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フェイタリズム  作者: 倉木元貴


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合同合宿会 15

 山河内さんは教え方が上手いな。ほとんど答えを教えてくれたようなものだけど、こんな施しを受けるならどんな簡単な問題でも訊きたいや。

 そう思いながらも山河内さんの邪魔はできないと、結局は本当に難しいと思った問題しか訊くことはできなかった。

 こう言う消極的なところが僕のダメなところだと自覚はしているが、他人に迷惑をかけてまでそれを治そうとは思わない。その思考そのものが消極的だとしても。

 まあ、そんなわけで山河内さんとろくに話すこともなく僕の入浴時間はやってきた。

 

「出ましたので男子の次の人どうぞ。お湯を入れ替えていますのでゆっくりしてきてください」

 

 時間が決められているわけじゃないから、どんな長風呂でも大丈夫だが、それはそれで如月さんに怒られそうだからいつもくらいで。いつもの僕のお風呂にかかる時間は大体四十分くらい。でも今日は湯船には長く浸かりたいから、身体を早く洗おう。何としても湯船に長く浸かるために。

 僕は速攻で体を洗い、湯気が立ちめく湯船に右足を入れた。その瞬間僕は叫んだ。

 

「あっつー!」

 

 僕の右足は一瞬の出来事であったのに茹蛸のように膝下まで真っ赤になっていた。

 僕の前にお風呂に入ったのは、如月さんの堺さんのペア。堺さんがこんなことをするとは思えない。するなら間違いなく如月さんだろう。だが、さすがに熱すぎる。一瞬で出られたから大事には至ってないけど、僕は本気で火傷したかと思った。

 いくら水を足してもなかなか温度は下がらず、時間の関係から僕は湯船に浸かることを諦めた。

 脱衣所を出ると、如月さんが僕を待ち受けていた。

 

「あ、あの……熱すぎました?」

 

 ここまで申し訳なさそうにしている如月さんはレアだ。というか初めて見た。いつもは目を逸らすのは僕の方だったが、今日は如月さんが目を合わせようとしない。僕は初めて如月さんより優位に立てたんじゃないか。と、調子に乗っていたらどうせまた痛い目に遭う。ここは如月さんが怒らない程度に攻めないと。

 

「熱すぎるなんてものじゃなかったよ。火傷を負ったと思ったよ」

 

「あはは、それは本当に申し訳ありません」

 

「いつもあんなに熱い風呂に入っているの?」

 

「えーっと。いつもはもう少しぬるめのお湯にしています」

 

「まあ、追い焚き機能がなかったから熱めに入れたんだと思うけど、流石に入れなかったよ」

 

「それは本当に申し訳ないことをしました」

 

「まあいいよ。そんなに怒っているわけじゃないし」

 

「ありがとうございます」

 

 リビングに戻ると僕はみんなの視線を集めた。

 

「な、何?」

 

「いやー。めっちゃおっきい叫び声が聞こえたけんいけとんかなって」

 

「ああ、もう大丈夫」

 

「何があったん?」

 

「お湯がめっちゃ熱かっただけだから」

 

「その節は大変失礼いたしました」

 

 僕が全く予想していなかった人からも心配された。

 

「中田君、火傷していない?」

 

「ああ、うん。それは大丈夫」

 

「よかった。歌恋が熱めがいいって熱湯入れていたから、ちょっと心配だったんだよね」


「手で触った時はそんなに熱さを感じなかったんですよね」


 そんなわけないだろう。

 如月さんにそう言ってやりたかったが、さっき和解したばかりだから余計な争いを生まないために何も言わなかった。

 

「でも、何もなかってよかったよ。岡澤君も気をつけてね」

 

 岡澤君はあからさまに照れていた。堺さんから「気をつけてね」と言われただけなのに。

 この影響で、お風呂でのぼせないといいけど。

 そんな僕の悪い予想は的中した。岡澤君は全身を真っ赤に染め上げ、フラフラしながら浴室から出てきた。

 

「中田さん二階に運んでもらえますか?」

 

 僕は如月さんに指名されフラフラの岡澤君を肩に乗せ、二階へ向かった。

 岡澤君は平均身長、平均体重だが、体力が落ちている僕には重たかった。


「岡澤君どうしたらいい?」

 

「とりあえず横にしましょう。足を上げるといいそうなので布団を足下に使いましょう」

 

「分かった。服とか脱がした方がいいかな?」

 

「上はいいですけど下は脱がせないでください」

 

「どうして?」

 

「私が女子だからです」

 

「あ、ごめん……」

 

「それは何に対する謝罪ですか?」

 

「いやー。何となく?」

 

 如月さんは深くため息を吐いた。

 

「歌恋、濡れタオル持ってきたよ」

 

「ありがとうございます」

 

 山河内さんがいいタイミングでやって来てくれたおかげで、僕はどうにか難を逃れた。

 

「中田さん。このタオルを使って足を冷やしてください」

 

「わかった」

 

「わかった」とは言ったものの、どんなふうに冷やせばいいのかわからない。ただ単に足の上に乗せるだけなのか、足を拭けばいいのか。それを訊けそうにもないから、僕はとりあえず足先を覆うようにタオルを置いた。

 

「中田さん。下から飲み物を取って来てもらえますか?」

 

「わかった」

 

「飲み物」だから水でいいよね。

 量とかもわからないけど、紙コップに一杯あれば十分だと思う。

 

「如月さん、飲み物持って来たよ」

 

「ありがとうございます。飲ませることってできますか?」

 

「お、教えてくれれば」

 

 如月さんに教わりながら岡澤君んの上体を起こし、顔が上に向かないように手で支え、紙コップの先を尖らせてゆっくりと水を飲ませた。

 ぼーっとしていた岡澤君は、水を飲み終えると死んだように眠りについた。

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