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フェイタリズム  作者: 倉木元貴


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地学部合宿会 5

 海風に吹かれながら歩くこと10分弱。ようやく港が見えてきて、ご飯を食べれそうな店もちらほらと現れていた。此花先輩はさらに港を目指すようで、歩みを止める気配はなかった。

 今日は30度を裕にこえる気温なのに、海風のおかげで暑さを感じることが軽減されていた。木の日陰に入った時に強風が吹けば、汗も乾き始めて逆に肌寒さを感じたくらいだ。海風を肌で感じるのは初めてだったから、ここまでのものだとは知らなかった。こんなに肌寒くなるのなら、タオルの一つでも持ってくればよかった。

 今更だけど、石川先輩は長袖の服を着用していた。暑くないのかなと思っていたけど、そう言うことだったのか。事前に石川先輩に聞いておけばよかった。

 僕はそう後悔をしていた。

 

「もう少しで着くよ」

 

 此花先輩はそう言って、車の通れない民家と民家の間にある舗装はされているが、整備は碌にされていない狭い道を進んだ。狭い道を抜けるとそこは、もう港だった。海が目の前にあった。船もたくさん並んでいた。

 

「さあ、みんな。ここだよ」

 

 此花先輩は、目の前に海を望む古びた古民家を指差した。食堂と書いてある看板は確かに存在しているが、雨風にさらされてよく見ないとなんて書いてあるのすら分からないくらいに錆びていた。扉の左右にある窓にはカーテンが掛かっていて、スライド式の扉のガラスは透けないようにすりガラスになっていて、外からは中が全く見えないようになっていた。素人目に見た感じ、営業中だとは到底思えないものだった。

 此花先輩は何の疑いもなくスライド式の扉を勝手に開けて中に入った。

 

「ごめんくださーい」

 

 此花先輩の言った挨拶に返ってくる言葉はなかった。それでも山本先輩も石川先輩も楠木先輩も、何の疑いもなく中に入って行った。僕らも岡澤君を先頭に中に入ると、中には十数人しか座れない椅子と机と観葉植物が無数に置かれていた。

 

「今日は私たちしかいないから適当な席に座ってね」

 

 此花先輩がそう言って、石川先輩は入って右端の一番奥のカウンター席に座った。その隣に楠木先輩が座り、またその隣に山本先輩が座った。此花先輩と乃木先輩、大原先輩はその背後にある向かい合った席に座った。僕ら一年生はその隣にあった最大六人で座れる席に男子と女子に分かれて座った。座ったのだが、僕ら以外に人がいる気配がなかった。ここでは本当に食事をできるのだろうか。そんな疑問があったが、此花先輩にはおろか、その他の先輩にもそれを聞くことはできなかった。

 女子の先輩方は乃木先輩を中心に会話をもおりあげ、男子の先輩方は会話をすることなくそれぞれがスマホを触っていた。僕たちも同じく、初めての場所で緊張していたのもあって会話はなかった。話が得意な筈の山河内さんも岡澤君も静かに座っているだけだった。だからと言って僕から話題を切り出すことはできないから、これを静観することしか僕にはできなかった。

 そんな乃木先輩ばかりの声が響いていた店内で突然、六十は裕に超えているであろう男性の声が響いた。

 

「五月手伝え」

 

 突然現れてそれだけ言って奥に消えていった。

 

「それじゃ。私行ってくるね」

 

 六十くらいの男性の後をついていこうとしていた此花先輩に山河内さんは話しかけた。

 

「あの……何かすることがあるのなら、私も手伝います」

 

 どんな場面でも山河内さんは真面目だ。僕も此花先輩を手伝いたい気持ちはあるが、それよりもあの男の人と関わりたくない気持ちの方が優って、そんなことを言える精神状態じゃなかった。

 

「碧ちゃん、ありがとう。でも大丈夫だから。これは歴代の部長の仕事だから席に座って待っててね」

 

 山河内さんの善意を此花先輩は優しく断っていた。

 

「はい……」

 

 此花先輩は手を振りながら奥へと消えていった。

 

「あの人誰だったんだろう?」

 

「此花先輩の知り合いみたいだったね」

 

 山河内さんもようやく緊張がほぐれたのか堺さんと話をするようになっていた。男子の方はまだもう少し時間が必要だった。岡澤君も中村君も緊張が解けてはいなかった。そう言っている僕もまだ話なんてできずにいた。

 山河内さんと堺さんの会話に入れたらいいけど、突然入れば白い目で見られそうな気がするし、コミュ障の僕には難易度が高い。僕らはやはり岡澤君が話し出すのを待つしかないのか。

 岡澤君は何も話すことはないまま、此花先輩が海鮮丼と水をお盆に乗せて奥から現れた。

 

「先輩手伝いますよ」

 

「大丈夫。後は持って来てくれるって言ってたから座って待ってましょう。今とりあえず五つあるから一年のみんな先にどうぞ」

 

 此花先輩はそう言って僕らの前に海鮮丼と水を置いた。先に置かれても一年生だから先輩より先に食べ始めることはできず、先輩たちの海鮮丼が運ばれてくるまでは箸すら持つことはできなかった。

 

「いただきます」

 

 此花先輩が一番に食べ始めて、僕らもようやく箸を手にした。口々に「いただきます」と言い、それぞれ海鮮丼を食べ始めた。海鮮丼を食べている間は乃木先輩も無言で無口で、その静けさは逆にむず痒いものだった。

 普段はあんなにうるさい先輩なのに喋っていないと気持ちが悪いな。静かな空間の方が好きだけど、たまには少しうるさいのも悪くはないそう思った。

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