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フェイタリズム  作者: 倉木元貴


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地学部合宿会 30

 そんなことを言われても言えないんだよ。言えるのなら、今すぐにでも言ってしまいたいよ、でも、それを言ってしまったら、今までの全てが崩壊するから言えないんだよ。それよりも、勝手な行動をして如月さんに怒られる方がよっぽど怖いかな。予定にないことしたら、すぐに怒るからな如月さんは。そんな如月さんと平穏に過ごすためには、イエスマンになるしかないんだよな。

 

「そ、そんなことないよ……僕はさ、山河内さんの話を聞くのが好きなんだ。だから、僕自身は何も言わなくたってもいいんだよ。聞くことも意外と楽しいし、自分の知らない話を聞くってことは、見識を広げられるでしょ。そういうところが好きなんだ」

 

 下手な誤魔化しは逆効果になるが、今回はどうだ。

 

「そうなんだ。わかった。中田君には話したいことたくさんあるから、覚悟しててよね」

 

 何とか大丈夫そうだ。しかし、話したいことがたくさんあると言われても……時間を考えてほしいものだ。今の僕の脳みそでは、話されたことの約八割は、聞いた耳とは反対の耳から抜け出してしまうだろう。また後日の約束を、取り付けられたらいいのだけど、僕にはそんな度胸はないから、山河内さんが話終わるまで、話を聞くことしか僕にはできない。これがまた争いの火種とならなければいいけど……いや、僕の脳みそが頑張れば何とかなるのか。山河内さんとの蟠りをこれ以上起こさないように、頑張ってくれ、僕の脳みそ。

 

「何から話そうか?」

 

 そう言われても、山河内さんが何を話したいのかわからない僕には「星座のこと」以外にいう言葉がなかった。

 

「おさらいだけど、夏の大三角はどこにあるかわかる?」

 

「流石に覚えた。あの天頂付近にある三つの一番星でしょ。はくちょう座のデネブ、わし座のアルタイル、こと座のベガ。如月さんに教え込まれたから、それは完璧だよ……」

 

 言ってしまってから気づいたが、これは言ってはいけないことだった。これだから、深夜脳は。本当にろくなことがない。

 ただ、山河内さんはそれをスルーした。

 

「すごいね。じゃあ、黄道十二星座は? 十二個言える?」

 

「それはちょっと……すみません、覚えていないです……」

 

 潔く謝ったが、山河内さんはこれもまたスルーした。

 

「難しいもんね。でも、私に並びたかったら、せめて黄道十二星座は覚えないと。黄道十二星座なんて、全体のほんの一部なんだから」

 

「え⁉︎ 星座って十二個だけじゃないの?」


「中田君はそれでも地学部天文班?」

 

「……ごめんなさい」

 

「じゃあ、今から言うことを覚えておいてね」

 

「はい……」

 

「星座は、全部で八十八個あるの。その内の黄道。つまり、太陽の通り道にある十二個の星座が占いとかに使われる十二個ってこと」

 

「へ、へえー……」

 

 冗談で言ったつもりが、山河内さんは信じてしまったようで、本当は八十八個星座があることは知っていると、言うタイミングを失った。

 

「中田君、誕生日は?」

 

「え⁉︎ なんで?」

 

「自分の星座知らなそうだから」

 

 それくらいは知っている。何なら、本当は十二星座を全て知っている。だけど、せっかく山河内さんに誕生日を覚えてもらえるチャンスだから、ここは知らないふりをしておこう。

 

「く、九月二十三日だよ」

 

「じゃあ、てんびん座だね。しかも、始まり。ちょっとずるい」

 

 何がずるいのか。天体をまだこよなく愛せていない僕にはわからなかった。

 

「てんびん座は今見えるの?」

 

「う〜ん……今は見えないね」

 

「そっか。じゃあ、山河内さんの星座はどこにあるの?」

 

「私? 私は、おうし座だから……東にギリギリ見えるよ」

 

 あの辺。と言いたそうに指を差されても、無数の星にしか見えない僕にとってはどれなのか、わからなかった。

 

「あの明るいの?」

 

「そう! あれは、アルデバラン」

 

「何だか聞いたことのある名前だな……あ、確か、冬のダイヤモンドを構成する星の一つだったよな……」

 

「よく知っているね。おうし座のアルデバランとおおいぬ座のシリウス、オリオン座のリゲルにこいぬ座のプロキオン、ふたご座のポルックスとぎょしゃ座のカペラ。この六つに恒星で構成されているんだよ」

 

 山河内さんは“恒星で構成”と言う部分がダジャレになっていることに気がついているのだろうか。

 

「ダジャレ? わざと?」

 

「ち、違うもん! たまたまだもん! もう、揶揄わないでよ」

 

 山河内さんは、顔を赤らめそっぽを向いた。

 全然わざとなんかじゃなかった。揶揄われて恥ずかしがる山河内さんもまたかわいい。普段は完璧女子なのに、こう言うお茶目なところって、ギャップがあってどうしても愛おしく感じる。いつまでも見ていられる。気持ちの悪いニヤけ面をしていないかだけが心配だ。ああ、でも大丈夫か。山河内さんは僕の方を向いていないし、見られていないよな。

 

「もう……中田君が変なこと言うから、何を言おうとしたのか忘れた」

 

「僕のせい?」

 

「うん。中田君が変なことを言わなかったら、忘れていなかった」

 

 わざと怒って顔を膨らませている山河内さんもまたかわいい。これも、いつまでも見ていたいと言うものだ。見てて癒される。こんな山河内さんを見ていたら、僕の小さな悩みなんて吹き飛ばされる。

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