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フェイタリズム  作者: 倉木元貴


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地学部合宿会 16

「案外気にしているのは、中田君だけかもしれないよ」

 

「それって……」

 

 僕が言っている途中だったが、楠木先輩はそれを遮った。

 

「さあー、そろそろ僕も体を動かそうかな」

 

 ベンチから立ち上がって準備体操をしていた。そのまま走り去りそうだったので、先輩には悪いが、腕を掴ませてもらって、進もうとしていたのを阻止した。

 

「先輩待ってください!」

 

 楠木先輩は驚いていた。多分それは、大声を出したからではなく、僕が腕を掴むという所業で出たからだ。

 

「どうしたの?」

 

 先輩を無理やり止めたのはいいものの、話の続きを聞く気にはなれなかった。だから僕は逃げた。

 

「石川先輩はどうするのですか?」

 

 楠木先輩は笑っていた。

 

「大丈夫だよ。此花先輩が来たら起こしにくるから。それとも中田君も一緒に体を動かしに行くかい?」

 

 楠木先輩の誘いを、僕は断った。

 だって、あのグループには混ざりたくないから。まだ、山河内さんと話をしたくなかったから。もう一層のこと、山河内さんとこのまま話さないのも良いかもしれない。ギクシャクした関係のままなら、関わらないのも一つの手だ。

 そう考えてはいたけど、なぜだか無性に寂しい気持ちが込み上げてきていた。それはきっと、この広大な砂浜で、何もせずにベンチに座って、風や波の音を聞いているからだと勝手に思っている。

 春の暖かさを感じたり、桜が散っているのを見ていたり、夏休みが始まる前だったり、新学期が始まった時だったり、そんな時に感じる時の流れを惜しむ無傷の寂しさと同じだと、心の中で言い聞かせていた。

 暇だ。とりあえず暇だ。何もすることはないから、ぼーっと過ごしているが、暇だ。そんなことを考えてしまうくらいに、暇だ。

 今見ている景色に、この時初めて後悔した。

 そういえば、楠木先輩は初めから言っていた。「あの中に混ざれない」と、どうしてその言葉をもっと早く思い出さなかったのだろう。そうすれば僕は今ここで、こんなに暇だと思わなくて済んだのに。と言うか、楠木先輩も初めからそう言ってくれればよかったのに。石川先輩が眠っている手前、勝手にどこかへ行ってしまうのは申し訳ないよな。僕がいなくなったせいで、石川先輩が怒られるのは見たくない。

 楠木先輩は、体を動かしに行くと言っただけで、大原先輩や山河内さんのいるグループには混ざらず、一人でに砂浜を走り回っていた。それも、決して海には近づこうとせずに、砂の粗い道路寄りの方をだ。流石の山河内さんでも、距離を取られると誘えないみたいだった。

 そんな楠木先輩は、海岸沿いを端から端まで走り、僕と石川先輩のいるベンチまで戻ってきた。

 

「いやー、久しぶりに体動かすのも悪くないね」

 

 僕は一安心していた。

 これでようやく、寝ている石川先輩のしなくて済むと。

 

「そろそろ、起こそうか」

 

 楠木先輩は、此花先輩がまだ戻っていないのに、石川先輩を起こそうとしていた。

 

「は、早くないですか? まだ、此花先輩は見えていませんよ」

 

 楠木先輩はポカンとしていた。

 

「石川は去年もこのベンチで寝ていて怒られていたから、早めに起こさないといけないんだよ。まだ入ってそんなに経っていないし、石川とはほとんど話さないから、知らないよな。石川はこんなやつだから、巻き込まれないようにだけ気をつけてね」

 

 楠木先輩はそう言って、石川先輩の体を揺さぶって、声を掛けながら起こしていた。

 割と揺らされているのに、石川先輩は全く起きず。機嫌の悪そうに楠木先輩の手を払っていた。そんな石川先輩の態度に痺れを切らした楠木先輩は、石川先輩をベンチから転がり落とした。

 

「痛っ! 楠木! 何て起こし方するんだよ!」

 

「起きない石川が悪い」

 

「もっと他に起こし方があるだろ! 上体を起こしたり、揺らすなり!」

 

「此花先輩が来る前に起こしたんだから、文句言わないでよ」

 

「そうだけど、ベンチから落とすことはないだろ!」

 

「はいはい。わかったわかった」

 

 楠木先輩はこの言い合いが面倒になっているようだった。普段はしっかり者の楠木先輩が、今はテキトーで話している言葉は全て棒読みになっていた。

 そんなところに、怒りを笑顔で隠している此花先輩が登場した。僕は、咄嗟に逃げ出したかったが、逃げる場所もないし、身体が震えて、足もすくんで動けなかった。そんな僕を、山本先輩が手を引っ張り逃がしてくれた。

 これはお礼を言うべきなのだろうか。でも、言わないのは失礼だよな。

 

「山本先輩。ありがとうございます」

 

「いいってことよ。あの二人が絡んでいるところ、あまり見たことないもんな。まあ、見ての通り、仲が良いのか悪いのか。口を開けば、言い合いをするから、あの二人が一緒にいる時は、近くにいないことをお勧めするよ」

 

「は、はあ……」

 

 何て答えるのが正解だったのだろう。僕らは言葉を失った。

 

「あ、そうだ。此花、俺は中田君を連れて、みんなを集めてくるよ」

 

 山本先輩はそう言いながら、僕の背中を押してこの場を離れていた。

 

「そう。じゃあお願いしようかしら」

 

 そのせいで、此花先輩は、大きめの声を出していた。

 

「やっと逃れられたな……」

 

「そうですね……」

 

 僕が素っ気なくなっているのには理由がある。たとえ山本先輩がいるのだとしても、山河内さんのところには行きたくなかったからだ。

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