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フェイタリズム  作者: 倉木元貴


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合宿の予定を 2

 今日は今まで一番地学から程遠いことをしていた。地学について何も触れなかったのは入部三ヶ月で初めてだった。

 

「絶対美里の方が星が綺麗に見えるのに!」

 

 部活が終わった帰り道。山河内さんは行き先が美里キャンプ場にならなかったことを悔しがっていた。

 

「大浜の丘も星は綺麗に見えるらしいよ。何もない田舎だから」

 

 それを堺さんが慰めていた。

 

「そうだけど、美里は標高八百メートルのところにあるじゃん。でも大浜の丘はたったの海抜十五メートルだよ。空に近い美里の方が絶対に星が綺麗に見えるよ」


堺さんは呆れた様な顔を浮かべていた。

 

「もう、決まったことなんだから文句言わないの。私たちが三年になったときに問答無用で美里キャンプ場にすればいいでしょ」

 

「うん、そうする。絶対にそうする!」

 

「その前に部長にならないとだね」

 

「真咲も中田君も岡澤君も中村君も、私絶対に負けないからね!」

 

「私は大丈夫だよ。部長になる気なんてさらさらないから」

 

「俺も部長や大変そうな仕事ようせんわ」

 

「じゃあ、あと中田君と中村君だね」

 

 単に話を聞いていただけなのに僕らは突然巻き込まれた。山河内さんにものすごい眼光で睨まれていた。その視線に合わせたくないから目はずっと逸らした。

 

「僕も岡澤君に同意するよ。僕に部長なんて務まらないよ」

 

「中村君は?」

 

 山河内さんにこれまで感じたことないくらいの圧を感じていた。気の弱い中村君はこの圧に屈するのではと思っていたけど、予想していなかった呆れた顔をしていた。

 中村君は、一度ため息を吐いた。

 

「僕も。内心目当てで部活を選んだ訳じゃないからそんなものには興味ないよ」

 

「よかった。これで三年生になった時の地学部の部長は私だね」

 

 堺さんは笑っていた。

 たったの三ヶ月というのに堺さんはもう山河内さんの扱い方を覚えていた。

 

「将来の部長さん地学部をよろしくね」

 

「任せてよ! 私が部長になった時には真咲は副部長だよ!」

 

「私の意見は完全無視?」

 

「職権を濫用するよ」

 

「恐ろしい部長が誕生しそうだね」

 

「そんなことないよ。しっかり部長をするから、任せてよね!」

 

「はいはい。まだ先の話だからそれくらいにしよ。それに、もう着いたよ」

 

 そう、僕らは普段同じタイミングで帰らない。同じ部活なのに帰るのはいつもみんなバラバラなのだ。山河内さんと堺さんは、如月さんと相澤さんの恋愛科学研究会の部活が終わるのをいつも待っている。中村君は相変わらず早く帰りたいのか女子三人よりも一本早い汽車で帰る。岡澤くんはどこの誰かも知らないクラスの人といつも帰っている。僕も早く帰りたいのと、如月さんに毎回会うのは勘弁といつも先に帰る。

 そんな僕らが一緒に帰っているのには理由がある。それは、如月さんに図書室に呼ばれたということだ。


 このメンバーで集まるのは、なんだかんだ合同親睦会が行われた4月以来だ。集合がかけられたということは夏休み中に何かをするということなのだろうか。合同親睦会は割と楽しかったから、そんな風なことをするのならありだ。

 図書室に入ると如月さんと相澤さんがもうすでに席に座っていた。如月さんは、席から立ち上がり僕らを出迎えた。 


「部活、お疲れ様です。さあさあ座ってください」

 

 如月さんに誘導されながら僕は相澤さんの前の席に座った。

 

「みなさん揃いましたね。それでは早速ですが、夏休みの合宿について話し合いたいと思います」

 

 如月さんは一人で拍手をしていた。

 今さっき地学部でも合宿について話し合ってきたばかりだというのに、こっちもその話だとは思いもしなかった。


「今回は地学部・恋愛科学研究会合同合宿会という名前にしようと思います。前回同様、候補地を出してもらってみなさんで投票して決めたいと思います。まず一番手。誰が行きますか?」

 

 相変わらずネーミングセンスのない如月さんだった。もっとマシな言い方はなかったのかと言いたいけど、戦争の火種はできるだけ生まないようにしなければならない。

 そんな中、前回同様山河内さんが手を挙げた。

 

「私は不本意ながら大浜の丘オートキャンプ場を推薦します」

 

 その予想外の発言に、男子は三人とも開いた口が塞がらなかった。あの堺さんでさえも驚いた顔を浮かべていた。

 

「なるほど。大浜の丘オートキャンプ場ですか。広くて近くに公園もあって、海老ヶ池という天然池があるところですね。そう言えば近くの海岸線は国定公園でしたね。地学部としては興味しか湧かないですね」

 

 なぜ如月さんはそんなに詳しいのだ。

 もしかして、僕らの会話を盗聴でもしていたのだろうか。そんな疑いが出るくらいに如月さんは今話して来た会話と同じ様なことを言っていた。

 

「他に候補地はありませんか?」

 

 こんな状態で美里キャンプ場がいいなんて、言えるわけがない。

 男子は全員黙り込んだ。

 そんな中何も知らない相澤さんが手を挙げた。

 

「合同合宿会は……」

 

 相澤さんはまだそれだけしか言っていなかったのに、如月さんは言葉を被せた。

 

「却下です」

 

「まだ何も言ってないのに……」

 

「他はありませんか? ないのでしたら大浜の丘オートキャンプ場に決定しますよ」

 

 発言権を取り上げられた相澤さん以外、この場で手を挙げることができず、僕らの行き先は大浜の丘オートキャンプ場に決まった。

 

「珍しいですね。碧ちゃんが美里キャンプ場以外の名前を出すなんて。それにしても、さっき言っていた『不本意ながら』とはどういうことですか? 話したくなければ結構ですが、話せるなら理由を訊いてもいいですか?」

 

 さすが如月さんだ。皆が気になっていることをずけずけと最も簡単に山河内さんに訊いていた。


 山河内さんは、ため息を吐いた。


「歌恋は知らないと思うけど、今日は地学部でも合宿について話し合っていたの。もちろん私は、美里キャンプ場を推したのだけど、投票の結果で負けてしまって。悔しいけど、決まったことだから。そうと決まれば予習もしたいと思って。何も知らないままで行くのは嫌だから。だから地学部よりも先に合宿したい。できれば七月中がいい」

 

 『不本意』の理由は、実に山河内さんらしい理由だった。

 

「なるほどです。では七月中に行くことを を軸に日程を決めていきましょう」

 

「みんな大丈夫? 課題と勉強で忙しいかもしれないけど……」

 

「大丈夫ですよ。中田さんは七月中なんて課題に一切手をつけていませんから」

 

 なぜ僕はここで辱めを受けないといけなかったのかわからないが、それが事実だから言い返す言葉が思いつかなかった。

 山河内さんもフォローの言葉が見つからないのか、僕の方を見てすぐ目を逸らし話をすり替えた。

 

「夏休みが始まった土日は、人が多いだろうからできれば平日がいいよね。地学部の部活は言うほど厳しくないからいつでも大丈夫だと思うよ」

 

「そうなのですね。私たちも夏休み中の部活はないので七月中でも全然大丈夫ですよ。みなさんも予定があるなら事前に教えてください。ずらしながら日程を合わせましょう」

 

 一番は岡澤君が手を挙げた。

 

「八月からはバイトがあるけん後半は難しいけど、七月中やったらいつでも空いとる」

 

 今度は相澤さんが手を挙げた。

 

「私はお盆の期間中、祖父母の家に帰るからそれ以外なら全然空いているよ」

 

 すかさず今度は、堺さんが手を挙げた。

 

「私は七月の二十六日と八月の後半は予定があるからそれ以外なら大丈夫」

 

「みなさんの話を纏めると、七月の二十二日と二十三日かがよさそうですね。みなさんどうですか?」

 

「夏休み始まってすぐだけど、みんなで勉強会できるからそれで行こう!」

 

 それは間接的に勉強道具を持ってこいと言っていると言うことだろう。前回は僕のせいで大変な目にあったから、事前に全員に伝えることであのイベントを回避しようとしている。

 

「今回は肝試しなんてしませんよ。碧ちゃんの声は近所迷惑なので」

 

「歌恋が驚かすからじゃん!」

 

「反応が面白いのでつい」

 

「絶対変なことしないでよね」

 

「しませんよ。私をなんだと思っているのですか?」

 

「夜とお泊まりの時だけは天敵」

 

「夜中にトイレで起きても、付いて行きませんよ」

 

「歌恋〜それだけはやめて〜」

 

 如月さんは、抱きつく山河内さんの頭を撫でながら勝ち誇った顔をしていた。

 

「そんなことよりみなさん、二十二日、二十三日で大丈夫ですか?」

 

 その意見に反対するものはおらず、地学部と恋愛科学研究会での合同の合宿は、七月の二十二日と二十三日に決まった。

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