河童 2-ゴム人間-
・・・・・・話は変わるが、ぼくはゴム人間を見たことがある。もちろん明治神宮の境内でだ。
ある時、新聞の記事に明治神宮でフクロウの目撃が相次いでいる、というのを読んだ。記事の写真には敷地内の木の樹洞にいる白い小さなフクロウが写っていた。他にももう一羽いるとも書かれていた。
ぼくは奥さん(当時はまだ籍を入れていなかった)にそのことを教えた。まだバイクを持っていなかったし、もちろんお金もなかったしで、次の休みは明治神宮にでも行きますか、となった。今まで初詣以外でもブラブラする日があったので、特別珍しい行先でもなかった。そしてまたぼくらは新聞に出ていたフクロウを探すのが目的でもなかった。見つけられたらラッキーだよね、程度だった。ようするに今度の休みは明治神宮から原宿を流そう、としていただけだ。
当日の込み具合は、晴れた休日の昼過ぎに原宿、渋谷をブラブラして明治神宮にも参拝しに来た人たちがいる程度で、実際ぼくたちもその類だった。フクロウが新聞に載っていた効果はなかったと思う。
代々木口から入り木漏れ日のなかを歩いて来た本殿の賽銭箱前はいくらかの列が出来ていて、あれを目撃したのは列に加わる前だった。Vネックのノースリーブは膝丈くらいある紫色のサテン生地(のようなテカリ具合)で、その下は白い長袖。面長の横顔はどこか緑色っぽく、上着と同じ生地の縦長の帽子を被っていた。白いパンツを履き足元は黄色のブーツ。不自然なほど背を後ろへのけ反らし、顔が垂直になるよう顎を引いていた。嘘だろ? 的奇抜な服装の人物は本殿の前を右側へ「ぬらぬら」歩いていたのだ。
「なんだあいつ?」と奥さんに言った。初めはとても特別な権禰宜さんか? と思った。衣装も、その歩き方も、顔の色も(緑色に塗っていると思った)、何か重要な神事の所作なのか? と。奥さんは、どこどこ? とぼくの指先を追ったが見つけられなかった。
「ぬらぬら」の周りには賽銭を終えた参拝者が沢山いた。でも周囲の誰一人「ぬらぬら」へ目を向ける者はいなかった。ヤバそうな奴だから敢えてスルーしている感じにも見えなかった。不自然な人物に対する周囲の人たちの態度や無反応は、むしろとても自然だったのだ。
どのタイミングで「消えた」のかは分からなかった。奥さんに、あそこ、あそこ、と言っているうちに、なんだか知らないけれどいなくなっていたのだ・・・・・・もしかしたらフクロウの化身だったのかもしれないな、と半分冗談で思った。心がゾワゾワもせず、恐怖感もなく、とにかく変な服を着てとてつもなく変な歩き方をする、奇抜なコスプレ参拝者か、やはり神社の関係者だと思ったからだ・・・・・・ぼくはまだこのとき「ゴム人間」という存在を知らなかった・・・・・・そんなわけでそのうちすっかり忘れてしまうのだった。
一年かそれ以上だったろうか? 東スポの一面に載っていた「ゴム人間」の写真を見た。明治神宮へ母親と参拝しに来た娘が撮った写真だったと思う。
ぼくはそれを見ても、一年かそれ以上前に自分も目撃していたことをなぜか思い出さないまま奥さんへ話した。バイト先の東スポに云々の写真が載っていたよ、と。
奥さんは直ぐに言った。
「前に、あんたが見たって言っていたのと同じじゃないの? 私には見えなかったけど」
「・・・・・・」ぼくはその一言で急に思い出したのだ。
記憶の中の服の色は新聞の写真と違っていたけれど、雰囲気は限りなく似ていて、世間では「ゴム人間」と呼ばれているらしい。
思い出した記憶の中ではゴムらしさは余りないのだが、確かに背の反り方は軟体だった。たとえば鉄や木、あるいはプラスチックであれば、あれほど「ぬらぬら」と歩けはしないだろう。確かにあの「ぬらぬら」感はゴムが一番言い当ていのかもしれない。
・・・・・・母が見た河童について、今現在のぼくがどう解釈しているかは、最後にUFOの話を述べてからにさせてもらいますね。




