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物語は動き出す

今クラスで決めているのは翌週に控えた体育祭のラストを飾る選抜リレーの走順だ。


クラスの男子は14名、女子は18名。その中から何となく足の早そうな7名が選抜されることになっている。


初めは足の遅い扱いされていた橘も異世界での特訓のお陰で今では無事リレーに選抜されるほどに成長した。


よく絡んでる野田を含むグループのメンバーからは偶に初めのあれは何だったんだと突っ込まれるが、家で自主トレして成長していることにしている。ただ、流石に自主トレの範疇を超えて成長していると橘自身も自覚している。


リレーの走順はこの場を仕切っている体育委員でサッカー部キャプテンでクラスからの信頼も厚い野田と、ギャルっぽいギャルで陸上部マネージャーの神田彩が仕切っている。


そして何となく真ん中から決めていき、最終的に足の早そうな野田がアンカー、次点で早そうな橘が一走となった。


そして女子の方で選抜された七瀬は無難な三走に選ばれた。


他にも出場する競技を各々決め、橘は選抜リレー以外に玉入れと障害物競走、七瀬は棒取りと借り物競走に出場することになった。


特段練習する時間というのは設けられなかったので放課後に時間を取って選抜メンバーでバトンパスの練習をすることになった。


ライネルの特訓はある程度橘の成長が認められ、自主練をするという理由で特訓は週に3回程度になっている。そのため放課後の予定をある程度合わせやすくなっていた。


話し合いの結果明日の放課後に集まることになり、その日は解散した。


そして翌日、職員室からバトンを借りて練習することになった。


男子のリレーメンバーには普段話したことない顔ぶれもあり、全員で和気藹々と雑談をしていた。


「お前鳥取出身かよ」


「砂丘の砂って飛んでこないの?」


そして全員が東京出身者であることが判明し、唯一地方出身だった橘は早速イジリの的にされていた。


そしてふと耳を澄ませると


「え〜じゃあスタバ数年前まで無かったんだ〜」


七瀬の方もイジリの的にされているらしい会話が聞こえてきた。


そしてある程度雑談が終わり、一生分のツッコミをした橘はそのままスタートラインに着く。


リレーは一周二百メートル。しかし一走はスタートラインの関係上他に比べて数十メートル走る距離が伸びてしまう。


要は体力が必要なのだが、毎日陸上部より走らせれてる橘からしたら余裕だと確信していた。


「よ〜いどん!」


女子アンカーを任せられてた野田の可愛いスタートの合図と共に模擬リレーが始まった。


とは言っても男女対決なので橘の方が有利である。


ふと学校が始まったばかりの頃の百メートル測定を思い返すが、その時とは比べ物にならないぐらい体が軽い。


そしてそのまま全速力でゴールする・・・はずだったのだが


どうやら長距離と短距離では使う筋肉が違うのか、半分を過ぎた辺りからかなり体力的に限界を感じ始めた。


最終コーナーに入り全力を出し続けるが、正直初めは二百メートル走っても余裕だと思っていたのに想像以上に辛い。


ふと周りを見るとリレーメンバーや陸上部、通りすがりの生徒など多くの人に見られていたため、とにかく全力で走り続ける。


そして何とか二走にバトンを渡し、コースから外れ思わず寝転んでしまう。


「帰宅部にはキツかったか?」


と初めはイジられるが返事が出来ないほどに息が上がってしまってたため


「おい、大丈夫か?」


「水持ってきて〜」


などちょっとしたパニック状態になっていた。


「大丈夫。ちょっと休ませて」


ゆっくりと起き上がり、無事だということを周囲に伝える。


その後もリレーは順調に続き、アンカーがゴールする時には橘も元に戻っていた。


しかしながらてっきり体力面では問題ないと思っていたが、日頃の疲れやそもそも長距離と短距離の感覚が違うことが原因だろうか、あれほどまでに息が上がってしまったことをずっと反省していた。


その後、模擬リレーで洗い出したバトンパスの問題点を中心に練習をし、この日は解散となった。


「今日さ、女子メンバーでカラオケ行くことになって」


「分かったよ。たまには自炊してみる」


「出来るの?」


「ネットで見れば大丈夫だろ!」


「なんかあったら電話してね」


「お前はお母さんか」


1ヶ月も経てば七瀬の家に上がり、夕食をご馳走になるというのはすっかり習慣化していた。今日は初めて七瀬が夕食を作れない日であり、これまでの食生活を知っている七瀬は橘の食事状を危惧しているのだった。


女子がカラオケに行くということなので男子メンバーも来週辺りカラオケに行こうと言う結論になり、この日は解散することになった。


今日は久しぶりの一人での食事ということでたまには自炊をするかと意気込むが、材料を買うのがめんどくさ過ぎてこっそりカップ麺で夕食を済ます橘であった。


そして疲労感こそは普段の特訓のおかげでほぼ無かったのだが、久しぶりの一人ということでベットでボーッとしているといつの間にか眠りについてしまっていた。


眠っていたと自覚したのは翌朝のことであった。遠くからインターホンの音が聞こえてくるのを自覚した瞬間にハッとベットから体を起こす。


スマホを見ると時刻は朝の6時半だった。窓から漏れる光も、いつもより薄暗く感じる。


こんな時間に何だと眠い目を擦りながら玄関に向かおうとすると、今度は強い力で扉をノックする音が聞こえたと同時に再びインターホンが鳴る。


このただならぬ雰囲気に眠気はすっかり吹き飛び、恐る恐るモニターを確認するとカメラを覗き込むスーツの男性とその他複数の人影が見えた。


「橘さん、起きてますよね?」


一瞬狸寝入りをしようと思ったがどういう訳だが起きたことがバレたらしい。


橘は恐る恐る玄関の扉を開けると、目の前に手帳が示される。


「おはようございます。朝早くにごめんなさいね〜警視庁公安外事課の佐々木と申します。


先頭に立ち、スーツを着こなし髪をジェルで上げたおじさんは、怖い顔をしながらも優しい口調でこちらに話しかける。


「同じく公安外事課の野村です。橘伊織さんのご自宅で間違えないわよね?」


後ろにいた女性も、出来るだけ橘を驚かせないようにと配慮した口調で話しかける。


「は、はい」


「ごめんね朝から脅かしちゃって。とある用があって来たの」


公安が用があるということは以前七瀬が話していた異世界と魔法の件だろう。それを確かめようと質問しようとした時、目の前に一枚の紙が突き出される。


「別に逮捕しに来たとかそういうのじゃないから安心して。とりあえず書いてある通り、橘くんが異世界に行ったかもって事になってるからどんな感じなのか聞かせて欲しいな〜って思って来ただけなの」


「聞くってどこでですか?」


「下に車が止まってるから、その中で30分程度聞かせてくれないかな?今が6時半だから7時まで。学校はそれからでも間に合うでしょ?」


「ま、まあ」


「車の中で話すだけだから着替えとかも大丈夫だよ〜」


外事課の女性は橘に一切の反論の隙を与える事なく、また自分たちは逮捕しに来たわけではないと恐怖心を解き言葉巧みに橘を車へと誘導する。


そして複数人の大人が玄関前に立つ状況で、橘は従うしかなく重い足取りと緊張で早まる鼓動を抑えて重い足取りで下に止めてあるという車に向かう。


アパートの前には見慣れない黒塗りのセダンが二台止まっていた。


その前側の後部座席に案内され座ると、先ほどの佐々木というおじさんと野村という唯一の女性が橘の両隣に座り退路を塞ぐ。


「朝から脅かしてごめんなさいね〜何度も言うけど逮捕とかそう言う事じゃないからね」


出来るだけ優しい口調で言うよう心がけていると伝わってしまうような、明らかに取り繕った口調で野村は橘の緊張を解こうとする。


「初めて異世界に行ったのはいつ?」


「向こうはどんな世界?」


「魔法って具体的にはどんな感じ?こっちの世界で使ったことはある?」


「向こうで出会ったエリスとライネルって人はどんな人?」


など異世界での事を事細かくに質問される。


そして気がつけば約束の30分が経過していることを佐々木の腕時計から確認する。


橘が気づくより先に公安の二人も時間に気が付き、早々に話を切り上げる。


どうやら本当に約束は守ってくれるようだ。


「じゃあ、念押しになるけど絶対にこっちの世界で魔法を使わないでね。それともし異世界で変わった動きがあったらこの電話番号にSMSか電話掛けてね」


それだけ言い残し、黒塗りのセダンは急発進して街の雑踏へと消えてしまった。


早速朝の学校で今朝の事を七瀬に話したかったのだが、不特定多数の生徒がいる場所ではマズイと思いあらためて昼休憩に人気のない場所に誘い出した。


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