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フェイタリズム  作者: 倉木元貴


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合同親睦会 17

 驚いて音の鳴った方へスマホを向けてしまったのが、間違いの始まりだった。

 スマホのライトが照らした先には、手が長く、背中に大きな甲羅のようなものを背負っている生物が川の中で仁王立ちをしていたのだった。

 僕は逃げた。それも全力で、叫びながら。

 その際に手が滑って、自分のスマホとスピーカーを落としてしまった。だが、そんなことはどうでもよかった。それよりも何よりも、逃げたかった。

 幸いにも如月さん達は近くにいて、足元はかろうじて見える程度だったが、如月さん達のスマホライトのおかげで僕は迷わず如月さん達の元へたどり着いた。

 

「き、如月さん! カ、カカ、カッパが……カッパがいた!」

 

 如月さんは、焦る僕を落ち着かせながらも疑いの目を向けていた。

 

「まずは落ち着いてください! カッパなんんてこの世にいませんよ!」

 

「僕もそうだと思っていたけど、本当にいたんだよ! 川の中で二足歩行している手の長い生物が!」

 

「それがもしカッパであるなら、もっと他にも特徴があったのじゃないですか? 例えば甲羅があったり、頭にお皿が載っていたり、人間とは思えない嘴があったり。全てに当てはまらない限りカッパだったとは言えませんよ」

 

 そう言われると、途端に自信をなくす。

 如月さんの特徴に当てはまりそうなものは甲羅くらいしかなかったが、それも確実に甲羅だったとは断言はできない。ただでさえ暗い空間だったから、大きなものを背負っている人間だったのかもしれない。そう言われてみれば、体の色は緑よりも黒に近かった気がする。頭の皿もなかったように思える。

 ただ、例えそれが人であったとしても、こんな夜に誰がどんな理由があって川に潜ると言うのだ。もしかしたらカッパよりも、その人間の方が厄介かもしれないな。

 僕はカッパよりも、こんな時間に川に潜っている人間の方が怖い。

 

「おーい! どないしたん? めっちゃ大きい声聞こえてきたで?」

 

 僕の悲鳴を聞いて、相澤さん、岡澤君、中村君も駆けつけた。

 

「中田君の叫び声が聞こえてきたから、余程のことがあったと思ったんだけど、大丈夫?」

 

「それがですね……中田さんまでも、カッパを見たと……」

 

「やっぱりいたんだ! あれはカッパだったよね! 僕の見間違いじゃなかったんだ!」

 

 中村君は興奮しすぎてもはや別人のようになっていた。

 

「中村さんまでどうしたのですか? カッパなんてただの迷信ですよ。妖怪の類はこの世にはいませんよ。幽霊も人間が作り出した恐怖の感情の塊でしかありませんよ」

 

 如月さんの全否定に返す言葉もなく、中村君の興奮も冷め切っていた。

 

「それはそうと、中田さん。スピーカーはどうしたのですか? あと、中田さんのスマホも」

 

「落としてきた……あそこに……」

 

 僕は本堂の方を指差した。

 指差した先には、僕のスマホが奇跡的に画面側から下に落ちて、暗闇をただ照らすだけの明かりがあった。

 何よりも心配なのはカッパがいることよりも画面が割れていないかだった。地面が石畳というところが何よりも心配にさせていた。

 僕は今日だけで、出発目の不安から始まり成績表の件といい、カッパとの遭遇、スマホを画面から落とすという、違う意味でのホラー体験を何度経験すればいいのだろうか。

 

「全く。さっさと回収して帰りますよ」

 

 如月さんは僕の服を引っ張り無理やり連れて行こうとした。

 

「え? ちょ、ちょっと待ってよ!」

 

「何ですか! カッパはいないとさっきも言ったじゃないですか? それに、あのスマホは中田さんのものじゃないですか!」

 

「そ、そうじゃないんだよ。画面、画面、壊れているか先に確認して……」

 

「何を言っているのですか。自分でしっかりと見てください!」

 

 如月さんは鬼だった。

 嫌がっている僕を無理やり連れてスマホの元へやってきてしまった。


 心の中では割れていませんように、割れていませんように、と願っていた。そんな僕の願いが届いたのか、スマホは砂が少し付いていたくらいで画面はほぼ無傷だった。

 僕は心の中で叫んだ。本当は声に出して叫びたかったけど、夜だということもあって心の中だけで叫んだ。

 

「中田さん……」

 

 心の中で歓喜に沸く僕に如月さんは突然話しかけてきたのだった。


「ど、どうしたの?」

 

「無理やり連れてきたのは申し訳ありません。ですが、どうしても皆さんには聞かれたくない話があったので……」

 

 如月さんは神妙な面持ちをしていた。

 

「カッパのことは他言無用でお願いします。ここで噂が立つのは避けたいので……」

 

 如月さんは、それだけ言ってみんなに合流した。

 僕は如月さんの言葉を考えた。

 如月さんとしては何かしらの思い出があるこの場所を守りたいと言ったとこだろうか。ここのお寺はお爺さんの土地だと言っていたから、もしかして元気な時はこっちに住んでいて、病気か亡くなったかで境内の手入れが困難になり変わりに如月さんが手入れをたまにしているってとこだろう。だからわざわざこんな時期に肝試しなんて。肝試し自体も、僕をわざわざ連れ出したのも全ては、寺を整備させるため。

 如月さんもそうと言ってくれればみんなも手伝ってくれそうなのに。如月さんも意固地だな。でも、優しい如月の一面に触れられた気がした。

 僕もここで会心し、カッパなどいなかったと言いふらすことを決心した。

 

「皆さん。これで肝試し大会は終了とします。それでは、コテージに帰りましょうか」

 

 またしても如月さんを先頭に僕らは来た道を帰っていった。

 帰る途中の沈下橋で如月さんは立ち止まった。

 

「そう言えば、ここの橋は夜になると白い服を着た女の幽霊が出るそうですよ。現に今出てませんし全くもってつまらないですよね」

 

 如月さんは笑い話にしていたが、今日一番で怖い話だった。そんな如月さんの話を聞きながら、時々背後を気にしながら僕らはコテージに帰った。

 ようやく天体観測の時間が来たのだと思ったが、その前にお風呂らしい。

 ここ美里キャンプ場の近くにはサービスエリアがあり、そこで温泉に入れるそうだ。但し、そこまでは徒歩での移動で、移動時間は十分らしい。行きは汗をかきながら向かうとしても、帰りはせっかく温泉に入った体で汗をかきたくない。だが、まだ天体観測も終わってないからそれは諦めるしかない。

 肝試しで疲れた男子三人は黙々と体を洗い湯船に浸かり、風呂を出た。

 予想はしていたが、女子は誰一人出てきていなかった。だから、三人で紙パックのミルクコーヒーを自動販売機で買い、話をしながら飲んだ。話と言ってもカッパについてだけど。

 

「あれは絶対にカッパだったよね?」

 

 中村君は僕に問いかけていた。

 

「信じてないわけやないけど、ほんまにおったんかいな? 見たんやって二人だけやろ? ずっとあの辺におった如月さんが見てないんが不自然やないで?」


 岡澤君は中村君に喧嘩を売るように疑問を口に出した。

 

「それはそうかもしれないけど、僕が見たのは絶対にカッパだった。岡澤君も見られれば絶対に信じられたのに」

 

「俺も、見えるなら見たかったわ。カッパやほこら辺にほいほいおるもんやないし」

 

 二人が話しているとこ悪いが、如月さんがああ言っていたことを伝えよう。あんな顔の如月さんはもう見たくないから。

 

「そのことについてだけど、如月さんが噂を大きくしたくないって言っていたから、ここまでにしよう。如月さんに怒られたくもないし……」

 

 僕の中では後者の方が圧倒的に理由としては大きかった。

 

「そ、それはそうやな……如月さんは怒らせたら怖そうやけんやめとこか」


岡澤君も同じ気持ちだったようだ。

 

「き、如月さんがそう言うなら仕方ないかな……僕は何も見なかったことにするよ」

 

 如月さんこれであのお寺は守られたよ。カッパの伝説は闇に葬り去られたよ。

 僕が完全に安心していたところで如月さんは突然現れた。それも、背後から、肩を全力で掴みながらだ。

 

「如月さん! 痛いって!」

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