合同親睦会 4
それから少しして、女子のみんなもカレーを食べ終えてた。お会計が始まった時、僕は如月さんの会計について目を凝らし、耳を澄ませていた。注文票は如月さんが大事にずっと握っていたから確認は出来なったけど、レジの対応で大抵の場合読み上げを行う。如月さんのカレーが大盛りか大盛りじゃないかここではっきりする。と思っていたが。
「いつものだね。はい、八百六十円だよ」
白髭を生やした老人はそう言った。
結局、如月さんのカレーが大盛りか大盛りじゃないかの判定はできなかった。
僕らはそれぞれに会計を済ませて店を後にした。あの白髭の老人は、僕らの時はしっかりとメニュー名を読み上げて会計をしていた。今回は常連客となった如月さんの勝利だ。
ふと我に返って思った。僕は何をしているのだと。こんなくだらないことに何をむきになっているのだと。如月さんが何をどれだけ食べようが関係ないではないか。と思った。
そんなことはさて置き、僕ら一行は登久島駅に戻り辻駅までの切符を買い、改札を通り一番乗り場で汽車が来るのを待った。
「移動時間はここが一番長いので、他人に迷惑にならない暇つぶしを各自考えておいてください」
それを今言うのか。せめて昨日の時点で言ってくれ。と如月さんに一言言いたかったけど、遠出するのに娯楽を何も用意していなかった僕には、如月さんを責めることはできなかった。
現在の時刻は午前九時少し前。発車の時刻まで十五分もあると言うのに汽車は到着し、清掃員が中に入り汽車のなかを掃除をしていた。暇つぶしの道具がない僕には、その様子を見ることでしか時間を過ごすことしかできなかった。
その掃除は五分もしないうちに終わり、汽車の左側の扉が全て開き清掃員がこの汽車を後にした。入れ替わるように僕らはその汽車に乗り込み、二両編成の前車両、その前方の席に腰を下ろした。
汽車の発車まで残す時間は十分と少しと言うところ。ここも暇つぶしが必要だとは考えていなかった。窓から見られる景色も単調でほとんど線路か駅のホームしか見えない。あまり使いたくないけど、スマホでゲームでもしようと、スマホを開いていつもしているゲームを開いた。
側から見れば初めからそうしていればいいじゃないかと思うかもしれないけど、僕は朝からスマホを使いすぎた。謎の早起きをし、何度もスマホを開いては閉じてを繰り返し、登久島駅に来るまでにも心を落ち着かせるためにずっとゲームをして、今のスマホ残量は四十二パーセントだ。ただでさえ電池の消費が多いゲームだから屋外ではあまり使いたくなかったけど、背に腹はかえられぬ。
と、僕のスマホは突然音を発した。原因は如月さんからのメッセージだった。ゲームの画面を一度閉じ、如月さんとのトーク画面を開いた。
(今日と明日の間に碧ちゃんと距離を詰めるべく作戦を考えて来たので、できるだけ実行してください。)
(まず聞きますけど、炭を使った火おこしはやったことはありますか?)
何やら勝手に話が進んでいるようだけど、ここまで協力してくれる手前、無下にするのは心苦しい。ここまでしなくて大丈夫だよと。と如月さんに言ったら罵詈雑言の嵐になりそうだからそんなこと言えないし、でも、本人もできるだけと言っているからできるものだけを実行しよう。そう心に決めた。
(何ならキャンプは今日が初めてだから悪いけど何も知らないよ)
(一応動画を見て予習はして来たけど実践してみないことには何も言えないよ)
(分かりました。)
(できるなら一人にお任せしようと考えていましたが、できないのであれば別の役割を考えます。)
(ちなみに料理なんかはできますか?)
(ごめん料理もそんなに得意ではない)
(分かりました。)
(取り敢えず、準備と火起こしと調理の係に振り分けようと考えていましたので、もし希望するならどこがいいですか?)
(ちなみに、碧ちゃんは準備係に振り分けようと思っています。)
(今後のこと考えるなら火起こしの係に入れてもらいたい)
(それは名案ですね。)
(今後も確かにこんな機会はあると思うのでいいと思いますよ。)
(火起こしは元々私一人で担当しようと思っていたのでお手伝いお願いします)
(一から十まで全てお教えするので全て覚えて帰ってくださいね。)
(全部は無理だって)
(優しくお願いします)
「ラント・フェルトって誰とやり取りしているの、歌恋?」
僕と如月さんのやり取りに山河内さんは水を差した。と言うか、僕はラント・フェルトなのか?
「フランス人の友人です」
余計に疑われそうな嘘を如月さんは吐いた。
僕の思っていた通り、山河内さんの好奇心は謎のフランス人ラント・フェルトに向いてた。
「今の時間フランスは夜中だよね。あ、それかラントさんはこっちに住んでいるの?」
「もちろん、こちらに住んでいますよ。他県ですけどね」
「じゃあ、引っ越してくる前の友達?」
「ええ。そうですよ」
「また今度会わせてよ。歌恋の昔話聞きたい」
「いやですよ。碧ちゃんデリカシーないので」
「今日の歌恋ケチだね」
「ケチで結構ですよ」
今度は僕が二人の会話に水を差してみた。
僕が如月さんにメッセージを送ったとほぼ同時のタイミングで如月さんのスマホは鳴った。
「あ、ラントさんからメッセージ来たよ」
「見ないでください」
如月さんは呆れた顔を浮かべていた。
僕としては、山河内さんが中継をしてくれているから、疑惑が確信に変わりつつあり、ありがたかった。




