表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フェイタリズム  作者: 倉木元貴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/99

地学部合宿会 32

「石川君は起きた?」

 

「それが、起こしてみたのですけど、まだ寝ると言って、二度寝しました」

 

「そう、わかった」

 

 そう言って此花先輩はコーヒーを飲み干して、台所でコーヒーカップを洗い、階段を登って行った。

 

「さあ、僕らも朝食にしようか」

 

 楠木先輩は、何か後ろめたいことでもあるのか、誤魔化すように言っていた。そんな会話から一分も経たない間だった。二階で、ドンッ! と大きな物音が鳴ったのは。

 朝食を摂りながら、僕は恐る恐る楠木先輩に訊いた。

 

「あの……今の音は?」

 

 楠木先輩は表情を何一つ変えることなく、サンドウィッチを食べながら言った。

 

「毎年恒例の此花先輩による、石川起こしだよ。今の音は、多分だけど、一発大きなのを喰らっているね。寝坊したら、ああなるから来年は気を付けなよ」

 

「き、肝に銘じておきます」

 

 来年になれば、此花先輩はいない。だが、此花先輩と仲のいい乃木先輩がほぼ部長になることが確約しているから、やり方は踏襲すると思う。乃木先輩はめんどくさい人だから、下手したら、一発ですまない。この花先輩よりも厄介な可能性だってある。来年は本当に気をつけよう。

 そんなことを考えながら朝食を食べ終え、食器類を洗っている時に、ようやく石川先輩は降りてきた。髪と服は乱れて、頬を片方だけ赤らめて、赤くなっている頬を手で押さえていた。

 

「いってえ……」

 

 まさか本当に殴られているとは。それも、頬が赤くなる程度ということは、相当強めに殴られている。下手すれば、僕もこうなっていたとか、想像もしたくないな。僕もほぼ寝坊みたいなものだったから、起こしてくれた楠木先輩には感謝しなきゃ。あ、その前に、石川先輩を心の中で拝んでおこう。

 

「何か用?」

 

「いえ、何も……」

 

 危うく、石川先輩にバレるところだった。

 食器を洗い終えた僕は、二階に上がって、帰る用意とこれからの準備を整えていた。

 

「昨日は大丈夫だったの?」

 

 同じ部屋には楠木先輩いるから、二人きりになったタイミングで訊いてくるだろうと思っていたから、ある程度の心の準備はしていたけど、いきなり言われると、緊張というか、言葉は出てこないものだ。

 

「……大丈夫でした」

 

「その割には元気がないような気がするけど?」

 

 よくもまあ、そうまじまじと僕のことを見ていられるよ。

 

「単純に寝不足です。なかなか帰してくれなかったので……」

 

「そっか。それなら安心。仲間割れなんてしないでよ」

 

「はい……すみませんでした」

 

「僕には謝らないでよ。仲直りできたのだったら、それでいいから」

 

「はい……」

 

 荷物の整理を終えて、此花先輩に言われていた集合場所に楠木先輩と向かった。女子は既に全員集合していて、楠木先輩と僕が集まったことによって、石川先輩が最後の一人になっていた。

 

「山本君。石川君遅くない?」

 

 苛立って、腕を組みながら肘を高速で軽く叩いている此花先輩が言った。

 

「一人になったから、ゆっくりしているのかもな。これは、呼びに行ったほうが早いかもしれないな」

 

 苛立ちを見せている此花先輩に対して、いつも以上に落ち着いた様子で山本先輩が言った。

 

「それじゃあ、呼びに行こうか。山本君」

 

「そうだな」

 

 此花先輩と山本先輩は持っていた荷物を乃木先輩と岡澤君に託して男子が泊まっていたコテージに足を向かわせた。それから五分もしないうちに、荷物のように引きずられている石川先輩が姿を現した。

 地学部員が全員集合したことによって、此花先輩は手を叩いて注目を集めた。

 

「みんな揃ったことだし、これからの予定だけど、隣にある海老ヶ池の散策を行います。基本は自由行動なので、好きなことをしてください」

 

 この流れはこの間と同じだ。如月さんが企画した時も、海老ヶ池を散策したから、もう見飽きてしまっている。それに、池に興味がない僕からすれば、ただの池であることには変わりはない。暇になりそうな予感がある。これを今日は何時間するつもりなのだろうか。何時までとか何も言われなかったから、此花先輩の裁量次第なんだろうけど、さすがの僕も二時間くらいが限界だ。それ以上は勘弁してくれ。

 全員で海老ヶ池まで移動している途中だった。またしても一人で歩いている僕の隣に山河内さんがやってきたのだ。これも勘弁だ。もう話すことなど僕にはないというのに。

 

「おはよう」

 

「ああ……うん、おはよう……」

 

 ただの挨拶だったのに、初めて会った時よりも気まずくて、緊張した。

 

「今日も相変わらず元気ないね」

 

「それは逆。山河内さんが元気すぎるだけ。何であんな時間に寝たのに、そんなに元気でいられるの。僕は眠くてたまらないよ」

 

「うーん……いつも夜まで勉強しているから、慣れかな」

 

 僕としてはなりたくない慣れだ。

 

「いつもあんな時間まで勉強しているの?」

 

「さ、さすがの私も、毎日ってわけじゃないよ。疲れた時には寝ているよ」

 

 昨日の活動量で疲れがない、体力お化けの山河内さんからは、何か恐ろしいものを感じた。

 

「それで、何か用?」

 

「用ってわけじゃないけど、真咲に仲直りしたこと、言っても信じてくれなかったから、こうやって、仲良しアピールをしているんだよ。私だって真咲に怒られたんだから」

 

 なるほど、それでこうして僕の隣に来たってわけだな。だけど、それだけで、仲直りをしたって証明にならないんじゃないか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ