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フェイタリズム  作者: 倉木元貴


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地学部合宿会 25

 山河内さんを待ってから何時間が経ったのだろうか。そろそろ、海の音を聴いておくだけでは、時間がもたない。先輩たちも上がってくる気配もないし、コテージの一室ですることは尽きた。

 もし先輩方が上がってきたのなら、入れ違いで僕がリビングに降りようかと思っていたけど、何をしているのやら。もう遅い時間だろうにみんな元気だ。

 先輩方がリビングに居れば何が困るかというと、言い訳なんだよな。気づかれないように、こっそりと階段を降りて、そっと扉を開ければ、誰にも気づかれずに外に出ることは可能だ。だけど、歩けば音の鳴る古い階段を、忍者のごとく忍足で降りることは僕には不可能だ。それに、万が一、外に出て中から鍵を閉められていたらどうする。先輩は申し訳ないから開けてもらうことはできないとして、岡澤君は下手すれば開けてくれないかもしれないから、同じ一年なら中村君一択になる。中村君は目覚まし時計一つで起きられるようなやつではない。電話に気づかずに眠っている可能性だってある。そうしたら僕はどうなる。コテージの扉の前で一晩を明かすのか。冗談じゃない。外は夏だけど、目の前に海があるこの場所は、海風が吹いて気温が低い。低体温症で死んでしまうぞ。

 問題に上がっている鍵のありかはリビングの壁だ。だから何が何でもリビングには行きたい。だが、リビングの壁に掛かってある鍵を手にすれば、誰かしらに何かしらを聞かれる。その時の言い訳を考えられないから、今これだけ困っている。

 夜風に当たってきます。それもいいかもしれないが、聞かれた相手が楠木先輩だった場合には全く通用しない。何故なら、僕は、この部屋で窓を開けて存分に夜風に吹かれていたからである。それなのに、夜風に当たりたいとか、もはや意味がわからん。他の人に聞かれた時も、近くに楠木先輩が居れば、全く同じことが言える。だから、これは言い訳としては成り立たない。だが、それ以外がない。他の言い訳が全く思いつかない。

 仮に星を見にいくと言えば、僕に便乗して、誰か先輩が一人ついてくる可能性がある。そうなれば山河内さんとの話し合いの時間はつぶれる。これも言い訳には使えない。

 心を落ち着かせるために波の音を聞きに行きます。これは言い訳になっているのかすら、怪しい。

 やっぱりない。言い訳が何もない。早く、先輩方が上に上がってきて、あわよくば瞬間的に眠ってくれないかな。そうすれば、鍵を持って外に出ても誰も気づかないから、何も怪しまれないのに。

 理想をどれだけ追い求めても、現実が同じ道を通る可能性なんて微かな可能性しかない。だから、高望みはしない。現実に裏切られた時にショックが大きくなるから。

 これは、僕が十五年生きてきて得た教訓だ。それなのに、また同じように望んでしまった。だからなんだろう。最悪とも呼べるタイミングで、山河内さんがコテージから出てきてしまったのは。

 僕は慌てて階段を駆け降りて、みんなのいるリビングに駆け込んだ。リビングに入って、すぐ左手の壁に引っ掛けてある鍵を無造作に取って、叫んだ。

 

「夜風に当たってきます!」

 

 と。目の前にいたのは楠木先輩だった。何かを言いたそうだったけど、そんな先輩を振り切って、僕は外に出た。

 コテージの上から見た感じだと、山河内さんは、女子のコテージの前で座っていた。僕としてはできるだけあちらには行きたくないのだが、仕方ないな。

 僕は走った。二十メートルくらいしか離れていない距離を、何も考えずにただ走った。

 

「山河内さん……」

 

 何も考えずに走ったせいで、第一声がこんなものになってしまっていた。

 さてさて、何を話せばいいのやら。僕は、走ったせいで、今は頭は回らない。いつもから回ってないのもあるけど、面白い話の一つもできないぞ。だから、頼んだ、山河内さん。いつもみたく、面白おかしくこの場を盛り上げてくれ。

 山河内さんは立ち尽くしている僕を見つめて、立ち上がって言った。

 

「少し歩こうか」

 

 いつもの山河内さんなら、もっとはしゃいでいて、こんな淡白なセリフは言わない。薄々わかっていたけど、やっぱりめっちゃ怒っている。これから先が地獄にならないことを願っておこう。

 山河内さんと歩き出してから数分。僕らには会話というものはなかった。僕の耳に届いてくる音は、波が岩に当たる波音、海風に揺らされて音を立てる木々の音、時々走り去って行く車の走行音、そして、僕らの二人分の足音だけだ。

 そろそろ何かを言ってくれないと、気まずすぎて逃げ出したい。走ってコテージに戻りたい。緊張も会った時よりも大幅に増しているし、なんだったら、緊張で腹が痛いし、このままだとトイレに駆け込まなくてはならなくなる。だから、頼むから何か言ってくれ。あ、それとも、もしかして、僕が何か言うのを待っているのか。それなら期待外れになるが、何を言えばいいのか悩みもしていない僕には無理なことだ。

 いや違うか。僕の謝罪待ちか。部活をサボったことを咎めるのか。それなら、黙っているのも納得がいく。謝罪をして怒られるだけなら慣れっこだ。

 

「ご、ごめん。山河内さん……」

 

「何で謝るの?」

 

 僕は撃沈した。この言われ方は、一番言ってはいけないことだった。

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