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異世界からようこそ

テレビ、新聞、ネット 全てのメディアは同じ話題で持ちきりになっていた。


あれだけ噂が立っていた異世界の存在。ついにそこから来たという少女がカメラの前に姿を見せたからだ。


時は遡ってエリスが公安に連れて行かれた朝に戻る。


車内の空気は殺伐としていた。これまでの事件全てに異世界の人物の関与が疑われているため、エリスも一応危険人物として確保したのだ。


証拠がないため法治国家である以上必要以上の処置はできないが、それでもできる限りの対応が取られた。


魔法が使われる瞬間を記録するために後部座席には本部に映像を送り続ける小型カメラが、そして車の前後には合わせて6台もの車が万が一に備えて追走する。


そして表向きは緊急工事の名目で閉鎖した首都高速道路を車は駆け抜ける。


ふと1人がエリスの表情を見る。


彼女は外の景色に夢中なようだ。異世界はあまり文明が進んでないと聞いていたので確かにこの光景は新鮮だろうなと解釈する。


初めは緊張感が漂っていた車内だったが、そのまま何事もなく本部に到着し、エリスの身柄は引き渡された。


その頃、各国諜報部は先日出回った橘と七瀬が異能を使用し、異世界から来たと見られる動物を処置した映像に関して探りを入れていた。


異世界、要はこの現実世界とは異なる別の世界の存在はどこから漏れたのか一晩で様々な諜報機関を通じて世界中に拡散された。


そのこともあって内閣総理大臣を初めとするこの一件に対処している官僚や大臣は頭を抱えていた。


論点は異世界は”信用できるのかどうか”である。


ここまで世界中に異世界の存在が広まってしまった以上、隠し通すのは困難だ。しかし自体を公にすれば混乱は避けられない。


ちょうどその時、これまで椅子が映し出されてただけのモニターに1人の少女が座る。


「総理、あれが例の異世界から来たと言う」


「見た目は我々と変わらないな」


そこに映し出されたのは幼気な瞳をした少女だ。


そして取り調べを担当する刑事も、その少女に対して初めは警戒していたが顔を合わせるとその警戒心は解けてしまっていた。


取り調べの前半は雑談がメインだ。雑談と言っても警戒心を解いた状態で様々な話を引き出し、後の事件について話すときとの矛盾点を炙り出す。


刑事は車爆発事故、そして異世界生物が襲来した辺りの日付の話を聞き出す。


しかしながら、彼女に不審な点は一切見つからなかったのだ。


もちろんアリバイがあるわけではない。しかしながら彼女の話す瞳には一切の曇りがなく、嘘を言っているようには見えない。


さらにこれが取り調べだと言うことも、そういった前提知識がない中で一切の矛盾が生じていない。


「もういい!異世界のことを公開する!」


「総理!」


「彼女が一連の事件に関わったとは思えん。それにアメリカが色々煩いんだよ」


皆が同じバイアスに掛かっていた。こんな少女がやるわけをないと。


結論としては記者会見をして異世界の存在をエリス自ら世界中に明らかにすると言うことになった。


これまで厳重に警戒されていたエリスは、すっかりマスコットのように様々な職員からお菓子を分け与えられていた。


「これ、チョコレートって言うんですか!?甘くて美味しいです!」


「これはポテトチップスって言うんですか!こっちはしょっぱくて美味しいです!」


もはや餌付けである。どんなお菓子もリアクションを取りながら食べるエリスがよっぽど珍しかったのだろう。


様々な職員が噂を聞きつけ、異世界人を一目見ようと大騒ぎになっていた。


「まだ報道解禁前だから、あんまり騒ぐなよ」


そう愚痴をこぼしながら入ってきたのは、エリスを記者会見場まで連れてくるよう頼まれた新人公安員だった。


「あんたがエリスが?」


「はい!」


初めてみる異世界人、だが話す言語は日本語で見た目は人間だ。


「行くぞ。着いて来い」


そう言われ、着いていくエリスに皆は最後に手を振りながら別れを告げたのだった。


報道各社は大慌てだった。


政府からは記者会見としか告げられなかったが、噂では異世界に関する存在に言及という情報が回ってきていた。


記者会見の時間は17時30分、夕方の報道番組の時間に合わせた時間設定だった。


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