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モンスターと戦うのは意外と怖いものだ

「しっかり捕まってくださいね」


エリスは彼の手を取り、そのままゲートへと入っていった。


橘は女の子に手を繋がれたとこに一瞬戸惑うのだが、ゲートの先に広がる世界に心を奪われた。


「・・・ここが、えっと〜なんちゃら王国?」


「メルト王国です」


「あ〜そうそうそれだ」


彼の目の前に広がっていたのは、何かのフィクション作品で見覚えがあるような地下牢の様な部屋だった。


「では行きましょう」


彼女はその牢獄のような鉄格子を開けて外へと誘導する。


橘の勘は当たっており、中は刑務所のようなそんな内装だった。


同じような部屋がいくつもあるのだが、中には人気が一切ない。


「前もここからきてたの?」


「はい。他の国民の方に異世界に通じているとバレないように、こうして目立たない場所からいつも来ています」


まあそりゃ、異世界に通じている。もっといえば異世界が存在していると分かれば大騒ぎになるのはこっちの世界も一緒かと橘は若干の違和感を残して納得する。


「では、改めましてようこそメルト王国へ!」


その言葉と共に裏口のような小さな扉が開き、外に出た。さっきまで薄暗い地下にいたのだが、外は快晴であったため、目を細め徐々に視界を慣らしていく。


目が慣れた時に広がっていた光景は、西洋風と喩えるのが1番近いような、ただ異世界なだけあって現実の世界には存在しない違和感を覚える。そんな建築物が並んだ街並みであった。


どうやら裏路地から出たらしく、周囲の人影はまばらである。


「そういえば橘さん、ゲームってやったことありますか?」


「ゲームってどんな」


「ほら、そっちの世界でよくあるモンスター倒したりするやつ!」


「まあたまにするかな」


因みにこう言う会話の「たまに」と言うのは割と、もしくはかなりという意味を持つ。

橘は学校に友達がおらずゲームに没頭する日々を過ごしていたため、プレイ時間は1日5時間はくだらなかったが、プライドが許さず「たまに」と付けてしまった。


「やってみませんか?」


「え?」


天使とも悪魔とも取れる悪戯っぽい顔で笑うエリス。


「モンスターとか、なんかそういうデッカい魔物とか、大量のゴブリンとか世界を統治する闇の組織の!」


「ちょっと待って」


「分かった。ゲーム好きなのね」


「あ、うん。ごめん・・・」


脳裏に浮かんだ全男子が憧れるファンタジーな世界を連想した橘は、興奮のあまりつい話しすぎてしまった。そのことをエリスに会話を遮ら初めて自覚した。


「まあでも、気持ちは分かります。私も初めてそちらの世界に行った時は同じ気持ちになりした!」


ふと冷静になり今の自分を俯瞰する。通常旅行では電車や飛行機に長時間乗るため、ワクワクする時間があるのだが、今回は魔法の力でいきなり来てしまった。


過程を飛ばしたためあまり実感が湧いていなかったが、今はいわゆる異世界旅行の最中である。文化も何もかも違う場所と言うことに気がつき、橘伊織は現在進行形でテンションが上がってるらしい。はい俯瞰終了。


「あ、すいません〜」


そんなことを考えている間にエリスが呼び止めた馬車らしきものがキーーという甲高い金属が擦れるような音と共に近くに止まる。


「すいません、街外れの高原まで」


「あいよ」


「さ、乗ってください」


彼女に促されるまま、馬車らしきものに乗り込んだ。


「これでどこにいくの?」


「モンスターが多い、街外れの高原がありましてそこに行きます!」


そこは魔法で行かないんかいと心の中でツッコミながら馬車は動き出した。


少し走ると街の中心部らしき場所に出る。まばらだった人影も急に増え、馬車の数も増えてきた。


馬車は現実世界で言うところの車のような扱いをされており、右側通行で規則正しく走っている。まるで昔のヨーロッパに来たようなそんな感覚を覚える。


そのまま馬車は街を抜け、周囲に物影一つない高原で彼らを下ろした。


橘は不意にこの国の通貨が気になり、彼女が運転手に差し出すものを見ていたが


「これでお願いします」


そう言いながら彼女が手渡したのは紙幣とは言い難い1枚の紙切れだ。


そういえばここは他国ではなく異世界であるため、通貨という概念すらないのかと勝手に納得するのだった。


「こんなところにモンスターがいるの?」


「少し離れた洞窟に行けば、居ますよ!」


彼女はどこか楽しげに、少し離れた場所にある洞穴を指差した。


現実世界ではまだ春先であり、長袖を着ないと肌寒いそんな時期だが、異世界では違うようだ。


インナーを着込んだ制服で橘は異世界に来てしまっていたため照りつける日差しに暑さを感じるようになった。真夏のように照りつける日差しが痛いほどではないが、気がつけば背中が汗で濡れている事に気が付く。


それから数分歩けばようやくいかにもと言った雰囲気の洞窟の前に付いた。中に入るとひんやりしており気持ちいいと感じる。


「この先はモンスターがいるから、魔法でチャチャっと倒してますね」


これまでは正直旅行気分で着いてきていたが、改めてこの雰囲気でモンスターという単語を聞くと怖気つく橘であった。


「強いの?」


「ここの洞窟は数百年前にとあるモンスターによって作られたもので、最深部にはそのモンスターがまだいるとされています」


「数百年前!?ってことはラスボスみたいなのがいるってこと?」


「ラスボス・・・あ、ラストボスですね!実はこれまで様々な人がこの洞窟の攻略に挑んだんですけど、毎回失敗に終わってるんですよ」


どうやらやばいところに来てしまったらしい。以前、地元の友達に連れて行かれた心霊スポット以来に死ぬかもという恐怖を覚える。


「そのボスを、倒しにいくってこと?」


「まさか。今日はお試し編なので入り口付近まで出てきた弱いモンスターを倒してみようかと」


彼女曰く、モンスターを倒すと奥に居たモンスターが餌を求めて徐々に入口の方に出てくるのだとか。


王国の業務としてモンスターが外に出ないようにこうして定期的にモンスターの駆除をしており、今日もその一環らしい。


「これ、どこまで歩くの?」


「う〜ん、もう少し歩けば出てくるはずなんですけどね」


初めは怖気ついていた橘も、数十分歩いてモンスターが1匹も出てこない洞窟を歩き続けこの現状に慣れていた頃だ。


洞窟は奥に行くと下に続く坂道があり、それをひたすら降って下に降りていく仕組みだった。


そして何回か降った先で急に空気が変わる。


「来るよ」


彼女は真剣な眼差しになり、洞窟にもおそらくモンスターから発せられたと思われる声が響き始めた。


空気が変わった


次の瞬間、正面から蜘蛛のような多足生物がこちらに向かって襲いかかってきた。


現実世界と比べてデカい。デカすぎる。橘はこの現実ではあり得ない異様な光景に足がすくんでしまう。


「えい!」


彼女は普段の可愛らしい声とは異なる、勇ましい声を上げながら戦っている。


彼女はいつの間にか杖ではなく剣を持っており、その剣から発せられる炎で敵にダメージを与えてから、デカい蜘蛛のようなモンスターの足を一気に切っていく。


これも魔法の力なのか、人間離れした動きに橘は恐怖をいつの間にか忘れ、見入ってしまっていた。


足を失い、地面に突っ伏すだけのモンスターに対して彼女は上空よりトドメの一撃を喰らわす。


「決まった」


素人ながらそう思うほど鮮やかだった。


よくみるとモンスターは4匹いたらしいが、彼女は全て仕留めてしまった。


「すごい」


思わず感嘆の声が漏れる。


「でしょ!!」


彼女はまるで興奮した少年のような面持ちでえへんとこちらにポーズを向けてくる。


「これが魔法の力です!異世界では見えない、まさに魔法!」


彼女は調子に乗って、炎を何の意味もなく上に向かって無駄撃ちする。


直後に橘目の前には致死量の大きさの岩がドスンという音と共に落ちてきた。


「お前、あっっぶねぇだろ死ぬとこだったぞ!」


「うわぁぁあごめんなさい!」


人生で初めて腰が抜けるという体験をした。そりゃ自分の背丈以上の岩が落ちてきたらそうなる。


「この先に進んでも良いんだけど、最初は危険だから町に戻りましょう」


彼女は少ししょんぼりした様子で来た道に戻り始めた。正直、モンスターが居る空間、言い換えれば死の危険が常に伴っていたため、内心安堵するのだった。


そして特に何事もなく来た道を戻り、すっかり暗くなった高原を、タクシーのような乗り物ではなく彼女の杖に跨って空を飛んで戻る。


てっきり空を飛ぶなんぞ空想の世界だけだと思っていたが、実際に目の当たりにすることで橘の秘めていた厨二心がくすぐられるのだった。


ってか飛べるなら最初から使えば良かったのに。


「橘さん、私の魔法どうでした?」


「凄かった。正直今でも夢を見ているみたいだ」


人間の適応力というのはすごい。数分空を飛んだだけでそれを当たり前だと思ってしまっている。


「ちなみに、この魔法というものに興味はありませんか?」


「めっちゃある。でも僕らの世界の人は使えないんでしょ?」


「正確には使えないわけではありません。ただ、割合的に使えない人が多いってだけで使いこなせる人も沢山居ます!」


「マジで!」


興奮してつい彼女の肩を掴んだ。


「ちょっとコントロールがぁ!」


「うわぁぁあ」


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