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フェイタリズム  作者: 倉木元貴


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29/99

合同親睦会 6

「歌恋は、そんなに私に昔のこと知られるの嫌?」

 

「恥ずかしいので、嫌ですね」

 

 如月さんは即答だった。

 だが、ここで簡単に折れないのが山河内さんだった。変に粘り強いところをみせていた。

 

「そんなこと言われたら余計に気になるな」

 

「大丈夫ですよ。何があっても絶対に! 会わせたりしないので」

 

「今日の歌恋、ほんとケチ」

 

「ケチではありません。個人情報保護の観点からです」

 

 楽しく会話をしている二人にまた水を差すように、如月さんにメッセージを送った。如月さんのスマホが音を立て、如月さんが画面を確認している横で、如月さんのスマホを覗き込む山河内さんの姿がそこにはあった。

 

「またラントさんからメッセージが来たよ」

 

「見ないでください。盗み見とは碧ちゃんも性格悪いですね。そんな子に育てた覚えはありませんよ」

 

 これで疑惑はほぼ確信に変わった。如月さんは僕を“ラント・フェルト“とか言う変わった名前で登録している。ただ、その変わった名前のお陰で、山河内さんに僕と如月さんがやりとりしていることはバレていない。山河内さんに見られることも考慮して、僕の名前を変えておくとはさすが如月さんだ。

 僕もそれを見習おうかと如月さんの渾名を考えていたが、いい渾名を思いつく前に、如月さんにもしこのトーク画面を見られた時のことを考えると名前を変えることなんてできなかった。

 スマホを開いている手前、何か別のことをしようと思い、検索画面を開いて“ラントフェルト”の名前の由来について調べた。まずは、そのまま打ち込んでみた。すると出て来たのは、裁縫で使うフェルト生地だった。今度は分けて調べると可能性のありそうなものが見つかった。ラントと言うのはどうやらドイツ語のようで。州や国、田舎や陸、農地なんて意味もあるらしい。続いてフェルトもドイツ語で調べた。意味としては、英語のフィールドと同じ意味になるらしい。中学時代陸上部の僕にとっては馴染み深い言葉だ。だから、深く読まずとも何となく意味は分かった、ただ、調べて結局如月さんが何でこんな名前にしたのかは想像もつかなかった。実は由来などなく如月さんが知っている言葉をただつなぎ合わせてだけどと言う説が僕の中で一番有力視されていた。

 また二人きりになった時にでも如月さんに訊いててみようと思っている間に、汽車は発車した。

 この短いようで長い発車までの十五分の間にコキ使ったスマホの充電はさらに減って、半分にまでなっていた。

 皆それぞれ、本を読んだり、音楽を聴いたり、スマホを眺めていたりと、二時間の暇つぶしをしていたが、スマホを触れない僕は窓から外の景色を眺めることしかできなかった。そんな僕の元にまたしてもメッセージが届いた。


(今日の作戦を長文で送るのでよく読んでおいてください。)

 

(ごめん)

(スマホ触りすぎて充電が二十パーセントをきりそうなんだ)

(だからよくは読めないかも)

 

 怒られるの覚悟で正直にそう送ってみた。怖いけど如月さんの方に視線を向けると、僕の方を見てため息を吐いていた。

 

(分かりました。)

(火起こしの際にこっそりお教えしますので、言葉だけで暗記してください。)

 

(ごめん。よろしく頼むよ)

 

(承りました。)

(でも二つだけ、)

(夜にはキャンプ恒例の肝試しをしようと思っています。私が細工して二人が同じペアにしますので楽しみにしていてください。)

(男女が三人ずついるので三組のペアを作ろうと考えています。余った私は脅かし役に徹します。)

(あともう一つは、肝試しが終わった後は天体観測会をする予定なので、星をできるだけ覚えてほしかったのですが、充電がないのでしたら仕方ないですね。)

(スマホのロック画面をこの画像にして、勉強してください。)

 

 如月さんからは、春の大曲線、春の大三角形と書かれた星図の画像が送られていた。

 この如月さんの文章を読んで、僕が思ったことは一つ。不安だった。如月さんが脅かし役になると言うことは鬼か蛇。どちらに転んでもいい結果になるとは到底思えなかった。最悪の悪い方へ転がらないことだけを願った。

 そんなことより僕にはやらなければならないことがあった。如月さんが送ってくれた画像を、スマホのロック画面に設定することだ。最低限これだけを覚えて何か効果があるとは思えないけど、覚えないよりはマシだ。だけど、僕と山河内さんがそんな話をできるタイミングなんてあるのだろうか。わざわざ僕と話をせずに堺さんの方が話が合うのは確実だ。それなら何故如月さんは僕にこれだけでも覚えろと? 如月さんの考えていることは本当にわからない。わからないけど、如月さんの言う通りに動けばいい方向に転がりそうな予感がするから僕は言われた通りに動く。

 結論そっちのほうが楽だし、責任も軽くなる。僕を中身のない空っぽな人間だと思うかもしれないけど、それは違う。指示する側に立つよりも指示を受ける側の方が幾分楽だ。それに、僕は指示を受ける側が似合っていると自分でも思う。だから、今もこうして春の大三角はしし座のデネボラとおとめ座のスピカ、うしかい座のアークトゥルスと頭の中で何度もリピート再生をしている。それにしても言いにくい。うしかい座のアークトゥルス。しかもこのアークトゥルス、春の大曲線でもその名を連ねている。アークトゥルスよ、お前の名は今後必ず忘れることはないだろう。

 いい暇つぶしになった暗記と外の景色をただ眺めるだけで二時間という時間は過ぎた。

 次はバスに乗り換えての移動だ。バスも同じように暗記を続けようとしたが、さすがバスだ。汽車以上に振動が激しく酔いそうになったから、スマホを見ずに外の景色ばかり眺めてた。

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