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フェイタリズム  作者: 倉木元貴


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合同合宿会 18

 僕は内心思った。山河内さんの方が可愛いと。

 

「そういえば。親に反対されていたのにどうして今回は来れたの?」

 

 変なことを訊いてしまっただろうか。

 こう言うのは脳内だけにしておこうと思っていたのに、深夜のテンションでつい口にしてしまった。山河内さんは変に思っていないだろうか。

 

「ああ、それはね。歌恋のおかげなんだ。私と一緒に親に直談判してくれて、それで初めて行ったのが前に行った美里だったんだ」

 

 よかった。特に何も思っていないようだ。

 

「如月さんはすごいな。如月さんが何をどうして大丈夫になったのか気になるけど、それは聞かない方が良さそうだな」

 

「なんで?」

 

「なんでも」

 

 これ以上追求されたら負ける気がする。いや、百パーセント負ける。

 だが、山河内さんは優しかった。

 

「分かった。そう言うことにしておく」

 

 山河内さんは満面の笑みを浮かべていた。対して僕は、自分で言った言葉で山河内さんが納得した理由が理解できず、何も言えないでいた。

 

「肌寒いしそろそろ戻る?」

 

「ああ、そうだね……」

 

 山河内さんにはそう言ったが、本心ではまだまだ一緒に話をしたかった。でも、そんなわがままは言えない。山河内さんに迷惑はかけられないから。

 

「自分勝手でごめんね。中田君に話したら何だかスッキリして眠れる気がするんだ」

 

「じゃあ、すぐにでも戻らないとだね」

 

「うん! あ、今日は背中とか汚れていない?」

 

「大丈夫じゃないかな。石段の上だし」

 

「照らして確認して見てよ」

 

 山河内さんに言われた通り、スマホのライトを使って山河内さんに背部を照らした。

 僕の予想通り、目立った汚れはなかった。が、しかし、照らしたせいで余計に目立つ臀部と太腿裏に僕は見惚れてしまった。と言うかそそられていた。

 いや、ダメだ。落ち着け僕。相手は山河内さんだぞ。今手を出した如月さんに殺されるぞ。落ち着け、落ち着け。平常心、平常心。

 

「中田君? 大丈夫?」

 

「あ、ごめん……大丈夫だよ。目立つものはついていないから軽く払ったら大丈夫だと思うよ」

 

 危うく山河内さんを置いて、完全に自分の世界に入り込んでしまうところだった。

 夜中のテンションのまま話し続けても同じことになるだけか。戻って正解だな。

 

「ありがとう。今度は中田君の背中も見てあげるよ」

 

「え、僕はいいよ。自分で払うから」

 

「だめ! 立って背中向けて」

 

「は、はい……」

 

 この時の山河内さんには如月さんのような圧を感じた。そのせいで、僕は命令に逆らうことができずに気が付けば山河内さんに背を向けていた。

 見られているのは自覚しているのに、背後に凄まじい視線を感じる。

 

「う〜ん」

 

「や、山河内さん?」

 

 唸り声をあげていた山河内さんは、突然僕の背中から臀部までを優しく撫で下ろした。

 

「や、山河内さん⁈」

 

「うん。これで綺麗になったよ」

 

「いや、そうじゃなくて……自分で払うのに……」

 

 それよりも、山河内さんに臀部を触られたことにしか意識が向かなかった。

 だって、女子にお尻を触られたのはこれが初めてだったから。初めてが山河内さんでよかった。なぜだか勝手に卒業した気分になっている。あ、ほら、右手が勝手にガッツポーズを取っている。

 

「中田君? 大丈夫?」

 

「あ、うん。ごめん、大丈夫だよ」

 

「本当に? 眠いのだったら無理に付き合わなくてもよかったのに」

 

「そんなんじゃないよ。本当に大丈夫だから」

 

 言えない。

 山河内さんには本当のことは言えない。

 

「そう……それじゃあ、服も綺麗になったんだしそろそろ戻ろっか」

 

「うん。そうしよう」

 

 僕らはまた、二人掛かりで音を立てないようにゆっくり扉を開いて中に入った。

 

「じゃあ、おやすみ」

 

「おやすみ」

 

 山河内さんは先に階段を上がり寝室へ戻っていった。

 僕はと言うと、トイレに篭っていた。別にやましいことをしているわけじゃない。山河内さんと外に出る前に、水を飲みすぎて単にトイレがしたくなっただけだ。しかし、まあ、少しくらいやましいことをした方が眠れそうだ。

 そう思っていたけど、用を終えたらそのままトイレを出た。理由は、急に寒気がしたからだ。寒気がして、如月さんに見られているような感覚に陥ったからだ。そんな状態でやましいことは言うまでもなく、用を足すのすらも阻まれる。何とか小便だけは出たけど、それ以上は何も出なかった。

 そんな気持ちのまま布団に入ったものだから、僕は横になっていたけどしばらく眠られなかった。気が付いたら眠っていたけど、結局、朝は寝坊した。

 

「寝坊するとは中田さん、いい度胸ですね」

 

 朝一から如月さんに煽られ。

 

「遅くまで付き合わせてごめんね」

 

 山河内さんには謝られたけど、そんなことより何より眠い。寝不足と冗談混じりに言える状況じゃない。寝ないと倒れそうだ。

 そんな僕は、朦朧とする意識の中やっとの思いで駅まで歩いて、汽車に乗り込んだはいいけどそっからの記憶が全くなく、終点になってようやく起こされた。

 

「ここは?」

 

「登久島駅。よう寝とったな」

 

 何で起こしてくれなかったの。と誰かを責め立てたいけど、その気力すらも生み出せず、駅前で久しぶりに遊んできた道を帰った。

 もちろん途中下車だ。

 自分の家の最寄駅で降りて、駅に停めてあった自転車に乗り二日振りの家へと帰った。

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