現実はゲームのように上手くいかない
咄嗟にフォローしようと思った橘だが、ここまで話して急に躓く。思い返せば追いかけ回された原因はエリスがダンジョンを破壊したからであり、そもそも元を返せば異世界に連れてこられなければこんな目に遭ってなかったわけだ。
実は俺、被害者説が立証されかけた時、何かを察したエリスが咄嗟に割って入る。
「ま、まあ橘さんもこう言ってくださってるわけですし、実はその謝罪の件で師範にお願いがあって来たのですよ!」
額に汗をかきながら必死に言葉を羅列するエリスに対し、七瀬がライネル師範より怖い眼光を向けるのだった。
「橘さん、戦闘系の魔法に覚醒したのですが、まだ慣れてないらしくて・・・師範に剣の使い方やコツなどを仕込んでいただけないかと」
「そういう事なら容易い。ところでその橘少年だったか?剣は持っているのか?」
「いえ、持ってなくて」
「師範が持っている剣を1本橘さんにあげても宜しいでしょうか?」
「う〜ん。別に構わんのだが、そもそも剣と言っても合う合わないがあるからな」
そう言ってライネルは難しい表情をする。
「まあ、とりあえず俺の部屋に来てくれ」
初めてライネルの笑顔を見る。初めは警戒していた二人だったが、いつの間にか実は優しい人なのだと気がつき警戒が解けていた。
「ねぇ、案外優しそうな人じゃない?」
「うん。最初は殺されるかと思ったけど」
「確かに」
そんな事を話していたらすぐにライネルの部屋に到着した。
部屋と言っても普段生活している部屋ではなく武器庫のような場所だった。
「これが俺の剣のコレクションだ!」
扉の奥には、数々の剣が壁に掛けられていた。どれも暗闇にありながら個々が光り輝いている。
「まあ、本当は戦いようっていうかコレクションで保管してただけなんだがな。エリスが迷惑掛けちまったし折角覚醒したなら好きなの一本持っていけ」
「良いんですか!」
「まあただ、さっきも言った通り向き不向きがある。橘、お前はどういう戦い方がしたい?」
戦い方、慣れない単語だ。ゲームの話ならまだしも実際に自分が戦うとなると中々イメージしずらい。なので橘はどういう戦い方というよりイメージしやすい理想の戦い方を話した。
「こうなんか、ぐわって前に出てジャキって切るような!」
「擬音多すぎ」
「全然何言ってるか分かりませんね」
橘の語彙力のなさに後ろからツッコミが飛んでくるが、とりあえず無視する。
「おお!なるほどな!要は接近戦で戦いたいってわけか!最近の若者はどうも戦い嫌いで遠くから打てる魔法を好むが、こんなガッツのある若者は久しぶりだ!」
何だかよくわからないが認められたらしい。
「接近戦ってなればこの剣一択だ!」
そう興奮気味にライネルは部屋の中央に置いてあるあからさまに強そうな剣を引っこ抜く。
橘はとりあえず剣を見た目で判断していたので、1番強そうな剣が選ばれた事に喜ぶ。
「こ、この剣ですか!?」
「そうだ!いつか使おうとずっと取ってたんだが、今使ってる剣が想像以上になじんじまって、良い剣なのに宝の持ち腐れになっちまってた」
「橘、今日から特訓だ!」
「はい!」
熱気あふれる男性陣に比べ
「なんか盛り上がってますね〜」
「楽しそうで良いじゃない」
っと女性陣は子供二人を暖かく見守るのだった。
橘はてっきりこの剣を持っていきなり魔法が使えるようになる、漫画のように剣から炎や氷を出せると思っていたのだが、現実はそうはいかなかった。
「な・・・ん・・・だ・・・重すぎる・・・」
「お前、全然筋肉ねぇじゃねぇか」
言われてライネルの腕を見れば、それはもうパンパンだった。対して橘は大した運動経験もなかったので華奢な腕をしていた。
「剣も持てないようじゃ、まずは訓練からだな」
「く・・・訓練?」
「まずは腕立て300回」
「300!?」
「これでも初心者向けに譲歩してやってんだぞ」
こうして橘の逃げ場のない地獄のトレーニングが始まったのだった。
「長くなりそうですね〜」
「だね〜」
「良かったらお茶淹れましょうか?」
「おねが〜い」
熱気あふれる男性陣を茶菓子に、女性陣はお茶を嗜むのだった。
その後、腕立て腹筋を300回やり満身創痍になった中で木刀での素振り、懸垂など脳筋すぎるメニューを終わらせ、この日の特訓は終わるのだった。
「俺の訓練に最後まで付いてこれたらこの剣をお前にやる」
「わ、分かりました・・・」
「お疲れ様〜」
途中から昼寝をしてた七瀬が眠いたい目を擦りながらこちらに近寄ってくる。
「エリスは?」
「帰った」
「あいつ」
そもそもエリスが俺に対するお詫びってことで始まった話なのに張本人は帰ったという前代未聞の話だ。今度会ったら怒った方が良いのかもしれない。
「七瀬さん、あの現実世界に帰る魔法を」




