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フェイタリズム  作者: 倉木元貴


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合同合宿会 14

 お風呂の第一弾は、山河内さんと相澤さんの二人らしい。女子は時間短縮のため二人ずつ入るそうだ。男子も二人で入れば……無理か。

 窮屈よりも暑苦しいが勝りそうだ。

 そんなことよりも、僕と岡澤君は今窮地に立たされていた。

 如月さんの企てによって結局勉強会は行われるようで、如月さんの監視付きなんて息抜きの一つも行えない。そんな状況になっていた。

 僕よりも岡澤君の方がよっぽどだけど。

 

「中田さんは何から始めるのですか?」

 

「え、えーっと現代文からしようかなって」

 

「そうですか。わからない所がありましたらお構いなく訊いてください」

 

「ああ、うん。ありがとう」

 

 何故か如月さんが優しかった。というかその優しさが逆に怖かった。

 

「岡澤君は何をするの?」

 

「ああ、これうちのクラスの専門のやつよ」

 

「ああ、そうなんだ。じゃあ、私たちは教えられないね」

 

「あ、ああ、そ、そうやな……これやめて他のもんでもしようかな。なあ、大智」

 

 何故僕に振るのだ。

 そもそも宿題を一つしか持ってこなかった岡澤君が悪いのではないか。

 半分無視をするような態度をっとたが、それが仇となったのか無理矢理後ろを向かされて、耳元に小声で囁かれた。

  

「なあ、頼むわ。宿題一個貸してくれん?」

 

「野鳥観察小屋の時に、それはしない言ってたじゃん」

 

「あの時から状況は変わってんねん。頼むわ、なんでもいいけん。あとで答え写させてくれたらほれでいいけん」

 

 この岡澤君の提案僕に不利なことがにもないんだよな。逆にそれが少し恐ろしいが、宿題が早く終わるのならそれに越したことはない。

 

「地学でいい?」

 

「なんでもいけるで」

 

 僕らの利害関係は一致した。

 僕は岡澤君に地学の宿題を渡し、現代文の宿題をしようと机に目を向けた瞬間に、僕のズボンのポケットでスマホが音を立てた。そして、僕の目の前にはスマホを操作している如月さんがいた。

 如月さんともガッツリ目も合って、逸らすためにスマホに目を向けると、僕にメッセージを送って来ていたのは如月さんだった。

 

(そういうのは良くないと思いますよ。)

 

 如月さんにはバレていた。

 言い訳はどうしようか。何を送っても論破される自信しかない。ここは下手に何かを送るより、何も送らない方がいいかもしれない。

 ただ、それだと本人目の前にして堂々と既読無視をすることになる。それは流石に後が怖いから何かは送らなければ。

 簡単にスタンプで済ませたいが、何を送っても如月さんの逆鱗に触れそうで選べない。

 僕はとてもいいことを思いついた。

 

(悪いのはわかっているけど岡澤君の恋を応援したいんだ)

(如月さんのように上手くはできないけどできる限りのことでいいから協力したいんだ)

 

 嘘は言ってない。

 実際、岡澤君は堺さんのこと気になっているし、この提案も岡澤君からだし。

 

(言いたくはないですが、それなら仕方ありませんね。)

(その一つだけにしてくださいね)

 

(わかっているよ)

(ちゃんと得意分野の地学を渡しているから)

 如月さんから、グッドと書かれたスタンプが送られてきてこの会話は終了した。

 何事もなくて本当に良かった。如月さんの逆鱗に触れることなくて本当に良かった。

 そう思っていた矢先のことだった。

 僕のスマホがまた音を鳴らした。タイミング的に如月さんだろうが、僕は見たくなかっった。無視をしようと思い、スマホからシャープペンに持ち替えようとしていた時、如月さんは僕に言った。

 

「誰かからメッセージが届いたのじゃありませんか?」

 

 口ではそう言っていたが、目が違った。

「早くスマホを見ろ」目ではそう訴えていた。

 恐る恐る真っ暗なスマホ画面の明かりを灯してメッセージ画面を見た。

 僕の予想は的中していて、メッセージは如月さんからだった。

 内容はそんな恐ろしいものではなく、(碧ちゃんが出て来たタイミングで数学に変えてください。)と忠告と呼ぶには優しいものだった。

 僕も端からそのつもりだし、(わかった)と一言だけ返した。如月さんも既読をつけて何も返してこなかったから、僕もスマホを閉じて勉強に集中した。

 集中したつもりだったけど、分からなさすぎて全く集中できなかった。如月さんは、「わからない所があればいつでも訊いてください」と言っていたけど、真剣な顔でスイスイと宿題を進めている如月さんの邪魔はできないし、堺さんに訊くのは岡澤君の反感を買いそうだ。中村君は話しかけるなと言わんばかりの集中力。岡澤君は僕より頭が悪い。訊いたところで正答が導き出せるかが疑問だ。それに、バーベキュー台を出している時も、説明が下手だったし、時間だけ取られて全く進まないなんてことになりそうだ。ここはわからない所はとりあえず飛ばす作戦をとろう。下手に悩んでいて手を止めていたら不自然だし、何がなんでもとりあえず手は動かそう。

 わからないところを飛ばして、飛ばして、飛ばしていたら、あっという間に現代文は最後のページになった。

 誰もまだ一冊を終えていないのに、僕が次に移るのはそれはそれで不自然だろう。したくはないが、仕方ない。また始めのページの戻ろう。

 今度はわからないところを解くからさっきよりも格段に時間がかかりそうだ。

 誰を見てもみんな真剣。こんなに集中していないのは僕だけか。山河内さん早く出て来てくれないかな。

 僕の願いも虚しく。山河内さんがお風呂から上がったのは、それから二十分後のことだった。

 山河内さんがお風呂から上がったとともに、僕は現代文を数学に取り替えた。

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