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フェイタリズム  作者: 倉木元貴


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地学部合宿会 17

 山本先輩に連れられて、砂浜で遊んでいる山河内さんたちのもとにやって来た。僕は、恥ずかしがっている小さな子供のように、山本先輩の影に隠れて何も言わずに、山本先輩たちの様子を伺っていた。

 

「みんな。買い出し終わったから、とりあえずベンチのところに集合」

 

 山本先輩の言葉を聞いて、大原先輩や山河内さんは、各々にはい。と言い、此花先輩や怒られている石川先輩のいるベンチに向かって歩いて行った。

 

「あとはあの問題児だけか……」

 

 山本先輩は海を眺めながらそう言った。

 そう言えば、乃木先輩は沖まで泳ぎに行っているのだった。距離的に声は通じないし、泳ぐ以外にあの場所まで行く手段はない。

 

「ちょっくら行ってくるか」

 

 まさか本当にあの場所まで行くつもりなのか。

 山本先輩は行く気満々で、上半身裸で水着になり、準備体操をしていた。

 

「何かあったら困るから、そこで見ていてくれ」

 

 そう言い残して、海を泳いで行った。僕はと言うと、することもなく、立ったまま海を静かに眺めていた。海から吹いてくる海風が、熱い気温と砂浜の中で、冷たくて心地よくて、それでも風が止むとやっぱり暑くて、じっと立っているだけなのに汗は止まらなくて、海で涼みたい気分を抑えながら先輩たちの帰りを待っていた。

 そんな僕の元に堺さんが一人で近付いていた。

 

「何か用?」

 

 気まずさの余り、冷たい人のようになってしまった。一度この態度を取ってしまったら、元に戻すのは困難だ。だが、堺さんとは前も言ったが、蟠りを抱えたままになりたくはない。どうにかして弁明をしたいが、素直に謝れないのが僕の悪いところだ。

 

「別に……ただ、伝言。いつもの場所で待ってる。って、碧から」

 

「いつもの場所って?」

 

「さあ、私はそれを言いにきただけだから」

 

 堺さんはそれだけ言って振り返り、ベンチの方角に向けて歩き出していた。二、三歩歩いたところでその足を止めて、上半身だけを振り返り、僕に言った。

 

「あ、そう言えば、預かった石もその時に返すとも言っていたよ。それだけ」

 

 堺さんは今度は足を止めることはなく、ベンチまで歩いて行っていた。

 堺さんの言葉……。山河内さんの言う、いつもの場所とはどこのことなんだ?

 僕と山河内さんはそんな場所が作れるほど仲がいいわけではない。二人でどこかに行ったと言う記憶もない。もしそんな思い出があるなら、僕が忘れるはずがない。いつもの場所……どこのことだろう?

 もしこれが学校のことなら、地学部の部室がいつもの場所にあたるのだろうけど、ここは屋外だ。それも学校からは程遠い場所の。いつもの、と言えるほど、ここに思い入れはないし、知らないところだらけだ。前に来た時に一緒にいたところ……砂浜、海老ヶ池、コテージ……まさか、そんなことありえないだろ。今日も、今回も、あれをするのか。もうあれは勘弁して欲しいが、呼ばれたのだったら仕方ないな。答え合わせも兼ねて、今日は意図的に起きておくか。

 僕が、よそ見と考えごとをしている間に、山本先輩は乃木先輩を連れ戻すことに成功して、陸に上がって来ていた。

 

「乃木お前、遠くまで行きすぎだろ」

 

「だって泳ぐの楽しかったんですよ! こんなに自由に遠くまで泳ぐのが久しぶりだったので、ついつい遠くまで行ってしまいました!」

 

 そんな会話が聞こえてきて、初めて僕は我に帰ったのだった。

 

「先輩方……大丈夫でした?」

 

「ああ、乃木が泳ぐのが早すぎて、追いかけるので精一杯だったが……なんとかな」

 

 山本先輩は乃木先輩を睨むように見つめていた。

 

「パイセン怖いですよ! だって、山本パイセン、泳ぐの早いですから、必死に逃げていたので」

 

「俺何回も言ったよな。もう戻るって」

 

「そうでしたっけ? 私には聞こえませんでした!」

 

 ふざけている乃木先輩に、山本先輩はないも言わず、手を引っ張りながら無理やり乃木先輩を連行していた。

 

「パイセン。そろそろ離してくれません? 私の手が取れそうです」

 

「手が取れそうだって? それはおかしいな、俺は乃木に歩くペースを合わせているし、同じ進行方向なら取れそうとはならないんじゃないか?」

 

 乃木先輩は何故かまだ海に向かって走り去ろうとしていた。それを山本先輩が無理やり阻止をしていた。僕はそれを呆れた目で見ていた。

 

「山本先輩。此花先輩でも連れて来ましょうか?」

 

「中田君。そうしてもらえると助かる」

 

 僕が此花先輩を呼びに行こうと、歩き出した瞬間だった。乃木先輩は、僕の腕を掴んで、僕が進むのを阻止した。

 

「やだなー中田君。冗談に決まっているでしょ。さあ、コノセンのところに行こうか」

 

 乃木先輩は大人しくなって、山本先輩が手を離しても道を逸れることなく、みんなのいるベンチのところまで歩いて行った。

 

「クレちゃんおかえり。今日も遠くまで泳いで行っていたの?」

 

「はい! もう楽しくて!」

 

 楽しそうに此花先輩と話している乃木先輩を、貶めるかのように山本先輩は言った。

 

「呼びに行っても、逃げてばっかりで大変だったけどな」


 乃木先輩は焦っていた。普段からお調子者で、自由奔放な乃木先輩が、ここまで焦っているのを見るのは初めてだった。それほど、此花先輩のことが怖いのか、仲がいいからこそ知られたくないのか。真意は不明だが、乃木先輩は、言葉を上手く繋げなくなるくらい焦っていた。

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