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フェイタリズム  作者: 倉木元貴


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地学部合宿会 15

「もう! 何すんだよ!」

 

 中村君は怒っていた。それも当然だ。こんな仕打ちをされたのだから。

 

「一緒に海で遊ぼうぜ」

 

「それならそうと起こしてくれればいいじゃんか!」

 

「いや、一応声は掛けたんやで。やけどな、中村君起きひんかったけん、仕方なく無理やり起こしたんよ」

 

「無理やりって。持ち上げられた瞬間に起きてたは! それなのにわざわざ海に落としたじゃんか!」

 

「はははー。過去のことやけんもうええやん」

 

「何もよくない!」

 

 そんな二人の言い争いを、またやっているなと呆れた目で見ていた。そんな二人の背後に、山河内さんが近づいてきているのが見えて、僕は咄嗟に二人から距離を取った。

 この山河内さんは多分、一緒に遊ばないか。とそんな感じだろう。

 

「ねえねえ、岡澤君に中村君。一緒に遊ばない?」

 

 予想していた通り、山河内は遊びに誘っていた。その中に僕の名前がなかったことで、心に少し傷がついたが、もう、これ以上に傷ついても、深手を負っていることには変わりないから所詮は微々たるものだった。

 離れて行っている僕を呼び戻すためか、堺さんが僕の真ん前に現れた。

 

「混ざらないの?」

 

「もう疲れたから、楠木先輩の近くで休もうと思って。それに、僕は呼ばれてないからね」

 

 少し嫌味が過ぎたかな。

 堺さんとは、仲が良いわけでも悪いわけでもない。同じクラスで同じ部活なのに、普段からそう話すことはない。そんな関係がちょうどいいと思っているからこそ、堺さんとの今の関係は大切にしたい。変な蟠りを抱えたままの関係にはなりたくない。

 

「私には言い訳にしか聞こえないよ」

 

「言い訳か……それで間違ってないよ。これは単に言い訳だよ。でも、疲れたのは本当だから、何も言わずに休ませてくれない」

 

 堺さんを振り切って、日陰の方に向けて僕はゆっくりと歩き出した。堺さんも僕を止めることを諦めたのか、手を出してくることはしなかった。

 

「中田君はそれでいいの?」

 

 背後から堺さんにそう言われ、振り返ってみると、顔を強張らせて拳を握っていた堺さんが仁王立ちをしていた。

 

「……良くはないかもしれないけど、わからない。どうしたらいいか、どうしたいのかもわからないんだ。だからこそ、それがわかるまで、今はそっとしててほしい」

 

「でも、避けていても何も変わらないよ。他力本願では願いも叶わないよ」

 

「うん。わかった。肝に銘じておくよ」

 

 堺さんも流石にもう呼び止めることはできなくなって、僕は楠木先輩が寝ているベンチしかない公園にきて、楠木先輩の隣にあるベンチに腰掛けた。それと同時に深いため息が出た。

 

「混ざらなくていいの?」

 

 寝ていると思っていた楠木先輩が横になったまま僕にそう話しかけた。

 

「すみません。起こしてしまいましたか?」

 

「ううん。横になっていただけで、初めから寝てはいなかったから。それよりも、みんなと遊んでいなくていいの?」

 

 楠木先輩は僕の方を見ずに、空を見上げながらそう言った。

 

「それはお互い様ですよ。楠木先輩こそ、横になってばかりで遊んでないじゃないですか。大原先輩たちと遊ばなくて良いのですか?」

 

 楠木先輩は笑いながら横になっていた体を起こした。

 

「あの中に僕が混ざれるわけないじゃん。だからずっと寝たふりしてたのに。でも、中田君は違うよね。何があったのかは知らないけど、話し合わないと解決しないよ」

 

 楠木先輩は知ったようにそう言った。

 ただ、そんなことは、当事者である僕が一番良くわかっている。簡単に言ってくれるけど、それが一番難しい。簡単に話し合うことができれば、僕はもうとっくのあの輪の中に入っている。それができなかったから、今ここで何もすることなく暇を持て余しているのだ。楠木先輩とは部活ではよく話すが、こうして二人きりになれば、話せる世間話も思いつかずに黙り込むことしかできない。せめて、楠木先輩にいう言葉さえあればいいけど、反論のようなことをして関係を悪化はしたくない。やはり黙り込むしかないのか。

 そんな静かに座っている僕らの元に、石川先輩がゆっくりと近づいていた。

 

「二人で揃って何しているの?」

 

 不思議そうに僕らを見る石川先輩は、僕らにそう言った。それに対して、楠木先輩が、にっこりと笑って言う。

 

「特に何も?」

 

「なんで疑問形なんだよ」

 

「なんとなくだよ。それより、石川こそ何しにきたの?」

 

「疲れたから少し寝ようかと思って」

 

 そう言って石川先輩は、楠木先輩の隣のベンチで横になった。

 

「此花先輩が来る前に起こしてくれ。あの人に寝ているところを見られたら何を言われるかわからないから」

 

「了解、了解。車の音が聞こえたら起こすよ」

 

「頼んだ」

 

 こうして僕らは、また話す言葉を失った。

 何も言わないまま時間は過ぎて行き、小さな波音と海鳥の鳴き声、木々の隙間を風が通り抜ける風音が優しく響いていた。

 

「一緒に行こうか?」

 

 風の音が止んだと思えば、楠木先輩が僕の方を目ながら言った。

 

「大丈夫です。疲れているのでもう少し休んでおきたいので」

 

 単なる言い訳だが、精神的に疲れているのは事実だ。

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