表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フェイタリズム  作者: 倉木元貴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/99

合同合宿会 14

「いい湯だったよ〜」

 

「ただのお風呂ですよ」

 

「普段と違うってとこがいいの」

 

「全然共感できないです。家のお風呂の方が格段にいいです」

 

「それは歌恋だからでしょ?」

 

「そうかもしれませんね。では今度は私たちが入ってくるので男子の監視をお願いします」

 

「任された! 私も宿題進めないとね」

 

「あ、そうでした。私、数学が今さっき終わりました。碧ちゃんより早いですよ」

 

 そんな稚拙な誘い方で誰が乗るのかと思っていたが、山河内さんはあっさり誘いに乗った。

 

「やってやるよ! 私だって終わらせてみせるよ!」

 

「頑張ってください」

 

 如月さんは山河内さんに火をつけてお風呂へ向かった。

 そんな都合よく山河内さんが数学をするのかと思っていたが、まさかこんな形でできてしまうとは。山河内さんの扱い方を完全マスターしているのか。如月さんはやっぱり恐ろしいな。

 今度神社にでも行って僕の今後の人生が平穏であるように神頼みでもしてみようかな。

 もうすでに手遅れか。

 如月さんがいる限り僕に平穏は訪れない。

 せめて、如月さんがこれから怒ることがないように、と神頼みをするのはいいだろうか。

 平穏な日々とは言えないが、怒っている如月さんを見るのはそれだけで神経をすり減らされるからな。それがないだけマシだろ。

 こんな悪口のようなことを言えるのも、今この場に如月さんがいないからだ。もしこの場にいたなら、何かと察知されて、問いたださられるに違いない。

 もしこの脳内の会話を如月さんに聞かれていたら、僕は今日間違いなく消滅する。

 ああ、消滅というのは、本当なら消されるや木っ端微塵にされるというのが正しいのかもしれないが、如月さんはそんな生半可なことはしないからの表現であり、もしバレたら存在そのものを消されると思うから消滅なのだ。

 考えるだけで寒気がする。

 一度トイレにでも行ってゲーム休憩を挟もう。

 席を立つ僕に誰一人声かけることなく僕はスマホを片手にトイレに篭った。

 ログインだけはできているから次にすることといえば、デイリーミッション。途中までは達成しているから、残りをトイレに篭っている間に達成しよう。

 そう思っていたが、入って五分もしたところで扉をノックする音が聞こえた。それと如月さんの声も。

 

「中田さん。勉強はどうしたのですか?」

 

「ト、トイレが終わってからちゃんとするよ……」

 

「隠れてサボろうとはいい度胸ですね」

 

 何故か如月さんにはバレていた。

 

「そ、そんなこと考えてないよ。単なるトイレだよ」

 

「それにしては長いですね。結構な時間入ってますよね」

 

「人に話しかけられていたら出るものも出ないんだよ」

 

「なるほど。そういうものですか」

 

 そういうものであることは事実だけど、元々出る気配のないものだから何も出ないけど。

 もう少しで今日のミッションをコンプリートできるというのに。如月さんに詰められたなら仕方がない。最後の一個は寝る前にしようか。

 流さなかったら怪しまれるから、水が無駄になるけどとりあえず水を流して手を濡らしてトイレから出た。

 

「トイレにスマホは必要でしたか?」

 

「時間の経過を観測するのには必要だろ」

 

「それはそうですね」

 

 トイレには入れ違いで今度は如月さんが入った。

 

 リビングでは皆静かに勉強を続けていた。

 そんな中、山河内さんは僕に話しかけた。

 

「トイレ空いた?」

 

 恥ずかしげもなく普通にだ。

 そう聞かれた僕の方がなんだか恥ずかしかった。

 

「き、如月さんが入っていたから、多分まだ……」

 

「もう、なんで歌恋はまだお風呂に入ってないの?」

 

「さ、さあ、僕に聞かれても、如月さんの事情は……」

 

「だよね。ごめん」

 

「ぜ、全然、大丈夫だよ」

 

 会話の正解がわからない。だがこれだけは言える。僕の答え方は間違っていたと言うことは。

 なんで僕は山河内さんに謝らせているんだ。山河内さんが何をしたって言うんだ。何も悪いことはしていない。悪いのは僕の答え方。僕の責任なのに。

 もっと他にいい答え方があった筈だ。今となってはもう遅いけど。次もし同じようなことが訪れたら次は上手くする。「お風呂でトイレはできないから仕方ない」って言う。

 今はそう考えていても、その本番がやってくるとも限らないし、そのタイミングでこのことを覚えている保証はない。それでも僕は頭の中で何度もシミュレーションをする。コミュ障を克服するために。いや、山河内さんと普通におしゃべりができるように。山河内さんの隣に相応しい人間になるために。

 そんな未来が本当に訪れるのか、僕は全くと言えるくらい信じてないけど、自信家の如月さんが応援してくれているんだから、うまくいきそうな気がする。

 

「中田君?」

 

「え? あ、な、何? どうしたの?」

 

「手が止まっているけど、大丈夫?」

 

「あ、ちょ、ちょっと分からない所があって……」


「へぇー。どこ?」

 

「え、あ、ああ、えーっと、ここなんだけど……」

 

「あーそれはね。先に簡単な式に直してから代入するの。だから式が(3A+B)+2(Aー2B)これを簡単にするの。3A+B+2(Aー2B)まずこれになるでしょ。そんで、後ろの括弧を外すんだけど、括弧の外に2があるから中のものと掛ける。そうするとこうなる。3A+B+2Aー4B。これを並び替えて3A+2A+Bー4B。ここからはできる?」

 

「ああ、うん。普通に計算して5Aー3Bかな?」

 

「そうそう。それから代入すれば大丈夫だよ」

 

「わかった。ありがとう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ