地学部合宿会 33
僕らの会話なんて、いつもからほぼほぼ山河内さんの一方通行だし、仲直りをしていなくても、隣に立つことくらいは容易だ。仲直りの証明なんて困難だ。それにしても、堺さんがそこまで言って僕らの関係を危惧していたのか気になるが、山河内さんに言ったら訊いてくれるだろうか。いや、ないな。僕から直接訊いたとして、堺さんは答えてくれることはないだろう。もしくは、楠木先輩と同じ答えを言われるだろう。あの回答は、実に巧妙だ。言われてしまえばこちらとしては、納得せざるを得ないから。堺さんは頭がいいから、僕が思っていることなんてとっくの昔に思いついていて、完璧な回答を持ち合わせているのだろう。だったら、堺さんには聞くまでもない。訊くだけ無駄だ。それよりも仲直りの証明のほうが大事かもしれない。どうにかして証明をしたいけど、そもそもの話、僕と山河内さんの関係なんて、同じ学校の同じ学年の同じ部活なだけだ。仲良しではない。会話という会話も普段から数少ない。仲直りをしているところを見せつけるなんて、不可能だ。ただ単に会話をしているだけでなんて、堺さんが信じてくれるわけない。
そう思っていた矢先、僕のスマホに二件のメッセージが届いた。送り主は堺さんからだった。何気に堺さんからメッセージが送られてくるのは初めてだった。堺さんから届いたメッセージにはこう書かれていた。
(仲直りできたみたいで良かった)
(これからは喧嘩なんてしないで、仲良く過ごしてね)
これはまた、返信に悩む文言だ。
なんて送ればいいんだ。単純に(どうも)と送るのか、それとも、(心配かけてすみませんでした)と謝っておくべきだろうか。心配されている理由も知らずに、謝るのも変な気分だ。ここは(どうも)とだけ送っておこう。どうせ、既読をつけるだけで返信なんて返ってこないだろうから。
僕に会話のキャッチボールをするつもりがない、と言われてしまえば、それはそうなのだが、次に返ってきた言葉に僕が上手いこと言える可能性だって少ないのに、会話を続けるほうが得策ではないのだ。それに、冷徹な堺さんだから、返信が来るような期待を込めても、返ってこなかった時が辛いから簡単なものでいいんだ。
僕の思っていた通り、堺さんは既読だけをつけて、言葉の返信をくれることはなかった。僕の胸に少しだけ傷がついたが、割り切れば無傷みたいなものだ。
そんなこんなで、海老ヶ池まで歩いて来た。最近来たばかりの二回目だってこともあって、高揚感のようなものは湧いてこなかった。逆に、また来てしまった、というような絶望感に似た感情が僕の脳内で巡っていた。
「それじゃあ、自由行動にするから、野鳥の観察をしたり、池周りを散策するなり好きなことをしててね。一応、十一時くらいまでの予定だから、時間が来たら集合かけるね」
此花先輩の合図で、解散し、池周りを歩いているものや、野鳥を観察しているもの、野鳥小屋で休んでいるもの、池をまじまじと観察するものなど、それぞれに行動をしていた。僕はと言うと、したいことが思いつかなくて、池の周りをぶらぶらと、何もすることなく一人で歩いていた。一周するのはしんどいから、ある程度のところまで来たら、引き返して野鳥小屋にでも行こうと、のんびり行動していた。
山河内さんがまた付いてくるなら話せることもあったけど、堺さんとの仲を割きたいわけじゃないから、今だけは一人行動だ。
しばらく一人でぶらぶらと歩いていると、木陰に隠れていそうな、石川先輩を見つけてしまった。
今は自由時間と言っていたから、サボっていることを咎められたりはしないだろうけど、なぜだろうか、今一番会いたくなかった。
石川先輩をよく見ていると、体を少し揺らしているから、何かをしている様子だが、ここからははっきりとは見えない。多分ゲームでもしているんだろうと、この場を離れようと振り返ると、目の前の、至近距離に楠木先輩が達観した様子で立っていた。もちろんだが、振り返った、その目の前に人がいたから僕は叫んだ。小さい声だったけど、僕の存在に気づいていなかった石川先輩は、驚いた様子で僕らに声をかけた。
「びっくりした……楠木と中田じゃないか。こんなところで何しているんだよ」
これはこっちのセリフだと言いたかったが、何も考えずに、ただぶらぶらとしていただけだし、先輩だってこともあって、僕は口を瞑った。そんな僕に代わって、楠木先輩が解説を担当した。
「たまたまここに来ただけだよ。石川は去年と同じことを?」
「まあ、そんな感じだ……」
石川先輩は、いつもの自信に満ち溢れたような話し方ではなくて、後ろめたいことがあるような言い方をしていた。
これは確実に何かを隠している。楠木先輩は、それが何なのか知っているようだ。楠木先輩にこっそりと訊いてもいいが、教えてもらえない可能性だってある。石川先輩が、何をしていたのか、めっちゃ気になる。
「あの、石川先輩は何をしていたのですか?」
気になりすぎて、勝手そうやって訊いてしまっていた。しまった。と思ったのは、それ訊いてしまってから、石川先輩の少し困った顔を見た時だった。
「石川。中田君なら、いいんじゃないか? 昨日だって、勝手に呼び込んで巻き込んだんだし、謝罪も込めて見せてやりなよ」
楠木先輩がそう言って、石川先輩はため息を吐きながら、A3のスケッチブックを僕に手渡した。
「あんまりジロジロ見るなよ。それと、汚すなよ」




