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先入観は持たない方がいい

「あ〜あれ、家じゃないと使えないんだ。瞬間移動ってよりは点と点を移動するってイメージの魔法で」


「ここから家まで何分だったっけ?」


「20分ぐらい」


「そこまで遠くないけどなんか嫌な距離なの腹立つな」


「歩けないの?」


「いや何とか」


そう言ってボロボロの体を無理やり起こしあげ、帰る準備をする。


「ライネルさん、ありがとうございました」


「おう!明後日はもっと練習量増やすからな〜」


「え?明後日?」


「なんだ聞いてなかったのか?特訓は2日おきにやるって言っただろ」


コツンっと頭を小突かれる。


「えぇぇぇ〜」


「えぇとは何だ!まあ明後日からまた地獄の再会だ」


今この人自分で地獄って言ったよね?


結局この日は地獄が継続したという憂鬱な気分のまま現実世界に帰るのだった。


「じゃ、また明日」


「うん。また明日」


別れても12時間後には隣の席には彼女がいる。そんな事実に少し心が躍りながら橘も自室に帰る。


翌日、思い返せば1週間ぶりの学校であった。朝イチで職員室に行き先生に事情を話す。一応建前上は風邪を引いて1週間来れなかったという事にしている。


そしてその後教室に入ると一瞬の静寂ののち数人の男子生徒が駆け寄ってきた。その中にはこの前一緒に走ったサッカー部キャプテンの野田も混じっていた。


「橘、この前は悪かった!」


「俺たち入学したばっかで調子乗ってた!」


そんな感じで次々と謝罪の言葉が聞こえてくる。状況が理解できずに困惑していると一人の女子生徒が近寄ってきた。


「コイツら、この前の体育の授業の時に橘くんの足が遅いのバカにしててさ、それが原因で学校に来なくなったと思ってたの」


そう話すのはよくこの男子メンバーと話しているちょっとギャルっぽいギャルだ。


「えっと・・・」


「そりゃ困惑するよね〜橘くん、別にそれが原因で休んだわけじゃないし」


「え?そうだったのか?」


「じゃあなんで?」


「橘くん、風邪を拗らせて1週間休んだんだよね」


聞き慣れた声、七瀬が事情を説明する


「あ、えっと〜うん!そうなんだ・・・」


「何だよ〜」


「でも、あんたたち言い過ぎてたし、もっと謝ったら?」


「だから悪かったって」


そんなこんなで橘不登校疑惑は払拭されるのであった。男子生徒も元々入学早々ということもあり内輪ノリでイジっていたのを謝罪し、それがきっかけで話し始め、気がつけば友達になっていた。


「今度学校終わりカラオケ行こうぜ!お詫びに奢るし」


「マジ!?行く!」


その会話の中でさりげないスキンシップとして肩をパンと叩かれる


「痛ッ!」


「おい凛田!暴力振るったのか!」


「最低なんだけど」


「違げぇよ!肩を軽く叩いただけなんだって」


そんな会話を休み時間に隣の席で繰り広げられてた七瀬は思い当たる節があった


「ねぇ、もしかして筋肉痛?」


という言葉と共にえいっと指で肩を小突かれる。


「痛ッ!」


ちなみに図星である。昨日のあり得ない地獄の訓練の結果、橘は全身筋肉痛になっていたのだ。


今日も学校に来るまでに痛いのを隠していたのだが、外部からの物理攻撃にはもろっきし弱いことが判明した。


「え、なに風邪で筋肉痛ってなるの?」


「俺も昔なったことある。咳し過ぎたり、あと普通に風邪の症状で筋肉痛になったりするし」


と各が風邪と筋肉痛の相関について疑問を呈している中、話題に触れず橘を小突き続ける手があった


「えいっ!えいっ!」


「痛ッ!痛ッ!」


その痛がる声を聞き、周囲の会話は一度ストップする。


「え、何これ超面白いんだけど」


そうを目輝かすのは指の主であり七瀬と知らぬ間に友達になっていたらしい山見紗理奈だ。


彼女はギャルと陽キャの中間のような性格で、まだ数時間しか接していない橘の中でとにかく明るい山見とあだ名がつけられるほど明るい。


「えいっ」


「痛ッ!」


「えいっ」


「痛ッ!いい加減にしろって」


どうやら少し小突いただけで痛がる橘の様子が面白かったらしく、四方八方から小突かれる始末になってしまった。


当の橘は初めは女子にこづかれて正直嫌な気はしなかったが男からの愛のない小突きに対してとうとうキレてしまった。


「橘くん、昼休憩ちょっと良い?」


七瀬にそう呼ばれたのは3限と4限の休み時間のことだった。二人はお互いに昼ごはんを食べる約束をし、それぞれ選択授業が終わり次第校庭付近のベンチに集合という事になった。


「はて、凛田さん。あの二人怪しいと思いませんか?」


「奇遇だな紗理奈さん。俺も同じことを思っていた。風邪を引いてること、そして筋肉痛のことを知っていたのは怪しいと思います」


「ですよね〜誰もその場では言わなかったけど、私思わず何でやね〜んってツッコミかけたもん」


「でも紗理奈さんのご出身は埼玉だそうで。見栄を張るのも良い加減にしたらどうです?」


「あらまこれは凛田さん、お小言が過ぎるようで」


ホッホッホ〜と七瀬と橘が知らない場所でこのような会話が展開されているのであった。


昼休みのチャイムが鳴り、早々に橘は教室を飛び出し購買に行き適当にパンとゼリー飲料を購入してから約束の場所へ向かう。


「ごめん七瀬さん。購買混んでて」


「あ、お弁当じゃないんだ」


「一人暮らしの男に弁当は作れないよ」


そういう七瀬の膝の上には美味しそうな彩りの弁当が置かれていた。


「それ、栄養大丈夫?昨日あれだけ運動したのに」


食べ盛りの男子高校生の昼食が自分より少ないパンとゼリー飲料1つずつなので七瀬は心配する。


「まあ、意外と栄養あるんだぜこれ!」


そう言って差し出してくるゼリー飲料には確かにエネルギーだの何だの色々書いてあるがこれが昼食というのは恐らく


「はいこれ」


「え?」


七瀬は見かねて自分の弁当から2つ入れていた卵焼きとウインナーを、自分の弁当の蓋に置いて渡す。


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