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栗林の森  2

 翌年の夏「ひたちの海」へ二泊しに行った。母親の知り合いが「別荘」を使ってくれて構わない、と言ったのだ。そこで母親は兄貴の同級生でクラスも一緒だった「内田家」に声を掛け、二家族で遊びに行くこととなった。内田家にはぼくと同級生のブンヤともっと小さな妹もいた。どちらの家も父親はついてこなかった。いつも遊んでいた近所のしんちゃん、けんちゃん家族を誘ったのかどうかは分からない。いずれにしろ大人二人、子供五人だ。

 「別荘」と言われていた割には、もろに古い平屋で間取りは台所と畳の二間があるだけ。もちろんお風呂はあったけれどトイレは汲み取り。今は誰も使っていない「空き家」の方が実像に近い・・・・・・と言うか実際、使っていない空き家だったのだろう。あんなに楽しかったのに遊びに行ったのは最初で最後だった。取り壊しが迫っていたから母親の知人は自由に使わせてくれたような気がする・・・・・・。


 海までは歩いて10分くらいだった。着いて早々、水着に着替える華やいだ若い母親たちはバスタオルを腰に巻き、宿題もラジヲ体操も置いてきた子供たちは、酸欠上等で膨らませた浮き輪を腰に巻いた。ぼくらはサンダルを履いて潮の香りを嗅ぎ、海の気配に満ちる古い町の中をぞろぞろ砂浜に向かった。

 砂浜は猛烈に熱く海は鏡のように凪いでいた。優し気な波にチャプチャプしたり、熱い砂に親を埋めたり、埋められたりして初日から遊び倒した。昼に一度戻ったかどうか覚えていないけれど、午後は浜辺の端にある堤防へ遊び場を移しカニを捕まえた。堤防の側面にはテトラポットが沈められていて、小さな単体火山のようなフジツボだらけだったし、動きの速いフナムシだらけだった。

 水平線まで平らに見える海なのに、テトラポットの隙間の海水は浜辺の水際よりも激しく上下を繰り返し、ときどき大きな音を立てて吹き上がることもあった。

 カニ捕りに飽きた内田くんと兄貴はテトラポットの先に沈んでいるコンクリートの壁に興味を持ち、一番近いテトラポットから1~2メートルのそこへ行った。畳二畳ほどのコンクリートの壁の下には、やはりコンクリートの台座があり、接着したところに四角い穴が空いているらしい。二人はケノビで十分な距離なのに大袈裟なクロールで「渡る」と頭から潜り四角い穴を通り抜ける遊びを始めた。まさかのブンヤも同じように遊び始めた。

 「こっちにおいでよ」ブンヤが手招きするけれど行かなかった。カニ捕りの方が楽しいから、的なポーズを取り首を振った。

 そこへ行くのは何も問題はない。でも水に潜り四角い穴をくぐれる自信はなかったし、みんなが簡単に、そして楽しそうに出来ることを、自分だけが出来なければそれは格好のターゲットとなる。兄貴と違って内田兄弟の言葉はソフトでも、結局はみんなからバカにされるだけだ・・・・・・。


 二泊三日で何を食べたかを覚えているのは夕食だけ。二晩ともどこかの魚屋から大皿に盛られた尾頭付きの活け造りが届き、ぼくと「よっちゃん(内田家の妹)」以外は大はしゃぎした。そして畳にバスタオルを敷き全員で雑魚寝した。朝は寒さに目が覚めたものだ。

 中日も午前中は浜辺でピチャピチャしてから、一度家に戻ったか戻らなかったは忘れたけれど(たぶん一度戻ったような気もする)、とにかく午後はテトラポットでカニを捕まえ、結局は少し先にある「壁」の周辺で三人は遊んだ。ぼくは屈辱的な内心を隠し、カニを探しながら過ごした。これ見よがしに潜る三人を見ていると、動きの速いフナムシに八つ当たりの怒りを感じる。誰でもいいから溺れちまえ、と思った。残念なことだけれどぼくは根性なしの負けず嫌いだったのだ。


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