合同親睦会 14
あとは任せた。と言葉にしたかったけど、如月さんに何を言われるわからないから、無言で炭用のトングを手渡した。それを何食わぬ顔で受け取り説明を始めた。
「このように強火の所は何箇所かに火を付けて仕上がりを早くします。中火と弱火のところは昼食時と同じような感じで大丈夫ですよ」
こうして火が付け終わったところで、どこかの店の店主、岡澤君が食材と共に登場した。
「待たせたな! よっしゃー! 焼いていくで!」
相変わらず頭に巻いたタオルがよく似合っている。将来本当にお店を持ったら、頑固親父として雑誌にでも載りそうな雰囲気だ。
そんな岡澤君が、肉用のトングを一人占領し、鍋奉行ではなくバーベキュー奉行を務めた。
バーベキュー奉行なんて変な言葉だけど、僕の脳内辞書では、奉行を英語変換できないからそこだけは勘弁。
楽しい夕食の時間はあっという間で、食べ始めたと思えばもう後片付けをしていた。後片付けといっても、食器類は使い捨てで、バーベキューコンロの炭もまだ熱いからと水をかけてそのままにしていた。これは明日の朝片付けるそうだ。
片付けが大方終わったところで如月さんからサプライズ発表があった。
もちろんそれは僕の知っているあれだ。
「みなさん。よく聞いてください。この片付けが終わった後は、近くのお寺で肝試し大会をしようと思います。はい拍手」
拍手をしたのは僕だけだった。誰も拍手をしないから、僕も三回で止めた。
「か、歌恋。なんの冗談よ」
山河内さんがあからさまに動揺していた。
「冗談なんかじゃありませんよ。本気ですよ。だってキャンプと言えば、バーベキューと肝試しが定石じゃないですか」
「そ、そんなことないよ。バーベキューだけで十分だよ」
「そんなに怯えなくても。脅かし役は私が務めるので安心じゃないですか?」
「なにも安心できないよ。ねえ、歌恋。肝試しなんかやめてみんなで勉強しない?」
「勉強道具を持ってきていない人が一名は確実にいるので無理ですね」
如月さんはこの時のために僕に成績表の話をしなかったのか。あの時如月さんに問えばよかったと後悔した。
「それなら大丈夫だよ。私たくさん持ってきているから。筆記用具もたくさんあるから大丈夫だよ」
山河内さんも諦めない。
あの手この手で必死に肝試しを阻止しようとしていた。だけど、如月さんもどうしても連れ出したいようで、二人の攻防戦は続いていた。
「わかりました。では、私たちは肝試しに行くので、碧ちゃんは一人でこのコテージで勉強しててください、“一人で”」
軍配は如月さんに上がった。
「分かった! 私も行くから、一人にはしないで!」
必死に如月さんにしがみつく山河内さんを見ながら如月さんは、勝利を確信した笑みを浮かべていた。
本当、如月さんも性格が悪い。それに、最初から山河内さんがこうなることが分かっていて全てを計画しているのだから、性格悪いにプラスして恐ろしい先見の明。改めて思い知らされるよ、気に障ることがあれば厄介だと言うことが。触らぬ神に祟りなしとはこの時に使うためにある言葉のようだ。
まあ、如月さんの場合は、“触らぬ”ではなく“障らぬ”の方が表現として正しい。如月さんに触れれば、死に近い恐ろしいことが起こると思うんだ。だから、気に障るの漢字が適してると思う。本人には疎か他の誰にもそんなことは言えないけど。
僕の妄想はこれくらいにして、如月さんが用意した簡素な作りのくじ引きを如月さん以外のメンバーで引いた。
如月さんが言った通り、僕は山河内さんとペアになった。他のペアはこうだ。岡澤くんが、相澤さんと。中村君は堺さんと。
岡澤君も中村君も二人とも気まずそうな顔をしていた。岡澤君は特に中村君を変われと言いたいのか、睨むような視線を送っていた。
「それでは早速行きましょう!」
如月さんに連れられて僕らはコテージを後にした。如月さんを除くメンバーの中で、僕だけは行き先を知っているから、如月さんより先に歩かないように一番最後を歩いた。そして、昼間に通った時と同じ裏手の川の沈下橋を渡り、僕らが草を刈った寺の入り口まで来た。
「では、ここで改めてルールをご説明致します。男女のペアになってもらい、この先にあるお寺の本堂の裏にあるお札を一枚剥がして帰ってきてください。次のペアは前のペアが帰ってきてから出発してください。何か訊きたいことはりますか?」
体を震わしながら山河内さんが手を挙げた。
「はい、碧ちゃん」
「やっぱり帰ろうよ……」
「ここまで来て、まだそんなことを言っているのですか。碧ちゃん申し訳ないのですが、諦めてください。では、脅かしやくの私はもう行きます」
如月さんは、これ以上の追求をはぐらかせるために暗闇へと駆けていった。
残されたメンバーで、誰が何番に行くかが議論になり、結果をじゃんけんで決めると言う話になった。男子三人が代表でじゃんけんをした結果、中村君が一番に負け、次に僕が負けた。勝った岡澤君はもちろん。
「しゃー! 二番や!」
一番安定しているところを取った。
次は僕の番だ。残るは一番か最後か。一番にして先に終わらせておくがいいか、最後にして情報を集めるのがいいか。
悩みに悩んだ末、僕は最後を選んだ。
「じゃあ、最後で」
「え! な、なんで。先に終わらせようよ」
山河内さんならそう言うと思った。なんなら少し前の僕も同じことを思っていた。だが相手は如月さんだ。僕に偽の情報を掴ませている可能性だってある。少しでも情報を集めなければ、本気で驚かされることになる。これは山河内さんにダサい姿を見せたくないとかそんなことではない。驚くか驚かないか、僕と如月さんの戦いなのだ。
僕は山河内さんを説得させるべく、情報を集めると言うことを小声で伝えた。
「やっぱり最後でいい」
山河内さんは納得し、僕らは最後になった。
「じゃあ、僕らが一番か」
「そうだね。よろしくね!」
中村君も、この肝試しには初めから乗り気ではなくて、不安そうな顔を浮かべていた。
僕だって、もしトラップの位置を事前に聞いていなかったら同じ顔をしていただろう。だが、トラップの位置を知っているからといって安心はできない。何故なら、如月さんの行動は読めないのだから。
「じゃ、じゃあ、行ってくるよ」
「行ってきます」
「行ってらっしゃい……気をつけてね……」
「何でまだ順番じゃないのに碧ちゃんがそんなに緊張しているの」
「あ……ごめん……」
「大丈夫だよ。おかげで緊張がほぐれたよ。じゃあ、今度こそ本当に行ってきます」
堺さんと中村君はスマホの灯りを頼りに暗闇へと歩いて行った。




