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出会いの形は最悪だ 2

 そんなことなら、もう少し椅子に座らせてくれてもよかったのに。中学卒業してから、一度たりとも運動をしていない僕にとって、立ち続けることは酷でしかない。それと、周りの人間を誰一人として知らない。話なせる雰囲気ではないけど、静かすぎる空気感に耐えられそうにない。

 そうやって、頭の中で文句を言っているうちに体育館の準備は整ったのか三組の列が前へ進み始めた。四組の僕らもその後に続くように前へ進んだ。

 ただの対面式なのに、なぜか体育館に近づくにつれて、心臓の音が大きく鳴っていた。周りの人に気付かれないように、小さく深呼吸をしたが、そう簡単に収まるものではなかった。幸いにも体育館に入る前に集団が停止して、息を整える時間ができたから、小さな深呼吸を気付かれないようにたくさん行った。一時は収まっていたけど、集団が再び動き出すと心臓の音はうるさく僕の胸で響いていた。ただの対面式。ただの対面式だ。と、頭の中で言い聞かせていても、何も変わらなかった。だからもう諦めて、爆音の心臓を抱えながら誘導された席へと座った。一組から六組までの新入生が全員座ったところで、司会者である生徒会長が話し始めるが、僕にはその話を聞く余裕なんてものはなかった。爆音の心臓がどうしても鳴り止まなくて、最終手段である目を瞑って鼻だけで深呼吸をしていた。

 そんな、意識が別のところに向いていた僕でさえ、目を見開いて脳裏に焼き付けたくなるような透き通った声で、スピーチを行っていた一人の少女がいた。その少女は、品行方正、容姿端麗、そんな言葉が似合う雰囲気で、真っ直ぐ前を向くその視線には、かっこよささえも覚えた。でも、会ったこともないのに、どこか見覚えのある顔だった。さっきまで必死に心臓の音を抑えようとしていた僕だったが、心臓の音よりもスピーチをしている少女のことで頭がいっぱいだった。スピーチが終盤に差し掛かったところで、考えることを一旦止めてスピーチに耳を傾けた。

 何でそんなことをするかって? そんなの決まっている。彼女の名前を知るためだ。こうゆう新入生代表の挨拶は大抵最後に名前を読み上げる。それを聞き逃すわけにはいかないからね。それと一つ言っておく、決してやましいことを考えているのではなく、名前を聞けばもしかしたら思い出すかもしれないからね。そう決してやましいことではない。

 

「……以上をもちまして、新入生代表の挨拶とさせていただきます。新入生代表、山河内碧」

 

 周りを見渡せばちらほらと、前のめりで口が開いている男子がいた。喝采の拍手の傍ら彼女の名前を脳内リピートさせた男子生徒は、僕以外にも多くいたようだ。

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