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フェイタリズム  作者: 倉木元貴


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地学部合宿会 31

 いかんいかん。また気持ちの悪い顔になっている。ほぐしていつも通りに顔に戻さないと。

 

「山河内さんでも忘れるってことがあるんだね」

 

「私だって人間だから、忘れることだってあるよ。さては、私のことを宇宙人か何かだと思っているな」

 

「宇宙人といえば、昔の偉人にそう呼ばれている人がいたな。ノイマンだったっけ?」

 

「それは火星人。まあ、地球以外の生命体って意味での宇宙人の定義だったら同じだけど」

 

 とてもくだらないことしか言っていないのに、何故だろうか。すごく楽しい。どんなボケに対しても、平等に突っ込んでくれる、山河内さんならではの楽しさだ。これを他の男子は味わえていないと思うと優越感に浸れる。

 

「その人も天体に詳しかったの?」

 

「ノイマンは天体じゃなくて、基本は数学者だよ。コンピュータの基礎を作った人の一人。地学の分野で言うのなら、気象分野で数学コンピュータを使って、天気予報を行うことを提案した人だよ。当時じゃありえないくらい天才だったから、実は火星人なんじゃないかって言われてたって話が面白いよね」


「……だね」

 

 意気揚々と難しい豆知識を語られても、深夜脳の僕がこれ以上掘り下げても、何も理解できない未来が見えてしまっている。これは話題を変えないと、頭がパンクするやつだ。

 と言うか、これいつまで続けるんだろ。山河内さんは、また僕に寝坊をさせるつもりなのだろか。今回だけはそれは、勘弁してほしい。如月さん主催の合同会なら、同じ歳の人間しかいないから、気を使わず、多少の寝坊も、笑って誤魔化せるが、今回は違う。先輩たちがいるから、寝坊なんて御法度だ。何なら、一番最初に起きていないといけない年齢だ。今の時間をさらっと確認して、もう遅いからと休むことをさらっと言って、今回はこれで終わりにしよう。さあ、今は何時だ?

 ズボンのポケットから取り出して、表示を光らせたスマホは、二時五分と数字を映し出していた。

 こりゃ眠いわ。こんな夜更かし久しぶりだ。山河内さんと一緒にいるのが楽しすぎて、時間を見ることを疎かにしていたけど、まさか、こんな時間になっているとは、思ってもいなかった。さて、ここからが問題だ。今の山河内が素直に返してくれるだろか。だから、さらっと言いたのだが、ストレートに言う以外に伝える言葉が出てこない。ここぞと言うタイミングで、目立った活動をできていない僕の脳は、ポンコツだ。初めからわかっていたことだけど、ショックというか、どうすることもできないんだという絶望感に苛まれている。

 

「や、山河内さん……」

 

「どうかした?」

 

 時間という概念がないのか、不思議な顔を浮かべていた山河内さんに、僕はスマホを見せた。

 

「もうこんな時間なんだし、そろそろ終わりにしない?」

 

 山河内さんは僕のスマホを見つめていた。それも一分くらい。変な画面背景にしていた記憶はないけど、そんなに見られて恥ずかしくないのか心配になっていた。

 

「知らない間にこんな時間になっていたんだね」

 

 画面背景を見つめられていないかったことは良かった。ただ、案の定、山河内さんはまだ話したりなさそうだった。

 

「時間がある時に、いくらでも話は聞くから、今日はお開きにしようよ。語ることがたくさんあるんでしょ。一日じゃ山河内さんも足りないんじゃない?」

 

 山河内さんは何とか納得し、今日のところは、深夜の会を終了した。僕は眠気のせいで、何も考えられなくなっていた。山河内さんと分かれて、コテージに戻り、真っ暗なコテージの中、先に休んでいた場所に倒れ込むように眠った。隣のことなんて気にせずに。

 朝は、楠木先輩に揺らされて起きた。

 

「中田君? 大丈夫?」

 

「え……」

 

 寝ぼけながらスマホで時間を確認すると、時間は八時五十五分を表していた。八時五十五分という数字を認識してから、僕の目は一気に覚めた。前日に、此花先輩に言われていた集合時間は、九時だ。完全に寝坊してしまった。

 

「すみません……すぐに着替えます!」

 

 焦って着替えを済ませようとする僕に、楠木先輩は言った。

 

「大丈夫。九時集合を三十分ずらすって、此花先輩が言っていたから」

 

 きっと僕のせいだ。僕が寝坊をしたから、此花先輩は時間をずらしたんだ。昨日からみんなに迷惑かけてばかりだ。此花先輩には謝ったほうがいいよな。でも、どう謝れば……。

 悩んでいた僕に、楠木先輩は優しく声をかけた。

 

「大丈夫だよ。ほらあれ見て」

 

 楠木先輩が指を刺した先には石川先輩がいた。それもまだ眠っている。

 

「石川は絶対に寝坊をするから、此花先輩は初めから三十分早めに連絡していただけだよ。だから、中田君のせいとかではないからね。全て石川が悪い。さあ、石川を起こして、僕らも朝ご飯に行こうか」

 

 そう言って、楠木先輩は石川先輩の顔面をビンタした。それも、パチンッと部屋全体に響くくらいに強い力で。

 

「いったっ! 何するんだよ楠木!」

 

「石川がずっと寝ているから悪いんだよ。時計見てみろよ。此花先輩が言っていた集合時間だぞ。さっさと起きろ」

 

「へっ、どうせ、一時間くらい時間をずらしているんだろ。だったらもう少し休ませてもらうよ」

 

「もう知らないよ。中田君こいつはほっておいて先に行こうか」

 

「は、はい」

 

 楠木先輩に言われて、階段を降りると、優雅にコーヒーを飲んでいる山本先輩の隣で、同じく優雅にコーヒーを飲んでいた此花先輩がいた。

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