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魔法は意外と簡単に使えるものだ

意外と繊細なバランスで飛行していたらしく、ボートが転覆するように俺たちはあっさりひっくり返ってしまった。


そしてそのまま地上に向かって真っ逆様に落下する。死を覚悟した時、彼女の叫ぶ声が聞こえてきたと思えば、手に温かい感触が加わる。


直後、浮遊する感覚と共に目を開くと再び空を浮遊している。彼女の方を見れば、家でぶっ放された水を出す魔法を地面に向けて打ち出し、浮力を得ていたのだ。


こんな使い方もあるのだと感心していたのも束の間。よく下を見てみれば


「おいエリス!下におっさんが居るぞ!お前の水を浴びて溺れそうだ!」


「えええええちょっと待ってくださいね!」


そう慌てつつ、座標をずらし無事に地面に着地することができた。


おじさんの安否が心配になり、人影が見えた方に向かうとおじさんが横たわっていた。


「大丈夫ですか?」


心配そうに覗き込むエリス。するとそのおじさんはゆっくりと立ち上がりながら


「大丈夫・・・女の子の魔法の水は良いなぁ・・・」


と頭と目を輝かせながらどこか興奮気味の様子だ


こっちの世界、そんな性癖あるのかよすげぇな。


そして足元に落ちている黒色の塊をエリスは踏みつけて


「街はあちらです」


とおじさんに方角を案内する。踏みつけられた物体の正体が気になりつつおじさんは腑抜けた顔で町の方まで歩き出した。


「すいません私のせいで」


「いや、バランスを崩した俺が悪かった」


お互い誤ったところで、さっきの話の続きに戻る。


「ところで、俺たちの世界の人間も魔法が使えるって言ってたが、俺以外にもこの世界に来ている奴がいるのか?」


「はい!実は私たちが橘さんが暮らす異世界を発見してから、何名か魔法を使えるようになってます」


「でも、そんな人見たことないし、ニュースにすらなってないぞ」


SNSが普及したこの時代、魔法使いとあれば一瞬で全世界に拡散されるだろうがそんなものは見たことがない。


「恐らく、国の方が隠されているのかと。向こうの方からすれば未知の事ですし、警戒されるのも当然だと思います」


なるほど。国家機密で情報が隠されるなんぞこれも空想の世界の話だと思っていたがこれまた現実らしい。ってことはどっかに3年E組あるんじゃね?殺せんせー存在するんじゃね?


「ただ、中には適合されずに魔法が使えない方も居ます。こっちの割合が圧倒的に多いです」


「ってことはかなりの人間がこっちの世界に来ているってことか?」


「私も全数は把握してないんですが、確か1000名ぐらいがこれまで来られたようです」


「結構居るじゃねえかよ。それは全世界からか?」


「はい。場所問わず我々メルト王国の調査部隊が見込みのある方にこのようにお声がけしています」


「で、俺の部屋に魔法で来たってわけ?」


「実はそうだったんです!」


要は俺は魔法使いにスカウトされたらしい。


「でも、さっき言ってた1000名のうちどれぐらいが魔法使いになれたんだ?」


「ざっと50名程度と聞いています」


スカウトが来たからといって魔法使いになれるわけではなさそうだ。ってか1000分の50ってスカウトの意味あるのか?


「お話ししたように、正直覚醒する確率は低いです。でも橘さんなら素質があると思いますし、是非とも検討していただけないでしょうか?」


橘目の前に回り込み、エリスは両手を合わせお願いする素振りを見せる。


「別に良いってか、むしろやってみたいな」


橘は何を考えるでもなく、即答で返事をした。魔法使いといえば女の子の憧れみたいな所もあるが、実際彼女が洞窟で披露した魔法はどれも圧巻だったし、自分もあんな力が手に入るのだとしたら拒む人は居ないだろう。


「では案内しますね」


そうして彼女の案内に従って灯りが灯った街へと戻っていくのだった。


おそらくこの異世界に来た時に出てきたであろうお城へと案内された。


初めは気にしなかったが、どうやら大きな城のようで橘はまるで某夢の国に行ったような、そんな非現実感を覚える。


「婆さま、あちらの世界から連れてきたものです。彼に試練を」


婆さまと呼ばれた老人は、重い腰を上げながらこちらへ近づいてくる。


「名前は?」


「た、橘伊織と申します」


「なるほどね・・・確かにあちらの世界の名前だ」


そういうと婆さまはそのまま扉の方に向かっていく


「付いて来な」


そう言われたので二人は慌てて扉の方に向かったのだが


「エリスはここで待ってな」


彼女は待機するよう言われた。一瞬驚きながらも彼女は


「承知しました」


とだけ言い、近くにあった椅子に腰をかける。


対して橘はというと、一人で来いと言われたものだから若干おじけついているが、後に引くことができず渋々案内された扉へ向かっていくのであった。


「名前は橘って言ったっけ?」


「はい・・・」


「その、異世界での暮らしはどんな感じだい?」


異世界、こちらの住民のいう異世界とは俺たちからした現実世界のことだ。


「楽しいです」


自分でもびっくりするぐらい、即答で答えた。


「こっちの世界に来て、また1日も経ってないですが、色々驚くこともありました。正直、同じような日々に飽き飽きしていた部分もあります。でも今は正直自分の世界に帰りたくなってます」


これは俺の本心だった。まだ友達が少ないながら学校はなんだかんだで楽しいのだと内心では思っていたっぽい。そして地元にいる家族の顔も浮かんでくる。


「そうかい」


婆さまは一瞬こちらを振り返り、そのまま地下へと歩き続けて行った。


長い階段を下ると、ロウソクの火が灯されただけの地下室へと辿り着いた。


「魔法っていうのは、使ったことがない人からすれば感覚が分からないだろうが、体の内側に少し熱いエネルギーのようなものが蓄えられてね、まあ要は体力みたいに目に見えないものさ」


そう言いながら婆さまは隅っこのロウソクから部屋中心部に置いてある大きなロウソクに火を移し、薄暗かった部屋全体が明るく灯された。


そして橘は息を呑んだ。


明るくなった部屋の壁や床には血痕のようなものが付着していたからだ。


「見ての通り、そっちの世界の人間は体が拒絶反応を起こす者も多い。別に死にはしないが、苦痛が伴う」


そしてそのまま、部屋の中央にある大きなロウソクの方へと向かっていく


「いいかい、覚悟を決めるんだ」


橘は額から汗が流れるのを感じる。生々しい血痕を前に鼓動が一気に早くなる。


婆さまが部屋の中心部にたどり着くと、部屋を灯していた全てのロウソクが赤色から紫色へと色を変える。


そのせいか、部屋全体が不気味な雰囲気を醸し出す。


「これからするのは、お前さんの眠っている魔法の能力を無理やり引き出して覚醒させることだ。体の中から焼けるような熱さを感じるが、実際に燃えてるわけではない」


婆さまは大きなロウソクから光り輝くエネルギーの集合体を取り出す。


「お前さんの体に、これからこの多量のエネルギーを与える。これに順応すれば、覚醒したことになる」


橘は、またしても目の前で起こっている非現実的な出来事を前に思考が止まってしまっていた。しかしそんなことはお構いなしに儀式は進んでいく。


「覚悟するんだ」


その言葉と共に、光り輝くエネルギーは婆さまから橘の方へと一気に向かっていく。


「ぐあぁぁああぁああぁぁ」


体の内側から焼けるような熱さを感じ、思わず絶叫してしまう。体の中心が何やら光っており、熱は冷めることなく立花は苦しみ続ける。


そしてその苦痛は、ほんの数秒でパタっと止まった。橘にしてみれば永遠に感じてしまうほどの時間であったが、文字通り橘を苦しめていた焼けるような熱さは前触れもなく急に納まったのだ。


それから徐々に冷静さを取り戻し、あたりを俯瞰する。先ほどの苦痛でどうやら汗を大量にかいたらしく、垂れてきた汗を袖で拭う。


「どうなったんですか?」


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