地学部合宿会 7
久しぶりに日向に出たものだから、暑いな。という感情よりも、これ長時間ここに居たら死ぬな。と、命の危機を若干感じていた。
そんな中、山河内さんは元気だった。カバンから隠し持っていた鍔付きのキャップを取り出して被り、太陽によって高温にされていた砂浜を裸足で走り出していた。少しボーイッシュな帽子を被った山河内さんもいいけど、僕としてはもう少し女の子らしい麦わら帽子でも被ってほしいものだ。山河内さんのことだから何を被っても似合うのだろうけど、いつか麦わら帽子を被った山河内さんを見てみたいものだ。
気持ち悪いくらい山河内さんのことを見ているんだな、と自覚した時にふと思った。僕は、山河内さんではなく堺さんを監視しなければいけないことを。
ま、まあ、今は堺さんは一人でいるから問題はない。これから気を付けていればきっと大丈夫なはず……
案の定、裸足で走って行った山河内さんは、堺さんの元に戻って来ていた。そして、二人で石を集めながら世間話をしていた。どんな会話をしているのか気になるけど、普段は心地いい筈の波の音と風の音がうるさくて、相当近い距離に行かなければ何を話しているのか分からなかった。
そんな近い距離に行けば、堺さんだけでなく他の人からも怪しまれる。でも、何を話しているのか気になる。あの会話を聞きたい。本当に話していないのか確かめたい。
僕は石拾いに全く集中できなかった。取り敢えず適当に、手に収まるサイズの白い大きめの石を握って、石を探すふりを続けていた。徐々に徐々に堺さんの方に近づいてみては離れて。ふと我に返って思う。いったい僕は何をしているのだろうか。自分のしていたことに馬鹿馬鹿しくなって、頭を一度冷やそうと岡澤君と中村君にトイレに行くと伝え、僕はトイレに向かった。
トイレは、さっきまで僕たちが休んでいたベンチしかない公園に併設されている、時々異臭が漂っていた小汚いトイレしかここにはない。本当はあまり行きたくなかったけど、暑さと緊張で水分を摂る量が増えてしまっていて、その緊張がほぐれて一気にトイレがしたくなった。
僕が公園に着くと、山本先輩たちはベンチから立ち上がり、日向に出ていた。
「中田君また休憩?」
こういう時の乃木先輩は本当にうざい。
「水分摂り過ぎてトイレがしたくなっただけです」
「へえー。そうなんだ。なんかごめん」
「あはは……大丈夫ですよ……」
何がどう大丈夫なのかは自分でも分からない。でも、こういう時ってなんてかえしていいのか分からないんだよな。先輩から謝られたら取り敢えず「大丈夫」と言っておけば何とか丸く収まるから、いつもこれで済ませている。
「乃木。そろそろ行くぞ」
「は〜い、やません。今行きま〜す」
乃木先輩は山本先輩に連れられて、此花先輩や他の一年生がいる浜辺の方へ歩いて行った。僕も異臭が漂う小汚いトイレに入る覚悟を決めていた。さっきより近づいて見ていると、窓には大きな蜘蛛の巣が張っていて虫だらけで、床もコンクリートで舗装はされているが、カナブンやカメムシが大量に死んでいた。そんな様子を見ていると、入る覚悟を決めたのに入りたくなくなってきた。でも、トレはここにしかないんだ。次の最寄のトイレは、キャンプ場に併設されている子供が遊べる遊具のたくさんある公園だ。あちらは利用者が多くて割と綺麗にされていたが、距離的にそこまでは流石に行けない。もう諦めてこのトイレに行くしかない。
再びこの小汚いトイレに入る覚悟を決めたその瞬間、右腕を背後から誰かに掴まれた。掴まれた瞬間お尻から頭まで電気のように寒気が走った。焦って掴まれた手を振り払いながら振り返ると、そこにいたのは堺さんだった。
「な、何しているの?」
特にこれと運動はしていないのに、息もあがり心臓の鼓動が速かった。何も意識はしていなかったが、身を守るためか胸の前で拳を二つ作っていた。
「いやね。中田君がさっきから私のことジロジロと見てくるもんだから、何か言いたいことでもあるのかなって。二人きりの方が話しやすいでしょ。そっちこそ、何か言いたいことでもあるの?」
そう言われた瞬間、僕の背筋は凍りついた。まさか堺さんにばれていたとは……とう言うことは、山河内さんにもばれている……
そう思っていると、堺さんは突然笑い出した。
「あははっ。それは大丈夫だよ。碧は気付いていないよ」
何で僕の考えていることを……
そう言えば、人は違うけど前にも似たようなことがあった。あの時は如月さんだった。堺さんまで如月さんのようなことができるのか。僕の周りの女子は怖い人ばかりだ。もう平穏無事に学校生活を過ごすことはできないのだろうか。さよなら僕の高校生活……さらば青春……
今日の堺さんはお喋りだった。
「何で考えていることが分かったか教えてあげようか?」
僕としては話してもらいたいが、そう簡単に聞かせてくれるのか。もしかしたら如月さんのように交換条件を言われるかもしれない。安易には頷いてはいけないと、心の中で葛藤していた。それなのに……怪しい人の言葉は鵜呑みにしてはいけないと昔からずっと言われているのに……
「教えてください!」
僕は押しに弱かった。




