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フェイタリズム  作者: 倉木元貴


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合同親睦会 16

 如月さんの仕掛けその一は、壊れかけの狛犬を越えてすぐのところにある。綺麗に並べられた石畳、そのうちの一つの石が踏めば動くと言うもの。大胆にではなく揺れる程度。そこまで怖さはないのだが、山河内さんは狛犬を越えるよりも先に悲鳴をあげた。

 

「い、いい、今、草むらががさって動いた」

 

「へ、蛇か何かいたんじゃないかな……」

 

「そ、それはそれで怖いね……」

 

 とにかく気まずかった。フォローの仕方が見つからなくて。僕ができる最大限のフォローがこれだ。それに山河内さんが僕の横腹あたりの服をずっと掴んでいて歩きずらい。

 山河内さんは如月さんの仕掛けではないところで驚くし、狛犬の石の仕掛けは踏ませると大事故が起きる予感しかしない。

 山河内さんにはバレないように、少し先を歩く僕が山河内さんだけを石畳の道から逸れるように右へ右へ寄った。そんな僕は普段より大きな歩幅で歩き、仕掛けを越えようとしたが、如月さんはそれを見越してか着地地点にも動く石を用意していた。

 ただでさえバランスの悪い体勢に、引っ張られるように持たれた服、足場が急に動けば僕には転ぶことしかできなかった。

 

「だ、大丈夫?」

 

「大丈夫、大丈夫。多分これも如月さんの仕掛けだよ。石が少し動いただけだから」

 

 僕が見た限りでは一つしか用意してなかったのにいつの間に二つ目を用意していたんだ。おかげで恥をかいた。

 

「もう、歌恋ってば! そんな危ない仕掛けを用意していたの? 帰ったら説教だね!」

 

 こんなことで落ち着きを取り戻したのか、言い方がいつもの山河内さんに戻っていた。

 そのせいで一人先に突き進もうとしていた。もちろん僕はそれを止めた。

 

「山河内さん、ちょっと待って!」

 

「え? どうして?」

 

 まずいことをしてしまった。急に進むのを止められては怪しい。それっぽい言い訳は僕の中で一つしか思い浮かばなかった。

 

「えーっと。ぼ、僕が先に行くから後ろからついて来て。こういうの苦手なんでしょ」

 

 これじゃあ怪しまれたのか、山河内さんは僕の方をじっと見つめていた。

 僕は見つめられて照れて山河内さんから目を逸らした。

 

「うん! ありがとう!」

 

 どうやら怪しまれたわけではなかったようだ。

 だが問題はここからなのだ。

 狛犬の動く石を越えればこの先に待ち受けているのは上から落ちてくるこんにゃくなのだ。そんなもの山河内さんに浴びせるわけにはいかない。だから僕は先頭を申し出たのだけど、ばれませんように。

 心の中でそう願いながら僕は顔面にこんにゃくを受けた。

 

「だ、大丈夫?」

 

「大丈夫だよ……」

 

 如月さんからはこんにゃくが落ちてくると言うことしか聞いていなかったから、まさか一キロくらいある巨大なこんにゃくが落ちてくるなんて思ってもいなかった。

 でもそれも当然と言えば当然か。普通のスーパーなどで売っている二、三百グラムのこんにゃくでは本当に当たるのかわからないもんな。と言うか何故、人に当てる前提なんだ、如月さん。

 僕の思考はこれくらいにして、これからの仕掛けを説明しよう。

 ここから先は、中村君がカッパを見たという川が見えるエリア。そこには女の人の呻き声が聞こえるスピーカーが設置されている。

 知っている僕は何も怖くはないが、何も知らない山河内さんには恐怖しかないだろう。だけど、こればかりは耳を塞ぐことなんてできないし、聞いてもらうしかない。

 

「い、いい、い、今、声がしたよ……」

 

 予想していたより随分と小さな音量だったけど、山河内さんはしっかりと叫び声をあげ驚いていた。

 

「こ、これもきっと、如月さんの仕掛けだよ……」

 

 知っている僕はこれくらいのことしか言えなかった。

 だか、問題があるのはここからなのだ。


 ここまではまだ序の口。ここから本堂までの約二十メートルには、如月さんの仕掛けは何もない。それは、エンターテイナー如月としての自信作らしく、何もなかったと安心したところで脅かしにかかるという卑劣なものだった。

 だがそれは、如月さんが草むらから突然出てくるというものだから、知っていればそんなに怖さはない。でもあの山河内さんだ、僕が思う限りでは草むらが揺れただけであんなに驚く山河内さんには耐えられないと思った。

 だから僕は、如月さんがいつ出て来ても大丈夫なようにずっと気を張っていたのが、本堂の前に着いても、裏手に回ってお札を剥がしても、境内から出ても如月さんは出てこなかった。と言うことは、ここから約二十メートルの何も仕掛けのないところがいちばん怪しい。が、ここでも如月さんは出てこず、女の人の呻き声が聞こえるスピーカーのところにたどり着いた。

 山河内さんは相変わらず呻き声に驚き悲鳴をあげていた。

 僕らはさらに進んで、もうゴールまで少しのところまで来ていた。ここから先はこんにゃくと石だけ、こんにゃくはもう下ろされているからここに仕掛けはもうない。何かあるとするなら如月さんが出てくるくらい。だが、如月さんは出てこなかった。ここまで来ればもはやゴールだと思った瞬間だった。僕が作った雑草の山から如月さんと堺さんが出て来たのだった。

 山河内さんは今日一番の悲鳴をあげた。それも僕の耳元で。おかげで僕の耳はキーンと音がしていた。

 

「はははっ! 驚きましたか碧ちゃん」

 

「碧ちゃん、本当に怖いのが苦手なんだね」

 

 如月さんも堺さんも見て見ぬふりをして談笑しているが、僕はこの状況をどうにかして欲しかった。

 山河内さんは悲鳴をあげると共に怖さで僕に抱きついて来ていたのだ。

 そりゃあ、女子に抱きつかれて嬉しくない男子なんていない。しかもそれがこんな可愛い山河内さんなら尚更だ。だけど、それは時と場合による。全力で抱きつかれたら女子でもまあまあ痛い。それに、僕は抱きつかれたことに驚いて両手をあげたままのなのだ。腕が限界を迎える前にこの手を下ろしたいのだ。

 いっそのことこの上げている手を下ろしてしまって山河内さんを抱きしめたいが、まだギリギリまともな理性がそれを止めていた。

 

「あ、あの……山河内さん……そろそろ……離れてもらっても……」

 

「あ! ご、ごめんなさい……」

 

 気まずい。とにかく気まずかった。

 山河内さんに抱きつかれて嬉しい僕が、何故離れるように言ったのかと言うと、腕の限界よりも先に下半身に限界が来たからである。これだけはどうしても我慢できなかった。

 

「あ、中田さん。木に巻いているスピーカーを取って来てもらってもいいですか?」

 

 如月さんは堺さんと共に山河内さんに肩を貸し、僕は半強制的に一人でスピーカーを取りに行くことになった。

 如月さんも人使いが荒い。何故、わざわざ僕なんかに。と言うか、仕掛けの位置を知っているのは、如月さんと僕だけだった。そうとなればそれは当然の結果だった。

 スピーカーを取りに行ってわかった。このスピーカーセンサーが付いていた。だから僕が近づく度に女の人の呻き声がしていた。そして、スイッチの切り方がわからないから、僕の手元でずっと女の人の呻き声がしていた。

 ここより先の本堂までには何の仕掛けもしていないし、掃除をしただけだったから何もないよなと思いつつ、本堂に背を向けて歩き出そうとすると、川から大きな水音が聞こえたのだった。

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