介護の言葉遣いについて
介護施設での言葉遣いについて。
部署に新人のA君が入って来た。介護の仕事は初めてということで丁寧に色々教えることに。
と言ってもウチのグループホームはがっつり介助が必要な方はあまりおらず、一部お手伝いと言った感じ。
むしろ『一緒に何かをする』『QOLを高める』という方向性に重きを置いている。
まあ、いずれ重度の方も受け入れ特養化する未来もあり得るが今のところは『グループホーム』らしいサービスを提供している。
さて、A君だが1週間ほどして職員の学歴を気にし始めた。
ちなみに介護職は割と高卒者や中卒者が多い。
うちの部署も大卒は私やA君を含め片手で数えられるほどだ。
正直、学歴はあまり関係ない業界なので『悪手だなぁ』と思いつつも私は適当に流していたがふと気づくと彼は大卒の自分は出世するに違いないと学歴マウントを取る様になっていた。
「だって、茶葉さんはいきなりランク2からスタートでしょ?俺もすぐっすね」
確かに私は法人内では新人だがランク2(中堅、リーダーに推薦される可能性あり)の職員だ。
ただ、それまでに十数年のキャリアと資格がある上、前職もグループホームだったという経緯がある。
ちなみにランク2になるには『介護福祉士』を持っている事が必須条件なので彼の昇格は基準が改定されない限り最低でも3年後だったりする。
さて、私は傲慢な彼の態度も特には気にならなかった。
なんか面白かったら創作キャラの元ネタにしてもいいかぁくらい。
ただ、ふと気になった事があった。それは彼の言葉遣い。
介護業界あるあるだが利用者様にタメ口、子ども扱い。いわゆる、『接遇』に関する事だ。
何度か注意をしていたがある日、上司にも注意されたと彼が不満そうに言って来た。
「でもある程度崩さないと親しみ持ってもらえないし言う事も聞かないですよ。それでなくても年寄りって『指示』も中々通らないし」
言いたいことはわかるし私もかつてはそうだった。
ただ、私が十数年やって来て思った事を彼に伝えた。
まず、流石に跪いて「○○様」と平身低頭まではしなくていいがやはり丁寧な言葉遣いは必要。
別に丁寧な言葉遣いでも親しみは持ってもらえるので崩す必要はない。
A君は半信半疑だが私の業務中の言動を観察して『うわ、マジか』と言っていた。
私は全く崩れない、とは言えないが体感95%は丁寧さを崩していない。それでいて利用者様からは親しまれている(他者評価)。
接遇評価Aは伊達じゃない(ちょっと自慢)。
私のことを蛇蝎の如く嫌っている利用者様もひとりだけいるが万人に好かれるのは無理なので割り切っている。でも、丁寧は崩さない。
後、普段から使っている言葉も物凄く気を付けている。
言葉狩り、ではないが記録でも細かい部分で表現に気を付けている。
『促す』『指示』という言葉を割と記録でみるのだがいずれも『命令形』。
私はこの二文字は絶対に使わない。『提案する』など言い換えているし、トイレ誘導も『トイレに案内する』で徹底。
入浴でも『○○さんのお風呂行ってくるわ』や『○○さん風呂入れるわ』という言葉が多いがこの辺も徹底して「○○さんをお風呂にご案内します」などと言い換えている。
こういうことをしていると何が起きるかというと自然と言葉遣いが丁寧になるし、周囲もある程度は影響されて丁寧な言葉遣いになったりする(出来ない人は徹底的に出来ないが)
ちなみにそんな私がお堅い職員かと言われると……
まったり時間に謎のダンスやどじょうすくいを始める。
レクになると謎の実況が始まる(喉が痛い)。
輪投げゲームに飛び入り参加して全弾外しドヤ顔で去っていく。
得意技は『餌を貰っている鯉の真似』。
唐突にクジャクの鳴きまねをする。
基本、リアクションは大きい。
夜、監視カメラに映っているのを承知で無人のホールで筋トレを始める
といった奇行がたびたび目撃されており『あの、独身の』とがっつり覚えられている。
A君が『○○さん、ご飯炊くの手伝って』と言っても『腰が痛いから無理』『したくない』と断られるが私が言うと『それくらいしよっかな』としてくださったりする。何なら私が立ってるときは『ご飯炊こか』と来てくれたり、食べ終えた食器を運んでくれたりする方も。
まあ、『情けない独身男』と思われている可能性もあるのだが……
とこんな感じで私が気を付けている点を伝えたのだがA君は納得しなかった。
まあ、押し付ける気はないが『そもそも相手はお客さんだぜ』と思った。
彼の中で、老人に対していい感情が無かったりするのも最近分かった。
年金問題や、日本の様々な問題。
それらを作ったのは確かに高齢者の世代。
A君は『あいつらが日本をオワコンにしたのに何でのうのうと偉そうにしてるんだ』と言っていた。
まあ、全く分からなくもないしニュースを見て政治家の不祥事とか『マジかよふざけんな』と思う。
割と無遠慮に古い価値観を押し付けてきたりもする。正直、イラっとくることもある。
ブラック企業の風土だって正に上の世代が作ったものだと思う。
ただ、目の前で自分の状況が分からなくなって混乱したり、出来ていた事が出来なくなってイライラしたり、落ち込んだり、困っている利用者様達に罪があるわけではない。彼らも困っているのだ。
綺麗ごとを言うのではなくただ純粋に、敬意をこめて私は今日もどじょうすくいを……じゃなくて丁寧な言葉遣いを続けるのだ。
ちなみにA君は普通に暴言吐きまくって人間関係最悪になり異動していた。残念。