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物語は徐々に動き出す

「それで朝から叩き起こされたから寝不足で」


「それ、ちょっと酷いよね」


橘は公安に朝早く起こされたことを七瀬に愚痴っていた。


そして朝貰った名刺を眺めながら、自分がもしかしたらとんでもない事に巻き込まれてしまっているのでは無いかと少し不安になる。


何せ警察ではなく公安が関わると言う事はそれだけ機密性が高いという事だろう。


「ま、でも何かあったら私たち連帯責任だね」


不安な顔をしている橘を察してか、七瀬は肩をポンッと、いやバシッと叩く。


「痛ッ!あ〜もう確かにそうだな」


これから異世界のせいで変なことに巻き込まれても、隣に七瀬がいる。それを再確認し一気に不安な気持ちが消し飛ぶのだった。


その後の七瀬の家での夕食時、今朝の首都高車両炎上事件が取り上げられている。


「今朝こんなことあったんだ」


「そういや道めっちゃ混んでたのこのせいか」


と一応一瞬だけ会話のタネになったものの。やはりこの手の事件はたまにあるのでそこまで気にも留めなかった。




「今回の件、社会的影響を考慮して報道規制を行っています」


公安本部では事件の真相究明に向けて慌ただしく動いていた。そして現在入っている情報を整理して今後の対応を検討している最中だ。


「現在の生存者は1名、残りの4名は死亡が確認されました」


この報告を読み上げた瞬間、多くの職員は現実を受け入れられずに固まってしまう。突然の同僚の死の報告。もちろん危険を伴う任務が多いのだが死ぬことは稀である。


そしてホワイトボードには走り書きで


「野村 生存」


とだけ書かれた。


この一連の事件は公安を狙ったテロ行為と断定され、警察の全勢力を注ぎ捜査された。しかしながら燃えた車体からは爆発物は発見されず、防犯カメラの映像からも犯人らしき人物は特定されなかった。


まさしく魔法でも使えないとできない犯行と評価された。



「今日の放課後もリレー練習だね〜」


「あ〜今日俺特訓があるから行けないや」


「うわ〜そういえば今日だったね」


「七瀬さんはリレーの練習に行って来なよ」


「もしわたしがリレー練習で学校に残ったら、橘くんはどうやって異世界に行くの?」


「あ、そういえばそうだった」


「ってことで橘くんの特訓は連帯責任なので私も休みます」


そうして2人ほぼ同時にLINEグループに欠席の連絡を入れる。


昼休憩という事もあり他のメンバーもすぐに目を通し、付き合ってる疑惑のある2人の同時欠席連絡は最早放課後を待たずに話題になるのであった。


そんな好奇の目線を差し置いて、2人は放課後のチャイムが鳴ると同時に学校を飛び出し異世界に行くのであった。


橘はライネルに正直に短距離が苦手であることを話し、今日の特訓のメインは短距離練習となった。ってかリレーの練習をすることになってしまったのだ


「俺の部屋の地下倉庫によ、そのバトンとやらの代わりになりそうな筒が色々落ちてると思うから適当に拾ってきてくれ」


鍵を受け取ったはいいが、ライネルの地下倉庫に行ったのは剣を初めて見せてもらった時以来である。とりあえずそれっぽい入り口から記憶を辿って階段を下っていく。


「確か地下の2階か3階だったよな」


そんなことを口にしながら階段を下っていく。この螺旋階段を下ったのはなんとなく覚えているのでおそらく間違ってないだろうと思いながら降り続けると、1枚の扉が目の前に現れた。


「ここ・・・だったっけ?」


恐る恐る扉を開けると、そこには廊下が広がっていた。


ライネルの地下倉庫は確かこの廊下の右側、真ん中辺りの部屋だった。


とりあえずそれっぽい扉が3つ見つかったのでその真ん中の扉を開けるとその部屋には物は何もなく、部屋の真ん中にさらに地下に続く階段があるだけだった。


橘はこの階段が異様に気になり、周囲を確認してから下ってみることにした。


薄暗い部屋の中、唯一の光はたまたま持ってきていたスマホのライト機能だ。それで周囲を照らしながら恐る恐る階段を下っていく。


少し降ると腐敗臭のような、なんとも言えない匂いがしてきた。


鼻をつまみながら降ると、やがて1枚の扉が目の前に現れた。その扉を開けると、足元にぶにゅっとした感触が伝わる。急いでそこを照らすと、すでに生き絶えた人間の顔が照らされた。


「うわぁああああ!」


それを見て橘は咄嗟に来た道を急いで引き返す。


とにかく全力で階段を登り続ける。


「やばいやばいやばい」


生まれて初めてみる死体、一瞬であったが脳裏に焼きついて離れない。


何かが追ってきている訳ではないが必死に階段を登り続けてすぐに先ほどの階段しかない部屋に到着した。


そのまま扉を開けると、ゴツンッと何かにぶつかって床に倒れ込んでしまう。


目を開けると同じく床にはエリスが頭を押さえながら座り込んでいた。


「いてて」


その彼女をみるに橘は一瞬安堵するも、よく考えれば彼女はこの城に住んでおり、先ほどの死体の秘密も恐らく知っているはずだ。


もしかすると秘密を知ってしまったため殺される的な展開があるかもと咄嗟に嘘をつく。


「ごめん、道に迷っていろんな部屋開けてたんだ」


必死に冷や汗を抑えながら出来るだけいつも通りの声のトーンで話す。



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