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フェイタリズム  作者: 倉木元貴


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合同親睦会 11

 ジュースを飲み終えて、如月さんは移動を申し出た。

 

「そろそろいい時間なので、コテージの方へ行きますか」

 

 それに反対するものはもちろんおらず、荷物を纏めて最初に寄った管理棟までまた歩いた。

 

「私はまた受付してくるので、みなさんはここで少々お待ちください」

 

 僕らはまた管理棟の前で待たされた。さっき来たときはみんなで案内図を真剣に見ていたけど、もう案内図を見てる人はいなかった。その代わりと言ってなんだが、山河内さんが天体観測について意気込みを語っていた。

 

「今日は絶好の天気だし、このまま晴れが続けば 満点の星空が見えるはずだよ。荷物の関係で大きな望遠鏡は持ってこられなかったけど、目視できる春の大三角や見られる惑星を見て存分に楽しもうね!」

 

 なるほど。如月さんは最初からそれが目的だったのか。

 せっかくあんな分かりやすい画像をもらったのに、それを活かせず如月さんには申し訳ない気持ちになっていた。

 そんなことを考えているタイミングで如月さんは戻ってきた。

 

「鍵を預かりましたので、コテージに向いましょう」

 

 如月さんは先頭を歩き、僕らは二階建てのコテージの前にやってきた。

 

「炭の箱と椅子、テーブルは外に置いて、あとの荷物は中にお願いします」

 

 言われた通り炭の箱と椅子、テーブルは外に置き、それ以外の荷物と共に僕らもコテージの中に入った。

 ある程度荷物を整理したところで、如月さんに自分の荷物を持ってリビングに来るようお達しがあった。

 リビングに集められた僕らは、テレビの前にサークルを作って床に座った。

 

「みなさん。言っていたあれは持ってきましたか?」

 

「もちろん!」

 

「恥ずかしながらやけど持って参りました」

 

 僕以外のみんなは何かを持ってきたようだけど、僕だけはその情報を知らない。如月さんの言う「あれ」が何を指しているのか全くわからなかった。訊いてみたいけど、この空気じゃ僕には訊けない。

 ここは推理でもして導き出してみよう。

 まず、如月さんが言う「あれ」とは言い方的に全員が持っているもの。もしこのキャンプに絶対的に必要なみんなで使えるものなら如月さんが持っていってくれていたはず。そのおかげで僕はこんな普通のリュックサックで今回の荷物が纏まっているのだ。ちなみに、僕のリュックサックには、二日分の服と下着とスマホの充電器、財布、ビニール袋、あと遊ぶかわからないけどトランプ、それくらいしか入っていない。如月さんからの事前のメッセージも、それくらいしか必要物品は書かれていなかった。如月さんの言い方的にも私物は確定。でもそれ以上の情報はわからない。

 こ、今度はみんなの反応から。如月さんはワクワクしているような顔を浮かべている。山河内さんは自信に満ち溢れている顔。逆に岡澤君は自信がないような顔。中村君は不安そうなと言うのが一番しっくり来るような顔。堺さんと相澤さんは、何を考えているのかはわからない顔。

 頭脳明晰で運動神経も抜群な山河内さんが自信のあるものは数えきれないほどある。岡澤君が自身のないものといえば勉強。だけど、それなら中村君が不安そうにしているのが引っかかる。中村君は勉強が苦手ではなかったはずだ。新入生テストもそこそこの順位だった記憶がある。そんな中村君に苦手意識があるのは多分だけど運動。水切りの対決も岡澤君にさえ届いていなかったようだから。だけど、今は室内。できる運動なんて限られている。それに、運動器具なんてみんながみんな持っているとも限らないし、重たくて移動が大変物が多い。となればやはり勉強なのか。そうか、勉強道具。中村君は筆記用具でも忘れてきて不安な表情を……。

 その推理には根本的な間違いがあった。


 そういえば、岡澤君は「恥ずかしながら」そう言っていた。勉強道具を持って来るのが恥ずかしい行為のわけない。もし、岡澤君が勉強道具を遊びの場に持ってくるのを恥ずかしいと思っているのなら、今頃如月さんに「何が恥ずかしいのですか?」なんて問い詰められているに違いない。だが、如月さんはそうはしなかった。ということはつまり勉強道具ではないと言うこと。

 じゃあ、一体何なのか?

 僕の疑問は深まるばかりだったが、如月さんが取り出したA4用紙の長い方を平行に切ったサイズの紙を見た瞬間に何かがわかった。それは、この間のテストの成績表だった。

 

「あれ? 中田さんはどうしたのですか?」

 

 気づかれないようにやり過ごそうとしたがさすが如月さんだ。

 

「ごめん忘れてきてしまった」

 

「もう、何しているのですか。忘れてきてしまったのなら仕方ないですね。中田さんだけ口頭で順位の発表をお願いします」

 

 罰ゲームのようだけど、みんなの順位も見れるならいいかと思い、如月さんの合図に合わせて僕だけ口頭で順位を発表した。

 

「七十五位」

 

 一人何を言っているんだと悔しい気持ちになり、全員の成績表を凝視した。

 それを見て改めて思った。僕の口頭発表は単なる罰ゲームだった。

 山河内さんは、安定の学年一位。続いて堺さんは、学年三位。相澤さんは、学年四位。如月さんは、学年十位。対して男子はボロボロだった。

 中村君が学年三十五位と健闘はしたものの、女子の平均には足元にも及んでいなかった。岡澤君は、言ってあげるのが可哀想だけど、僕より下の八十六位だった。男子の平均は、約六十五位。対して女子の平均は四・五位。圧倒的実力差に男子は完全に萎縮してしまっていた。僕も衝撃的すぎて、開いた口が閉じなかった。

 そんな中、女子は僕達と違ってレベルの高い話をしていた。

 

「私が四位に転落したのは堺さんのせいだったのか。今までは二位しか取ったことなかったのに」

 

「それを言うなら私だって、今まで一位しか取ったことなかったのに。碧ちゃんはやっぱりすごいね」

 

「二人ともいいじゃないですか。私なんて二桁て転落ですよ。こんんなの初めてですよ。やはり高校というのは頭のいい人が集まるのですね」

 

「こんな近くにライバルがいるなんて、今以上に頑張らないといけないじゃん」

 

 僕の目には四人の会話が貴族の会話のように映っていた。

  

「俺ら来るとこ間違えたみたいやな」

 

「今回のテストはそんなにできは悪くなかったのに……」

 

「今回はしかないよ。あの四人にはどう頑張ったって敵わないよ」

 

 肩身の狭い男子は会話に入ることなどもちろんできず、小声でお互いのことを慰め合った。

 

「ああ、そうだ。これから夕食の前の時間までは自由時間にしようと思っていますので、このコテージで過ごすもよし、外に出て辺りを散策するもよしです。私は少し用事があるので外出しますが、みなさんは自由に過ごしてください」

 

 如月さんのその言葉に、僕は心の中でガッツポーズをしたが、次の如月さんの言葉に僕は落胆した。

 

「中田さんは荷物持ちとして私に付いてきてください」

 

 この言葉のせいで、僕の計画は破綻した。

 こうなれば諦めて、何もわからないまま本番を迎えるしかない。頭のいい山河内さんは、春の大三角も春の大曲線も全部知っているはずだから、僕がそれを覚えたところで意味はないと言い聞かせながら。

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