合同合宿会 16
「これは大丈夫なの?」
「眠れたということは体温が正常値に戻りつつあるということです。まだ体は熱いと思いますが、薄い布団でも掛けてあげましょう」
「わかった」
僕は如月さんに言われた通り、岡澤君に薄い布団を掛けて如月さんと共に階段を降りた。
「何だか変に疲れますね」
「そんなに自分を責めなくてもいいと思うよ。確かに僕の時の温度ではのぼせるのも納得できるけど、岡澤君のことを考えて大量の水を入れたから。のぼせる温度ではなかったよ」
「そうかもしれませんが、私が用意した湯船が直接的な原因であることには変わりありません」
「僕は逆だと思うよ。岡澤君はお風呂に入る前から興奮していたし、疲労も相まってのぼせたんじゃないかな。だから如月さんの要因は直接じゃなく間接的だと思う。ちなみにこれは如月さんを慰めるために言っているのではなく、僕の視点からの客観的な意見。そう受け取って」
「最後の言葉がなければ中田さんのこと二パーセントは見直してあげれました。でも、ありがとうございます」
「急に真面目になるのやめてくれない。なんか気持ち悪い。寒気がする」
「なるほど。中田さんは私のことをそんなふうに思っているのですね。碧ちゃんにチクってやります」
「それだけはやめてください」
如月さんから山河内さんにそれを言ってしまえば、僕が山河内さんに嫌われるだけではなく学校全体からも嫌われかねない。そんな僕にできるのは誠意を込めて謝罪だけだった。
「言ったりしませんよ。私には二人の恋愛を応援する義務があるので」
何故だろう、この時の如月さんの顔はいつもにまして明るく輝いていた。
「今日は疲れましたので天体観測は中止しましょうか」
「僕はその意見に大いに賛成するけど、あの人はそうはいかないんじゃないかな?」
「大丈夫ですよ。私は碧ちゃんの扱い方をわかっていますから」
不安しかないけど、如月さんに任せるしかないんだよな。
僕や中村君がどうこうできる問題じゃないし、堺さんは中立を保つだろう。もし僕が交渉したなら反論を一言聞いた時点で頷く自信はある。まあ、どっちに転んでも悪くはないと思うからどっちでもいいけど。
リビングに戻ると堺さんと山河内さんは真面目に宿題をしていた。それも向かい合って無言で。
山河内さんが僕らに気付き始めてその静粛は破られた。
「岡澤君の様子はどう?」
「落ち着いて、今は眠っています」
「そう。よかった」
さて、如月さんはどう出るのか。
「それで碧ちゃんと真咲ちゃんに相談があるのですが、今日の天体観測は中止にしてもう休みませんか?」
意外とシンプルに切り出した。だが、これじゃあ反対は必須だ。
「そんな。ここまで来て星を見ないなんてあり得ないよ!」
まあ、そうくるだろうな。僕が山河内さんの立場であっても同じことを言っていたと思う。さあ、如月さんここからはどうする。
「雲がなくて非常に勿体無いのですが、岡澤さん一人を置いて天体観測はしたくないのです。碧ちゃんがどうしても天体観測をしたいというのなら引き留めはしません。ですが、私は参加しません。それよりも早く寝て夜明け前のわずかな時間だけみなさんで天体観測をしませんか?」
如月さんの代替案は、休日は遅寝遅起きが主流の僕にとっては地獄のような申し出で、全力で止めたかったが僕の体が動くことはなかった。
「確かに……それはそうかも……」
山河内さんが納得してしまえば、早起きは確定になる。だが、僕に策はない。
「中村さんには私から話をしておくのでお二人はもう休んでください」
「うん。わかった。ちなみに明日は何時起き?」
早起きが決定した瞬間だった。
「日の出が五時過ぎなので、日の出前にしようとするなら四時ごろになりますかね」
それも超早起きだ。
「じゃあ、そろそろ寝ないと起きられないね。じゃああとは歌恋に任せて私たちは先に休ませてもらうよ」
そう言って、山河内さんと堺さんはリビングを後にした。
「そういえば、相澤さんは?」
「先に休んでいますよ。疲労が溜まり過ぎて眠いそうです」
「そうなんだ……」
仲間だと思っていた相澤さんも、もう眠っているらしい。僕一人寝坊するなんてそんなことできない。中村君がお風呂から出たら即寝よう。早めに寝ないと早くは起きられない。ただ、夏休み中の体たらくな生活の影響でサーカディアンリズムがずれている僕には、早寝ができるとは思えない。寝坊をしなくても寝不足になることだけは確実だ。
そして、今は全く眠くない。
疲労は少なからず溜まっているが、眠いという感情はない。熱湯風呂で眠いという感情まで洗い流した気がする。
中村君がお風呂から出るまで如月さんに宿題を手伝ってもらいながら、さらに疲労を溜めたつもりだったけど、眠気は変わらずなかった。それでも、中村君がお風呂から出てきたから、眠れるかわからないけど布団には潜る。目を瞑っているだけでもいいから布団に潜る。
電気も消し、月明かりもほとんどなく、海辺の田舎で車の走行音はなく、海辺だけど高台にあるから細波もほとんど聞こえない、岡澤君も中村君もいびきはかいていない、それなのに僕は眠れなかった。
気になるものは何もないのに、気になるほど静かすぎて逆に眠れない。




