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ごみくん  7

 高校生になったころだったと思う。地元の神社の秋祭りに中学の友達と遊びに行ったとき、同じ中学の別のグループと会ったので、みんなでファミレスへ移動した。そのとき別グループの一人から「はなや」が閉店していたことを知った。夏休みから始めたバイトの行き帰りに店の前を通るそいつは、結構最近だよ、みたいな話をした。聞けばピカデリーサーカスはとっくに撤去され、最後は古いビデヲゲームが2~3台導入されていたらしい。

 「子供の姿はなく、変な大人が一人でよくやっていたぜ」

 すでに第二ファベーラからも引っ越していたぼくはその夜、乗ってきていたスクーターで少し遠回りをし「はなや」に寄ってみた。すっかり深夜になっていたし、平屋の古い建物は当時のまま残っていたので、単に今日の営業が終わり「閉店」しているだけのようにしか見えなかった。

 以来ぼくは「はなや」に行くことはなかったが、やがて大人になり自分の子供が小学校へ入る年に転職した職場が、たまたま「はなや」の近くだった。

 跡地には普通の住宅が普通に建っていて、懐かしさの欠片もなく、それは高校生のとき深夜に寄ってみた景色と同じくらい喪失感はなかった。どうしてだったのか今は分かる。

 ごみくんを思い出さなかったからだ。彼はもう二度と思い出すこともない、不要で膨大な記憶の「溜まり」のなかにいたのだ。でもぼくにとっての彼は、消滅し得ない記憶として実は息をひそめていたに過ぎなかった。



 ・・・・・・ごみくんを最後に見かけたのは小学6年生のときだ。風呂屋から出ると、駐輪場の脇に設置されたジュースの自動販売機を前に立っていた。夜の七時とか八時くらいだったと思う。駐輪場の薄暗い街灯のもとで、自動販売機の白い明かりに浮かび上がる姿は、正直不気味だった。と言うのも、彼の心は(白い明かりの)光源に囚われていて、足下には口を開けていないジュースの缶が10本くらい並べられていたのだ。

 ここ最近設置された新しいその販機は「当たり」が出る機種のもので、パネルの中にディスプレイされるジュース類の選択ボタンには各番号があり、コイン投入口の直ぐ左に白くて小さなルーレットがはめ込まれていた。

 選択したジュースの番号とルーレットの番号が一致すれば、無料でもう一本選べた。もちろんルーレットも再び回る。風呂道具を持たないごみくんが風呂屋の外にいたのはそれが目的だった。さすがに、マジかよ、と思った。見てはいけない姿のように思えた。  

 彼が「はなや」で一目置かれていたのは数年前のことでしかないのに、成長過程の真っ只中に入り始めたぼくには、虚しく思えた。あの頃に比べればぼくらすっかり背が伸びていて、彼はどこか惨めな感じの猫背になっていた。

 ぼくは声を掛けず、飲みもしない「賭け」を見守った。ごみくんは「外れた」ジュースを取り出すと、白い小さなルーレットを凝視し、赤い小さな点が停まっている場所に右手の人差指を当て、それを対角線へ運び、首をひねって思案した。その仕草はピカデリーサーカスのときと一緒だった。彼は対角線から独自の攻略法を持っていたのだ。昔から誰にも語らない、昔は誰もが「また当てるぞ」と思えた仕草。

 ・・・・・・まだそんなことしてんのかよ、と蔑む気持ちになった。当たりっこねぇよ、と。彼は再び外した。


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