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フェイタリズム  作者: 倉木元貴


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合同親睦会 12

 僕は如月さんに連れられ美里キャンプ場の外に出た。

 言い方的に買い出しのようだったけど、如月さんは何故か大きなリュックサックを背負っていた。

 

「如月さんどこまで行くの?」

 

 如月さんはため息を吐いた。

 

「相変わらず物分かりが悪いですね。私が中田さんを連れて行くところなんて一つしかないと思いますよ」

 

 そんなことを言われても、どこに行くのかどれだけ考えても見当がつかなかった。だから、僕は如月さんについて行くことしかできなかった。

 美里キャンプ場を出て如月さんと歩くこと二百メートルくらい。裏手の川の沈下橋を渡り森への入り口のようなところへ連れてこられた。正確には、草木が生い茂り、手入れがされていない荒れた場所。

 僕の人生はここで終わるのか。と感慨深い気持ちになっていたが、如月さんはこう言った。

 

「ここは夜の肝試しの会場ですよ」

 

 ここは、肝試しの会場だった。

 だがおかしい。流石の僕もそれには騙されない。如月さんは使われていない“寺”と言っていた。が、ひっそりと隠れているが半壊した狛犬が草木の間から顔を出している。普通、寺には狛犬はいない。狛犬がいるのは神社だ。ここは本当に肝試しの会場なのか。

 恐る恐るではあるが僕は如月さんに訊いた。

 

「き、如月さん。使われていない“寺”じゃなかったの?」

 

 如月さんは僕を睨んでいた。

 

「そんなことはよく知っていますね。その労力を別のところで使うことはできませんか。単に神社と寺が隣接しているだけですよ。お寺はもう使われなくなっていますが、神社はまだ使われているのでそのように表現したまでです。まあ、神社も人はいないので使われていないも同然ですけど」

 

「そうだったんんだ。でも勝手に肝試しなんかやって大丈夫なの?」

 

「大丈夫ですよ。中田さんさえ黙っていれば誰にもバレませんよ……なんて冗談はさて置いて、この辺一体は私の祖父が管理しているので、もちろん許可も取っていますよ」

 

「そうなんだよかった……」

 

「よかった」なんて言葉が心から漏れたが、何もよくない。ここはさっきも言ったが、草木が生い茂る荒地だ。獣道がせいぜいあるかくらいのこんな場所で、肝試しなんてできるわけがない。夜に草むらの中など誰も歩きたくない。そう考えれば、何故僕を連れてきたのか分かった。単なる掃除の手伝い。悲しいが、その可能性しか考えられない。

 

「こんな場所で肝試しをするの?」

 

 返ってくる言葉は想像できたけど、そうじゃない僅かな可能性に賭けてそう訊いた。

 

「ええ。見ての通り荒れているので、今から掃除をします。そんなに嫌な顔をしなくても。安心してください。こんなこともあろうかと草刈機を借りてきたので、中田さんは草を集めるでけですよ」

 

 大体僕の想像通りの言葉が返ってきた。

 まあ、草を集めるくらいなら、難しくもないしできないこともないかな。てっきり手で草むしりをするのかと思っていたからよかった。

 でも問題はどこまでするのかだ。お寺の本堂は、草木に隠されてここからじゃ見えない。果たしてこの草刈りは時間内に終わるのか。もし終わらなかったときはどうするつもりなのだろう。まあ、本心では肝試しはしたくないから無くなってくれるならそれはそれでいい。山河内さんも苦手らしいいしね。

 そういえば草は集めてどうするんだ?

 

「如月さん。僕が草を集めるのは分かったけど、その集めた草はどうするの?」

 

「草を刈るのは私の正面百メートル以内にあるお寺の本堂までです。ですから、その右手に見える雑木林にでも捨ててください」

 

「それは大丈夫なの? その……犯罪とか」

 

「私の家族の土地ですし、そこに何を捨てようが私たちの勝手ですよ。という冗談は置いといて、本当に雑木林に捨ててくれて構いませんよ。草であれば微生物が分解して土に変えてくれるので。気にせず捨ててください」


 信用はできないけど、如月さんがそう言うならいいんだよな。

 と考えながら、リュックサックからゴーグルを取り出して目元に付けている如月さんを見つめていた。如月さん曰く、草刈機を使っている近くは危険なので、ある程度草を刈ってから僕が回収をするとよいそうだ。

 如月さんは、草むらに初めから仕込んでいた草刈機を手に草を刈り始めた。

 まずは右の狛犬の辺りの草を刈り始めて、左に移行する前に僕に回収の合図を出した。

 如月さんが刈った草を集めながら、ふと如月さんってどこかのお嬢様なのかなと考えていたら、突然機会を止めた如月さんに話しかけられた。

 

「中田さん」

 

「は、はい……」

 

 突然のことで何故か敬語で返事をしていた。

 

「何で敬語ですか?」

 

「きゅ、急に呼ぶからつい……」

 

「まあ何だっていいですよ。それより、スマホの充電がないのでしたよね。私のモバイルバッテリーをお貸ししますので、それで充電してください」

 

 そう言って如月さんは、リュックサックの中から赤いモバイルバッテリーとスマホの充電器を取り出し、僕に手渡してくれた。

 

「ありがとう。助かるよ」

 

「そんなことくらい、いいですよ。中田さんは、モバイルバッテリーは持っているのですか?」

 

「家にはあるんだけど、ほとんど使っていないから持ってくるという発想に至らなかった」

 

「たくさん使うことは想定しなかったのですか?」

 

「ここまで減りが早いと思っていなかった」

 

「普段から室内でしか使わなければそうなりますよ。もっと外に出るべきですよ」

 

 如月さんは毎回嫌味の一つでも言わないと気が済まないのか。僕が外に出なくなった理由は知っているはずなのに。

 

「中田さん?」

 

「何?」

 

 流石にこの短時間で、また突然話しかけられても、もう敬語にはならない。

 見たか如月さん。僕だって成長はするんだ。

 この時の僕は、自信に満ち溢れた顔を浮かべていただろう。そんな自信を叩き壊すような質問を如月さんにされた。

 

「春の大三角を形成する星の名前と星座名前は言えますか?」

 

 草集めをしていて体を存分に動かしているというのに、僕は寒さを感じていた。

 

「そ、その……覚えようとは思ったよ。汽車の中じゃずっとそのことばかり脳内でリピートさせて、バスに乗った時までは覚えていたんだ……でも気がついたら頭から抜けていた」

 

 如月さんは深くため息を吐いた。

 

「やっぱりそんなことだと思いましたよ。そんな言い訳しなくても、別に責めたりはしませんよ」

 

「ご、ごめん……」

 

「何で謝るのですか?」

 

「何となく……」

 

 如月さんは、またため息を深く吐いた。

 

「さっき言った通り、私は責めるつもりなんてさらさらありません。でも、私が言い出したことなので、責任は取ります。私が口頭で言っていくのでそれで覚えてください」

 

「ありがとう。そうしてもらえると助かる」

 

 そんなわけで、如月さんによる春の大三角、春の大曲線に関する授業が始まった。

 

「まずは春の大三角からです。おとめ座、スピカ」

 

「おとめ座、スピカ」

 

「しし座、デネボラ」

 

「しし座、デネボラ」

 

「うしかい座、アークトゥルス」

 

「うしかい座、アークトゥルス」

 

「次は春の大曲線です。おおくま座、北斗七星」

 

「おおくま座、北斗七星」

 

「うしかい座、アークトゥルス」


「うしかい座、アークトゥルス」

 

「おとめ座、スピカ」


「おとめ座、スピカ」


「からす座……」

 

「からす座」

 

「覚えましたか。ではここで問題です。春の大三角の一つ、しし座の星の名前は何ですか?」

 

「えーっと、確か……デネブのような名前のやつ……何だっけ?」

 

「デネボラです。ではもう一問。春の大曲線は何座から何座までですか?」

 

「それは覚えた。おおくま座からからす座」

 

「正解です。この調子でどんどん正解していってください」

 

 こんな感じで、如月さんが問題を出しては僕が答え、何度も何度もランダムに問題を出していた。

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