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フェイタリズム  作者: 倉木元貴


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合同親睦会 21

「うーん……それは、約束できないかも。歌恋と一花と真咲には話すかもしれない」

 

「一番言っちゃいけない人が混ざっている」

 

「それは誰のことかな?」

 

 これだから深夜のテンションというものは。本当に恐ろしい。

 僕は完全に口を滑らせた。山河内も薄々感じているような言い方だから多分どんな手を使っても手遅れ。

 

「何でもない……聞かなかったことにして」

 

 山河内さんは突然立ち上がり、子犬のように芝生の地面を走り出した。

 僕も立ち上がってその微笑ましい様子を見つめていた。

 

「もう聞いちゃったから遅いよ!」

 

 この時間に相応しくない大声を山河内さんは発した。

 距離的に僕もあのくらいの声を出さないと届かないと思う。だが、僕は大きな声を出したりしない。動きたくはなかったけど、山河内さんの元へ向かう他なかった。

 

「山河内さん、今、夜中だから。みんな寝ているから静かにしないと……」

 

 山河内さんはまた走り出した。今度はさっきまで僕らが横になっていた場所まで。

 

「大丈夫! みんなぐっすり眠っているから!」

 

 僕はまた山河内さんを追いかける。

 

「如月さんが起きたら怒られるよ」

 

「大丈夫だよ。睡眠薬飲ませたから」

 

「え! な、何でそんなことしたの? 何のために?」

 

「冗談だよ。私、睡眠薬なんて持っていないし、そんなことしないよ」


 深夜のテンションはここでも力を発揮する。こんなあるわけない嘘を一瞬でも信じていた。

 

「もう、びっくりしたよ。みんなにも盛ったのかと思ったよ」

 

「中田君には、私がそんなことしそうに見えるの?」

 

「如月さんはともかく、山河内さんはそんなことしないって信じたい……」

 

「やっぱり歌恋だと思った」

 

「な、何が?」

 

「何が?」とは言ってみたが、大体何のことを言っているのはか分かった。

 もう僕は口を開かない方がいいかもしれない。

 

「さっきまで私たちが話してたこと。中田君が一番秘密を知られたくない人物」

 

「絶対に言わないでよ」

 

「多分!」

 

 山河内さんの解釈が「一番秘密を知られたくない人」で助かった。本当は面倒ごとが起きそうだったから、知られたくなかっただけなのに。これは山河内さんには言えない。このままの方が僕は助かる。

 

「ねえ、そろそろコテージに戻ろうか。朝も早いし少しでも横になっておかないと」

 

 そのままシンプルに、コテージに入ろうとする山河内さんを僕は止めた。

 

「そのままはまずいよ。せめて芝生は取らないと……」

 

 もし、芝生だらけの山河内さんを、寝起きの如月さんが見たらどんな反応を示すのか、興味はあるけど、事後のことを思えばここ止めておくのが最適。


「えー、どこに付いているの?」

 

 そう言って山河内さんは僕に背中を向けた。

 僕に背中を向けると言うことは、背中に付いている芝生を取れと言うことなのだろうが、この僕が取ってもいいのだろうか。

 夜中のテンションはここぞとばかりに発揮しない。かろうじて意識を保っていた理性が、山河内さんの背中についている芝生を取ることを止めた。

 

「背中の左寄りにたくさん付いているよ」

 

「え? どこ? 見えないから取ってよ?」

 

 本人がそう言っているんだもう触れてしまってもいいだろう。いやだめだ! 山河内さんに変人扱いされるのはもはや生き地獄。何としてでもそれは避けたい。

 それでも僕の右腕は山河内さんの背中に近づこうとしていた。

 目の前には山河内さんの華麗で華奢な背中が広がっていて、触りたい感情を抑えるのが困難になっていた。

 もうどうにでもなれ! 

 そんな感情を浮かべながら僕は、山河内さんの髪についた芝生を取り除いた。

 この時は特に何も思わなかったが、後々布団に入った際にあんな近距離で山河内さんの髪を触ってしまったんだと余計に眠れなくなるのはまた後の話。

 

「え? 背中のは?」

 

「ご、ごめん……それは自分で取って」

 

 理性は覚醒してしまったのだろうか。それとも単に僕が臆病だっただけなのだろうか。答えは分かりきっているが、分からないと言うことにしておこう。

 

「あ! こうすれば背中のも取れる」

 

 僕が山河内さんに背を向けて草を取っているときに山河内さんはそんなことを言った。その声に反応し僕が山河内さんの方を見ると、山河内さんはあろうことか服を前と後ろを逆にして、背中に付いていた草を取っていた。

 別にそのくらい普通だろと思っている人も多いだろうが、山河内さんのお腹が見えているんだぞ。こんなことがあってもいいのか。それを見てしまってもいいのだろうか。と思いながら脳裏に必死に焼き付けた。

 

「中田君。私、終わったから背中の取るよ」

 

「だ、大丈夫だよ。自分で何とかするよ」

 

「いいからいいから。前向いてて」

 

 僕は山河内さんの背中の芝生を取らなかったと言うのになんて優しい子なんだ。

 深夜のテンションはこんな時に力を発揮し、何故か僕は涙を流しそうになっていた。

 

「取れたよ!」

 

「あ、ありがとう……」

 

「どういたしまして。じゃあ服も綺麗になったしコテージに戻ろうか」

 

 僕らはコテージに戻った。戻って脱衣所にある独立洗面台で手を洗った。流石に手で芝生を払ったから砂が付いていた。

 山河内さんは石鹸を使って手を丁寧に洗っていたけど、僕は水だけで簡単に。

 

「じゃあ、おやすみ。もう二時間しか寝られないけど」

 

「うん、おやすみ」

 

 僕は階段で二階へ上がる山河内さんを見送って、リビングの自分の布団で横になった。


 さっきはわざと言わなかったが、僕が水だけで手を洗った理由は簡単。山河内さんの髪を触った時に僕の手に微かに山河内さんのシャンプーの香りが手に付いていたのだ。それをどうしても洗い流したくなかった。それだけだ。

 シャンプーの香りのおかげもあって、興奮しきっていた僕は結局一睡もすることなく朝を迎えた。

 

「何で起きているのですか?」

 

 朝、僕らを起こしに降りて来た如月さんの第一声はこれだった。

 

「眠れなかったんだよ」

 

「夜に変なことするからですよ〜。でも、朝ごはんにするので起きといてください」

 

「それは多分大丈夫。日光見たら眠たい気持ちも吹っ飛んだ」

 

「そうですか。では、中村さんと岡澤さんも起こしてあげてください。私は上の二人をもう一度起こしに行きます」

 

 如月さんはそう言って階段を上がって行った。

 僕は言われた通り、岡澤君と中村君の体を揺すって二人を起こした。

 

「あれ? 如月さんは?」

 

「僕で悪かったね。如月さんなら僕だけ起こして上に行ったよ」

 

「くそ〜。せっかく、堺さんに朝起こしてもらう夢見とったのに、正夢にならんかったわ〜」

 

 岡澤君は朝から元気なものだ。対して中村君はまだ寝ぼけている様子だった。

 

「おはよう。もう朝なんだ、如月さん……」

 

 この寝ぼけている二人を、僕はしばいてやろうか悩んで、完全に覚醒するまでさっきより強く揺すった。

 

「中田君、おはよう……なんや、朝から機嫌悪いな……」

 

「おはよう。多分気のせい」

 

「ほ、ほうか……」

 

「それよりも、早く布団を畳んで着替えをしないと。早くしないと如月さん達が降りてくるよ」

 

「ほんまやな! 早よせなんなら!」

 

 岡澤君と中村君は慌てて服を着替え、床に敷いている布団を畳んで女子が降りてくるのを待った。

 しばらくすると、階段を降りる足音が聞こえ、女子四人が姿を現した。

 

「みなさん、おはようございます」

 

「おはよー」

 

「おはよう」

 

「こんな朝早くに起こしやがって歌恋ちゃん一生恨む」

 

 あまり寝ていないはずの山河内さんより、相澤さんの方がよっぽど眠そうな顔をしていた。

 

「朝ごはんはもう既に作っているので、みなさんでいただきましょう」

 

 そう言って如月さんは冷蔵庫からサンドウィッチとこんにゃく田楽を取り出した。

 こんにゃく田楽に使われているこんにゃくは、多分昨日の肝試しで僕が顔面に受けたあのこんにゃく。出されたこんにゃくの量が全てを物語っていた。到底七人で食べきられるような量ではなかったが、残ったこんにゃく田楽は如月さんが残さず全て食べた。

 カレーの時の答え合わせのようだが、如月さんの食べる量は男子の僕らよりもはるかに多いことがわかった。

 こうして朝食を終えた僕らは、自分の荷物を整理し着た道を辿って家路についた。帰りの道はみな疲労が溜まっていたようで、七人中汽車で眠っていないのが、僕と如月さんと堺さんだけになっていた。

 僕は眠たいはずなのに何故か眠れなかった。もちろん原因はわからない。

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