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フェイタリズム  作者: 倉木元貴


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合同合宿会 9

「ほな周ろうや。せっかく来とんやし、この辺唯一の天然池やったら見な損やん」

 

 岡澤君は寝返った。

 あたかも初めから池を見て周る派の人間だったかのように。

 

「では来た道と違う方から帰りましょう!」

 

 如月さんは僕らの反対意見など聞く耳を持たず、スタスタと先を歩いて行った。

 相澤さん、中村君、それに僕は、その如月さんについて行くのに必死だった。

 それから野鳥観察小屋に着くまで、どんな会話をしたのかさえ覚えていない。

 

「暑い……足が焼けそうや」

 

 如月さんと山河内さんは、もっと近くで野鳥を見ると言って外にいた。そのタイミングで僕は岡澤君に訊いた。何故疲れる方を選んだのか。

 

「なんでこっちを選んだの?」

 

 岡澤君は、右に左に首を振り、周囲を確認していた。

 

「如月さんおらんけん言えるけど、宿題一個しか持ってこんかったんよ。すぐに終わってしまったら何言われるかわからんやろ? 俺も足ガクガクでほんまは動きたあないよ。やけどな、ほれよりも如月さんが怖かった」

 

 自分勝手な言い分だけど、最後の一文だけは擁護できる。あの如月さんの圧には屈するしかないもん。

 

「でも宿題ひとつだけだったとしてもその一つで時間を潰すのは可能じゃないの?」

 

「ほれがな、間違えてめっちゃ簡単なやつ持ってきてしもて、やばいねん」

 

「僕の貸してあげるよ」

 

「いやいや、ほれはええわ。他人の宿題を手伝えるほど余裕はないわ」

 

「だよね」

 

 疲れすぎて会話を続ける気にもならなかった。

 それは岡澤君も同様だったと思う。普段はお喋りなのに、今は俯いて汗を垂れ流して廃人のようになっている。中村君も静止画でも見せられているようにずっと座って天井を見上げていた。相澤さんは座りながらに眠っていた。

 

「みなさんそろそろ帰りましょうか」

 

 如月さんが野鳥観察小屋に来てそう言って、廃人と化していた三人はゾンビのようにフラフラと歩く如月さんについて行った。

 僕ものその三人に混ざり、動かない足を無理やり動かし外に出た。

 野鳥観察小屋ににいたから気づかなかったけど、もう辺りの空はすっかりオレンジ色に染まっていた。スマホで時間を確認すると、もう午後六時を過ぎていた。昼食を食べてから六時間以上経っているのに、疲れすぎて空腹を感じていない。極限状態だった。

 ダラダラと歩いてコテージに戻り、休む間もなく夕食の準備をした。

 女子四人は相変わらず夕食の事前準備。男子三人はは外で火起こしを行った。

 男子三人の中でまともに火おこしをしたことがあるのは僕だけで、今回は僕が指導役になってしまった。

 岡澤君のバーベキュー台の準備では分かりにくいと心の中で文句を言っていたが、この場に立たされたらどんな言葉を使えばいいのか悩む。そして結局、わかりづらい言葉を使ったり、噛んだりして相手にうまく伝わらない。今まで何度もそれを繰り返していたが、懲りずに今もそうなる予感しかしなかった。

 それでもやるしかない。わかりにくい言葉でも、何もしない方が怖いから。

 

「まず、炭に火をつける前に事前準備を行うの。炭は小さい方が火が付きやすいから、箱の中から小さい角を選別する。大きさに基準は特にないけど、大まかに大・中・小に分けてくれたらそれで大丈夫。それで、小さい炭が選別できたら、持ってきた新聞紙で包んで先端を捻る。これをバーベキュー台の中央に置いて、その上に中サイズの炭を置いて立てかけるように大きい炭を置く。そして、新聞紙で包んだ隅に火を付ける。あとは暫く待って、全部の隅に火が付いたことを確認してからバラしていく。こんな感じで、大丈夫?」

 

 二人に顔を向けると、どっちもポカンとしていて、ついてこれていないんだ、ということが顔を見てわかった。

 

「大智。説明は良かったと思うけど、もうちょいゆっくり話してくれんで。やること多すぎて頭パンクしそうやわ」

 

「ごめん」

 

「ええねんええねん。しよるけん横から囁いてくれへんで?」

 

「ああ、わかった」

 

「まず、ちっこい炭取るんやろ?」

 

「うん」

 

「ほんで、新聞を用意して包むんや」

 

「うんうん」

 

「ほいで、バーベキュー台に置いて、中くらいの炭を上に置くやん」

 

「うんうんうん」

 

「ほの上に、おっきい炭置いて、新聞に火付けたらええんやろ?」

 

「うん。完璧……」

 

 僕の文章は要約されたけど、何も間違ってはいない。よく僕の言葉だけで理解できたよ。

 岡澤君おかげで中村君に説明する手間が省けた。

 これでもう免許皆伝だ。僕が教えられることはもうない。

 そんなことよりも如月さんを呼ぼうか。

 

「僕、如月さんに準備できたって言ってくるよ」

 

「おう、頼んだで。ほの間炭ちゃんと見よるわな」

 

 見るも何も、放置してても燃え尽きるだけなんだから何もすることはない。まあ、万一にもコテージに燃え移るなんてこともあるかもしれないから、火から目を離さないというのはいいと思うが。

 そんなことを考えながら、僕はコテージの中に入った。

 

「如月さん。こっちの準備はできたよ。そっちは大丈夫?」

 

「あ、中田さん。もう少しで終わるので、先にできた分だけ運んでおいてください」

 

「わかった」

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