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フェイタリズム  作者: 倉木元貴


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地学部合宿会 10

 石拾いを再開させて、ぶらぶらと砂浜を歩いていると、砂浜と歩道を分け隔てる低小木の物陰に隠れて、本を読んでいる石川先輩を見つけてしまった。

 見なかったことにしてスルーしようとしたが、何故か石川先輩の方から僕に話しかけてきた。

 

「中田」

 

「は、はい……何ですか?」

 

「まあ、いいからこっちに」

 

 石川先輩は手招きをしていた。

 先輩の言うことにはできるだけ逆らいたくはないけど、山河内さんの目もある。またサボっていれば、今度こそ山河内さんは口を聞いてくれなくなる。同じ地学部なのに口も聞いてくれなくなったら、僕は地学部をやめるしかない。そしてそのまま学校も……いやいや、深く考えるな。

 そうは思いながらも、石拾いをしている山河内さんを見ながら、背を向けているタイミングで僕も低小木の裏に隠れた。そして石川先輩の右横に座った。

 これといって大したこともしていないのに、心臓の鼓動は早かった。それを落ち着かせるために大きく息を吸って、ゆっくりと吐いた。その勢いで石川先輩にどう言うつもりだったのか尋ねた。

 

「あの……どうして僕を呼び込んだのですか?」

 

 石川先輩は手に持っている本から目を離さずに、何ならページをめくりながら答えた。

 

「一人でここにいたら、此花先輩に怪しまれるから」

 

 要は、僕は囮のようなものだった。

 意識はしていないが多分この時の僕は目が点になっていただろう。その根拠に、僕は何も言い返す言葉が見つからなかった。

 石川先輩が僕の顔を見ていなくて本当に良かった。もし見られていたら、叱責でもされていたと思う。

 

「そう言えば中田?」

 

「はい、何ですか?」

 

 人に質問をしているのに、石川先輩は相変わらず本ばかりに目を向けていた。

 

「石は拾ったのか?」

 

「はい……一応は……」

 

 とは言っても適当に拾った乳白色の石一つだ。

 

「何を拾ったんだ見せてみろ」

 

 石川先輩は初めて僕の方に視線を向けた。こっちを見てくれていたから初めて知ったけど、この人、僕がいるのと反対側の耳にイヤホンを装着していた。

 そんな先輩を白い目で見ながら、ポケットに入れていた乳白色の石を差し出した。

 

「あー石英か。まあまあいいじゃん」

 

 僕の拾った石はまあまあのようだ。

 

「あの……石英ってどんな石ですか?」

 

「うーん。どんな石ね……水晶の石って言えば分かりやすいかな」

 

「水晶の石……でも水晶って無色透明ですよね? これも磨けば透明になるのですか?」

 

「それはないかな。石英のことは説明しようとすれば難しいから、詳しくは調べて欲しいけど、簡単に言えば石英は種類がたくさんあるんだ。紫だったり黄色だったり、赤かったり、緑がかっていたり、どうやってできたかで色が変わるんだ。だから、透明な石は初めから透明で乳白色の石はどれだけ磨いても乳白色のままだよ」

 

「そうなのですね……」

 

 今まで地学部でありながら石について知ろうなんて思わなかったけど、石も石で面白いこともあるんだ。水晶と同じ名前の石がこんなにも簡単に手に入るだなんて。もし山河内さんに口を聞かれなくなっても、同じ部活内で天文班から地質班に変わろうか。

 僕が黙り込んでいたから、先輩は僕が落ち込んでいるものだと勘違いたようで、挙動不審になりながら僕にこう言った。

 

「その……まあ……透明にはならないけど、中田の持っている石英は乳白色で赤みがかっているだろ。石英の中でもミルキークォーツに近い感じがするな。ま、もう少し透明だったらの話だけど……」

 

 慰めの言葉なら、最後の一言は余計なんじゃないか。そう思いながらも先輩に一言言った。

 

「ありがとうございます」

 

 石川先輩は照れていたのか、立ち上がって顔を合わせることはせずに、そっぽを向いて頭を掻いていた。先輩が立ち上がったことによって、せっかく隠れていた僕らは此花先輩に見つかった。

 

「石川君。後輩をサボりに付き合わせちゃダメでしょ?」

 

 石川先輩は、此花先輩に背を向けて立ったまま固まっていた。まるでメデューサに見られて石になった人のように。かく言う僕も、此花先輩が突然現れたことにより立ち上がり、立ったまま動けなくなっていた。

 

「ねえ、石川君。後輩を悪い方に誘っちゃダメでしょ」

 

「あ、いや、あの、中田に石を見せてもらっていたんですよ。たまたま中田の近くに僕がいたので、中田がこの石は何なのか訊きに来ていたんですよ」

 

 背を向けて話すその背中は、さっきまでの石川先輩の背中とは思えないくらい小さいものだった。

 と言うか、この人さらっと僕を巻き込むようなことを……

 僕の悪い予想は的中した。

 

「そうなの中田君?」

 

 此花先輩は石川先輩から僕に視線を移してニコリと笑った。

 この笑みは本心を隠している笑みだ。それは間違いない。ついこの間も如月さんが僕にそんな笑みを見せていて、僕はその後如月さんから力強いパンチを肩に喰らったんだ。此花先輩はそんなことはしないのだろうけど、下手をすれば信頼というものがガラスのように粉々に砕けてしまう。まあ、まだたったの四ヶ月だから、こんな僕に信頼があるのかは不明だが。

 

「え、えっと……確かに石を見てもらってました。この石なんですけど……石英って教えてもらいました」

 

 そう言いながら此花先輩にポケットに入れていた乳白色の石英を見せた。

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