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フェイタリズム  作者: 倉木元貴


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地学部合宿会 29

「如月さんに言われたってのが少し恥ずかしくて、誰にも言ってなかったんだ……」

 

 本当のことの方が恥ずかしくて言えない。もうだめだ。僕の脳は限界だ。

 

「そうだったんだ……中田君、また私に秘密を握られてしまったね」

 

 山河内さんは、ニヤリと笑って僕に視線を向けた。僕は目が合った瞬間に目を逸らした。

 だって、それはずるい。そんなの直視できるわけがない。こんな表情を見てしまったら。また惚れてしまう。

 

「や、山河内さんの秘密も知っているから、お互い様だよ」

 

「ふーん……それもそうだね。じゃあ、約束しよう。指切り。お互い秘密は漏らさないってことと、約束を破ったらもう一方は誰に話してもいいってこと」

 

「うん」

 

 指切りなんて子供みたいでかわい……いやいや、騙されるな。これは、山河内さんの演技だ。そうやって、人を騙して、常に有利になろうとしている。

 客観的に見て、山河内さんの言葉には、信憑性というものがもれなくついてくるが、僕の言葉なはどうだろうか。そんなに仲の良くない奴が聞いたって、信じれるものじゃない。こんな約束をしたって、僕は常に不利なのだ。

 子供のように無邪気に、指切りの歌をかわいく歌っている山河内さんを前に、邪推な感情は浄化されていた。

 こんなにかわいい笑顔を浮かべる山河内さんが、そんなことを考えているはずがない。いつだって山河内さんは、自分に正直で真っ直ぐだ。捻くれているのは、僕の方だ。

 

「ごめん、山河内さん……」

 

「終わった話だから、今さら謝らなくても」

 

「それでも、ごめん……」

 

「それよりも、いつも通りに星を見ながら話そうよ。今は月が沈んで、星がよく見えるから」

 

 山河内さんに言われて、空を見上げると、さっき地学部のみんなと見た時よりも、はるかに雄大で、明るく輝いている星々が僕の視界には映し出されていた。

 

「綺麗……」

 

 空を見上げてしまい、口が開きやすくなっていた影響か、勝手そんな声が漏れてしまっていた。

 

「だよね。一番星は決められないけど、みんなそれぞれに輝いているこの時間の星も、みんな綺麗だよね。まだ覚えられていないけど、この空一面に無数の星座があって、もしかしたら、あの一つ一つの恒星に太陽系のような惑星がたくさんあって、宇宙人だっているかも知れない。そうやって、考えていると、楽しいよね」

 

「うん……」

 

 山河内さんと話をしていると、つくづく思い知らされる。どれだけ僕自身が小さいものなのか。

 正直、山河内さんの話にはついていけない。それを山河内さんもわかっているから、我慢して、いつもこんな簡単な話しかしない。その気持ちもわかる。自分自身が楽しいと思っていても、他人がその話に興味があるかはわからない。何の話をしているの。みたいなことを言われたり、そんな顔をされるのが一番心に刺さる。過去に僕も、そんなことがあって、二度と話さなくなったこともあった。山河内さんには、僕のようになってほしくはない。いつもように、自由で、それでいて博識で、知識をひけらかしてほしい。

 

「山河内さん……僕はまだまだ、山河内さんのような天文知識はないけど、いつか山河内さんに追いつけるように勉強を頑張るから、星座、覚えている限りでいいから教えてほしい。僕を山河内さんの色に染めてみせてよ」

 

 山河内さんに背を向けて、夜空を見上げてふと思った。僕は一体何を言っているんだろうと。

 恥ずかしい。ただ恥ずかしい。深夜のテンションって変なことを言ってしまうから、話し込みたくないんだよな。あんなこと言ってしまった手前、今さら撤回なんてできないし、この場を離れることすらできない。それに、今だけは山河内さんと顔を合わせたくない。元から変な顔だけど、今はもっと変で、情けない顔をしているに違いないから。山河内さんが何も言ってこないのが、不幸中の幸いってことだろうか。

 

 山河内さんは、静かに僕の隣に並んだ。

 

「いいよ。星のこともっと好きになるように、私が教え込んであげる」

 

 面と向かってそんなことを言われてしまったら、星だけではなくて、山河内さんのことまで好きになりそうだ。いや、それについてはもう手遅れか。僕は、もうっとくに、何なら初めて会った日から、ずっと、山河内さんのことが好きだった。誰にでも分け隔てなく、こんな態度をしていると知っていても、単に僕がちょろい人間だと自分でわかっているけど、それでも、僕は山河内さんが好きだ。

 

「あの……山河内さん……いや、やっぱりいいや。ありがとう。ご教示よろしくお願いします」

 

 ……危なかった。何でか自分一人で、勝手にいい雰囲気になってしまって、如月さんに相談もなく、一人でに告白してしまいそうになってしまっていた。よくぞ耐えてくれた僕の口。僕の脳。君たちの頑張りは無駄にはしない。

 平然を装っているが、大丈夫だったのだろうか。自分の顔は今は見えないから、大丈夫だった気がしない。

 何故か山河内さんは、口を膨らまし、不機嫌になっていた。

 

「中田君も、いつも何か我慢しているみたいだから、私には気兼ねなく話してくれてもいいのに……私ばかり話すのは不公平だよ」

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