合同親睦会 20
「僕も……一緒……」
外に出てきたのはいいが、僕には会話を見つけることはできず、気まずい感情だけが僕の中に溜まっていた、
山河内さんは、空を見上げていた顔を不意に僕の方へ向けた。
「……そうなんだ。奇遇だね!」
山河内さんよ。その言葉と笑顔は反則だ。
どちらかだけならまだしも、同時と言うのはずるい。おかげで僕の心臓は、さっきまでとは比べられないくらい明らかに鼓動が早まっている。この高鳴る鼓動はしばらく収まりそうにないや。
「ねえ、見て見て。もう夜中だから夏の大三角形が見えるよ!」
山河内さんはそう言って芝生の上に寝転んだ。
「や、山河内さん。寝転んだら汚れるよ」
「大丈夫だよ。払えばなんとかなるって」
山河内さんには言えないけど、寝転んでほしくないのはそれだけの理由じゃないんだ。
僕らが天体観測していた頃は月は見えていなかったが、今ようやく月が出てきて辺りはスマホのライトがなくても見えるくらいには明るかった。必然と言えば必然。星空よりも月よりも、山河内さんの顔よりも、寝そべって強調された山河内さんの胸にしか目がいかなかった。
「中田君も横においでよ! 今丁度、春と夏の大三角形が見えるよ。ついでに木星も!」
山河内さんは僕を共犯者に仕立て上げるつもりのようだ。
まあ、上から寝そべっている山河内さんを見るよりかは幾分ましだ。山河内さんの言った通り払えばなんとかなるかもしれない。大丈夫だと自分に言い聞かせながら僕も寝そべった。もちろん山河内さんとは人一人分の距離を空けてだ。
だが、山河内さんはいとも簡単にその距離を縮めてきた。
「ほら見て! あの真上付近に見える三つの明るい星。あれが夏の大三角形だよ! その下の方に見える明るい点滅のしていない星が木星だよ!」
隣の山河内さんが気になりすぎて、緊張して星どころじゃなかった。
「そ、そうだね……」
このうるさく鳴っている僕の心臓の鼓動が、山河内さんに聞こえていないか心配だった。
「ねえ、私ずっと中田君に訊きたいことがあったんだ」
山河内さんはいつもに増して真剣な顔をしていた。
「ど、どうしたの?」
山河内さんは僕の方を見ることなく、星空を見ながらこう言った。
「中田君はさ。どうして地学部に入ったの? それも天文班に」
「そ、それは、星が好きだ……」
僕がまだ喋っている途中だと言うのに山河内さんは言葉を被せてきた。
「それはそうかもしれないけど……ごめん、勝手な印象で悪いけど、中田君はそんなに星のこと好きじゃないように感じた……」
これは痛いところを突かれてしまった。
馬鹿正直に如月さんに言われたからなんてもちろん言えない。それを言えば最悪僕は山河内さんに叩かれるのだろうな。
言いたくないけど、あの話をするしかないのか。
僕はため息を一度吐いた。
「僕は話を纏めるのが苦手だから、長い文章になると思うけど、それでもいい?」
「うん! 眠れないから全然大丈夫だよ!」
山河内さんは僕に笑顔を向けていた。
僕は内心ほっとしていた。この後本気で山河内さんに怒られると思っていたから、笑顔を見せてくれて本当によかった。
「本当は話したくないけど、山河内さんにだけ特別だから……」
「うん! 分かった!」
僕はもう一度ため息を吐いた。
「中学の頃、僕は陸上部に所属していたんだ。特に足が速かったわけじゃないけど、走るのって結構楽しくってずっと夢中で走っていたんだ。ある時、僕より全然走るのが早い女子に言われたんだ。『本気で練習しないのは勝手だけど、私は自主練もしたいから部活を長引かせるのだけはやめて。私の邪魔はしないで』って。僕としては本気で走っているつもりだったから悔しくて、苛立って。その時は僕一人じゃなく他にも二人いたから盛大に反論した。『別に長引かせてないだろ』とか『だったらお前も俺らの邪魔するなよ』とか『じゃあ、ここで練習しなければいいだろ』なんて酷いことを言った奴もいた。流石にそいつとは友達やめたけど、僕はずっと後悔しているんだ。なんであの時あんな言葉を言ってしまったのかって。でも彼女にとっては僕たちがお遊びに見えていたことが何よりもショックだった。確かに僕は楽しくて部活をしていたけど、彼女には僕らは邪魔だったんだって。ものすごく落ち込んだ。それから彼女とも顔を合わせにくくなって、部活もサボるようになった。でも、早く家に帰れば親に怪しまれると思って、ベンチしかない公園に一人座ってゲームをしながら夜まで時間を潰したんだ。部活をしていた頃は遅い時には八時頃までしていたから夜になると星を数えて。星を数えている間は何も考えなくていいし、気持ちが楽になったんだよ。だから、単に星を眺めるのは好きだよ。山河内さんのように星が大好きで詳しくはないけど、僕が星を好きって気持ちに嘘はないよ。信じるも信じないも山河内さんの勝手だけど……」
僕が話し終えると、山河内さんはくすくすと笑っていた。
「あ、ごめん……そう言うんじゃないんだ。話の内容はすごく良かったよ。全部私の誤解だって分かったし、人との関係意外と気にしているんだって思った。でも、私にそこまで話さなくてもよかったんじゃない?」
「それは言わないでよ。だから最初に言っただろ。纏めるの苦手だから長文になるって」
山河内さんはまた笑っていた。
「そうだったね。でも、私に秘密知られちゃったね!」
隣の山河内さんに見惚れた僕は、ふと我に返り山河内さんとは反対の方を向いた。単純に顔を見るのが恥ずかしくなったからだ。
「誰にも言わないでよ」




