の中のエネルギーを手の平から出すイメージをしてみろ」


婆さまの言う通り、体の中の温かいエネルギーを手の平に移動させてみる。そして炎をイメージしながら、人の居ない方に向けて一気に放出すると


自分の手の平から一気に炎が放出された


「うわぁあ」


「ちょ、危ない!」


思わずたじろいてしまい、危うく婆さまやエリスのいる方に向けてしまうところだったが、エリスに支えられなんとかことなきを得た。


「これから練習が必要だな」


婆さまにそう言われ、覚醒したからと言っても漫画やアニメのように厨二っぽく使いこなすのは時間がかかるのだと理解した。


「ところで、これを持って氷のイメージを剣先から出せるか?」


婆さまが差し出したのは地下室に元から置いてあった木刀だ。


「この、剣先からですか?」


「そうだ。さっきのように手の平ではなく剣先から」


言われるがままに、さっきと同じ要領で氷をイメージし、剣先からそれを出すイメージをする。


すると、体からエネルギーが出る感覚がした直後、手元から冷たい感覚がした。


「お見事」


よく見ると、剣先にある壁が凍りついている。ただの木刀から、これだけのエネルギーを出せれたのだ。


「凄いですね・・・!婆さま、彼はもしかして」


「うむ、おそらく戦闘系だろうな」


「戦闘系?」


聞きなれない単語を耳にし、思わず聞き返す。


「この、まぁ俗に言う魔法使いってやつには大きく分けて2種類存在してな。まあそっちの世界のアニメとかで出てきそうな如何にもな魔法を使うのが魔法系」


「対して、お前さんは戦闘に特化した戦闘系。大きな違いは杖か剣かと言ったところだ。魔法系は魔法で遠距離で戦うのに対し、戦闘系は剣などの別のものを媒介し、魔法と組み合わせて接近戦で戦うのが特徴だ」


「エリスは、この前剣で戦ってたから戦闘系か?」


「実は私どっちもいける二刀流なんです!」


「なんだそれは」


驚く橘を他所目に婆さまが割って入る。


「エリスは特殊で2つの魔法の力に目覚めた。まあそんな例コイツしかいないから無いものとして考えればいい」


なるほど。エリスはないもの扱いすればいいらしい


「じゃあ、俺が杖を使って魔法を使おうとしたらどうなるんですか?」


「できないことはないが威力が落ちる。要は向き不向きってことだ。お前さんは剣を媒介するが魔法エネルギー効率のいい戦い方になるだろ」


生まれてこの方、戦いというものを経験した事が無くイマイチイメージしずらいが、そういう事らしい。


「橘さんが覚醒して良かったです!私の先見の明に狂いは無かったって事で」


エリスはエヘンと無い胸を張る。おっと一言余計だったか。


「婆さま、今日は宴ですね!」


「私はもう休むから、2人で行ってきなさい」


「珍しい!婆さまがこんな時間からの外出を許すなんて!」


「今日は気分が良いからね」


婆さまはそれだけ言うと、階段を登り始めたので俺たちもそのまま後をついていく。


「じゃあ、あんまり遅くなるんじゃないよ」


婆さまのその言葉と頂いた夕食代を胸に俺たちは街へと歩き出した。


夕食代と言っても異世界の良くわからない通貨を渡されたので額面の価値が全く分からない。しかし見た目的に5000円ぐらいはありそうだ。


夜の街は異世界といえど街中に明かりが灯り栄えている。


もちろん電気では無くロウソクの灯りに灯された街中は異国情緒あふれ、まるで海外旅行に来ているかのような、自分が今見知らぬ土地にいるのだという高揚感を覚える。


「私の行きつけのお店です!」


お城からそう遠くない場所にある、大衆居酒屋の雰囲気が漂うお店におそらく未成年2人で入っていく。


店内は雑踏としており、大声で話さないとお互いの声が聞こえないほどである。


この世界のことを何も知らないので、とりあえず注文はエリスに任せ、橘は異世界の居酒屋の雰囲気を観察していた。


「ここのお店、チーズ料理が絶品なんですよ!」


しばらくしてから運ばれてきたチーズ料理に舌鼓を打つエリス。


異世界の食事とあって最初は恐る恐るだったが、橘も1口食べれば喋るのを忘れるほどバクバクと食べ進める。


「この肉ってなんの肉なんだ?」


「イノタウロスの肉です!」


「イノタウロスって、どんな動物なんだ?」


「さっき行った洞窟がある辺りの高原に生息している4足歩行のモンスターですね!チーズもこのモンスターから取れるんで、家畜にしている人もいるみたいです」


なるほど。要は牛だ。4足歩行のモンスターという表現に違和感を覚えるが、要は牛だ。


若干食感は異なるが、この肉の正体も知れたところで橘は次々に肉を口に運ぶ。


久しぶりの誰かの食事だった。東京に上京してからは何かと1人が多かった。まだ入学した直後なので仕方ないといえば仕方ないが、徐々に周囲に友達の輪ができている状況に日々焦り、このまま卒業まで3年間、誰とも友達になれないんじゃ無いかと思い詰めていた。


こうしてエリスと一緒に食事をしている今の時間は、橘が何より求めていた時間であったのだ。


ある程度満腹になり、お互いが徐々に雑談ムードに入っていく。


別に大した内容でもないながらお互い無心で笑い合う、そんな他愛もない時間を過ごしていた時だった。


しかし突然、バンッっと突然大きな音を立てて扉が開き、数人の男たちが中に入ってきた。


「エリスって女の子はこのお店にいるわよね?」


中央に立つおかま口調の男が発したのはエリスの名前だった。咄嗟に庇おうと、橘は反射的に目を逸らしたがそれが仇となり


「見つけたわよぉ〜」


とこちらに向かって歩いてくる。


どうしようか考える間も無く彼らは橘とエリスが食事をしていたテーブルの目の前にやってくる。


「お久しぶりね〜メルト王国監査官のキーパスです」


そう言いながらおかま口調の男性は一枚の紙をこちらに向けてくる


「これ、あなたの仕業よね?エリスちゃん」


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