深夜のラジオ
「――――では次に、お便りが届いておりますので、読んでいきましょうか。」
毎週木曜日の深夜2時半。真っ暗な布団の中に、低めの声が響く。
「ラジオネームは、うんっと、名無しさんかな? 10代の方ということで。いつも楽しく聞かせていただいてます、と。ありがとうございます。」
紙が擦れる音の後、淡々と朗読が始まった。
「えー。大人になるとは、どういうことなのでしょうか。先日教科書で、各ライフステージにおける発達課題というものを見つけました。どうやら、過去から現在までの自分が同じであると考えることが、大人になる課題のひとつらしいのです。と、そうなんですね。」
ずっと同じ姿勢で、目を瞑って聞き流している。
「そこで気づきました。幼い頃の記憶では、誰とでもすぐに遊んでいたのに、今の休日は家で1人だけだと。他にも色んなことが、あの頃とは違います。過去の自分と現在の自分が、同じ人間だとは思えません。」
破れた写真の人物は、眉間に皺がよっている。
「私は、大人にはなれないのでしょうか。私はずっと、このままなのでしょうか? ……以上ですね。お便り、ありがとうございます。」
丸まっていた体は仰向けになり、はーっとため息が出る。
「えっーと、過去の自分を自分だと思えない、ということで。この方は同じだと思って、大人になりたいのでしょうね。きっと。でも、無理にしなくてもいいと、私は思っちゃいますけどね。」
上半身をあげて、声に耳を傾けている。
「いや、悩みが減るのに越したことはないんですよ。ただ、私も昔の自分と今の自分は違うって、ずーっと思っているものですから。ええ。それでもこうして、ラジオで皆さんとお話しして。まあ、世間一般的には大人。じゃないですか。」
明るくなった部屋の奥に、卒業アルバムが覗いている。
「私はこのままなのでしょうか、と書いてありますけど、大人にならなきゃ人間は変わらないという訳でもありませんから。大人にならなくたって、人間、変わることはできますから。まずは、ほんの少しだけでも変えてみたら、あなたの目指すような大人に近づけるのではないでしょうか。」
水が喉を潤している。
「……こんな答えでいいのかな? まあ、あくまでも私なりの答えなので。あなたがいい方向へ行けることを願っています。少し長くなりましたが、まだまだ夜は長いですからね。それでは、次のお便りを――」
言い切る前に、扉はかたんと閉められた。