合同合宿会 1
夏休みが始まって二日が過ぎた七月二十二日。僕はいつもより三時間も早く朝起きた。
前回の親睦会では、西の方角へ向かうため必然的に早起きをしなければならなかったが、今回は違う。南の方角へ向かうから僕は朝早く起きる必要はなかった。それなのに僕は、午前五時頃に目が覚めてしまった。こんな時間に起きてしまったのには二つ理由がある。
一つは、前親睦会の時と同じ不安な気持ちで軽く目覚めたこと。もう一つは、その起きたタイミングで、如月さんから電話がかかってきていたこと。遅刻したのかと焦って覚醒してしまった。
僕は寝ている体で、如月さんの電話には出なかった。すると、今度は相澤さんから電話がかかってきた。が、僕はそう簡単には引っかからない。
相澤さんは朝が苦手だ。親睦会の時も一番最後に起きていた。それも寝ぼけながらだった。そんな相澤さんがこんな朝早い時間に起きているわけがない。これは間違いなく如月さんだ。相澤さんが遅刻しないように、どちらかがどちらかの家に泊まっているんだろう。相変わらず如月さんは面倒見がいいな。
だとしても僕は電話には出ない。もう少しでいいからゆっくりしたいからだ。
思い切ってススマホをマナーモードにして電話の音が聞こえないようにして、スマホでゲームをしていた。たまに電話に画面を全て埋め尽くされることもあるが、それ以外に支障はなかったから気にはなるがゲームができないほどではなかった。
如月さんも諦めたのか、しばらく電話がかかってくることはなく、二十分くらいは快適にゲームを続けた。そんな時突然、山河内さんから電話がかかってきたのだ。脊髄反射でワンコールでその電話に出るが相手は山河内さんではなく如月さんだった。
「中田さん、おはようございます! 起きられないと思ってモーニングコールをご用意しました。これで遅刻しないで済みますね!」
僕はこの電話を今すぐ切りたかったが、如月さんが機嫌の悪そうな言い方をしていたから渋々だが相手をした。
「あ、おはよう……。目覚ましかけそびれていたから助かったよ……」
全て嘘である。
もちろん目覚ましは二時間後の七時頃にはかけていた。だって僕の家からならその時間に起きても七時四十五分の汽車には間に合うんだ。わざわざ早起きしなくてもいいだろう。それに、僕はもうすでに起きていた。だが、「起きているよ」と簡単に言ってしまえば「何で電話に出ないのですか」と逆鱗に触れるのは間違いなし。加えて機嫌の悪そうな如月さんだ。少しでも持ち上げておかないと今日一日が地獄になる。
「あらあら、こんな大事な用がありますのに目覚まし時計をかけ忘れていたのですか?」
「そ、そうなんだよね……いやー本当にありがとうね。おかげで遅刻が免れたよ」
「それはよかったですね。ところでなぜ私の電話には出なかったのですか?」
なぜか如月さんにはバレていた。
いくら嘘をつくのが下手な僕でも電話越しで見抜かれるほどではないとは思う。勘だけど、これは多分如月さんが鎌をかけているだけだと思う。
一か八か賭けに出てみよう。
「いやー、山河内さんからの電話で起きたんだよ」
「それにしては出るのが早かったと思うのですが?」
「遅刻したんじゃないかって焦っていたからね。今内心遅刻じゃなくてよかったと思っているよ」
この流れはまずい。今まで如月さんとの言い合いに僕が勝ったことはない。どこかでこの会話を終わらせたいけど、如月さんの気分次第だから、終わりが見えない。
今考えられる最短の終わらせ方は、間違いなく僕が自白することだ。だが、そんなことはできない。今日はまだ始まったばかりなのだ。少しでも平安に、今日という日を過ごしたいのだ。
「そうなんですね。それはやはりいいことしましたね。それはそうと、一花ちゃんの電話は気付きましたか?」
「いやー、全くだよ」
「ですよね。ところでかけ返そうとは思わなかったのですか?」
「だ、だから、それは山河内さんの電話で初めて気づいたから……」
「ですよね。そうでしたよね。では何故ゲームだけはログインできるのですか?」
僕はもう終わったかもしれない。
これも如月さんが鎌をかけているだけだと信じたいけど、この自信のある話し方、何かを知っている時のトーンだ。
でも一応、知らないふりで一度通そう。
「何の話かな? ゲーム? それは今ログインしたばかりだよ?」
「そうですかね。私のところでは三十分前になっていますよ。“ランド”さん」
如月さんはやはり知っていた。
“ランド”と言うのは僕がどのゲームにも付けるプレイヤー名だ。この名は、樹や綾人にも言ってはいない。それを如月さんが知っていると言うことは、如月さんは僕がどのゲームをしているのか知っていると言うこと。それに、如月さんが僕のログイン時間を知っていると言うことは、どれかのゲームで如月さんとはフレンドになっていると言うことか。
そんなところで監視されているとは知らず、僕は進むべき道を間違えた。
「どのゲーム?」
「前に駅で汽車を待っている時にしていた三国志のゲームです」
「プレイヤー名は?」
「中田さんと同じような名前ですよ」
如月さんは下の名前は歌恋だから、“ラブソング”とかにしているのかな。
僕のフレンドにそんなダサい名前はいなかったはずだ。途中で名前を変えている奴もいるから一概にそうとは言えないけど。
「ど、どれ?」
「もうなんでわからないのですか。正解は“二月”ですよ。二月を和風月名にすれば何になりますか?」
“如月”だ。
僕は初めからおかしいと思っていたのだ。僕より遥かにランクの高いプレイヤーが何故僕をフレンドに登録していたのか。おかげでクエストがスイスイ進むようにはなっけど。まさかそれが如月さんだったとは。
「それで、なんの話をしていたのだっけ?」
「怒っていないので大丈夫ですよ! では」
そう言って電話は切られたが、あれは絶対に怒っていた。




